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第九話 守という存在

 守は幻造に敗れ、身体を乗っ取られてから精神の奥底でずっと眠りに入っていた。眠りに入ってから守はこれまでの事を思い返していた。


 最初に母親に肩を噛まれ、ゾンビに至った事。まだ人間だった頃のナナコとの出会った。そして初めての殺人。瑠璃との再会、別離。そして守は決意をした。


 ただ守りたかった。瑠璃からの愛を求めた訳でもなく、守自身にも瑠璃を愛していたという気持ちもなく、ただただ自分自身の生きる目的だった。


 瑠璃と別れた後、守は瑠璃を追いかける為にショッピングモールに来た。途中でナナコが仲間に入り、少し周囲に色が戻ってきた気がしていた。こんな自分でも生きていい理由を見つけた気がしていた。


 今ならわかる。守は生きる理由に依存していたのだ。それと同時に早く死にたかった。消滅したかったのだ。自分という存在の異常性、自分であって自分でないモノ。狂いそうになっていたところを瑠璃への想い、ナナコの存在によって繋ぎ止められていただけだったんだ。


 そして自分達のように自我があるゾンビとの戦い。ただゾンビと戦う訳ではない、自我は薄くても、意思のある存在。自分も同じ存在なのだと目を背けた。自分は違うんだって。結論からいえば同じだったが。全てを受け止める余裕が当時の守にはなかった。


 戦いが終わって、つかの間の平和が訪れた。そして未羽との出会い。出会いといっても未羽はけんじぃ達の駒として利用されただけだったが……。それでもこの出会いのおかげで守の心は一つ軽くなった。


 けんじぃ、遥との死闘の後、再び瑠璃と再会する事となった。


 天使。


 第一印象はそうとした言いようがなかった。人とは逸脱している程の美貌もあり、見慣れた守であっても見惚れてしまう程だった。


 そこで瑠璃は自分の力で周囲にいたゾンビを元の人間に戻し、そのまま守を連れ去った。


 久方ぶりの再会に喜びながらも戸惑っていた。どこか違和感のある瑠璃。それを感じつつも守る事に囚われていた守に出来た事は少ない。


 はっきり言ってここまで守はがむしゃらに動いてきた。彼は高校生であり、成熟した大人ではない。


『幼馴染の為に生きる』


 これだけが彼の生きる目的だった。この想いも偶然が生んだ呪いだ。心に刻まれてしまった呪いだったのだ。


 そこからも守は苦しみながらも戦い続けた。瑠璃の両親を殺し、瑠璃も失いかけた。瑠璃の母親を殺した時は自分の母親の姿が重なった。


 最期の言葉。


 自分の母親は何か想ってくれていたのだろうか?


 その後は、未羽、ナナコとも戦った。その中で呪縛というべき存在から、未羽との戦いを得て解放された。解放された時には、寂しかったり、悲しかったり、安心したり、苦しくなったり……。とても言葉で表せない気持ちになった。


 あえて一つ、言えるとしたら『喪失感』。


 それでも守が立ち止まる事はなかった。それに応えるように心の中に空いた隙間を埋めようとしてくれる仲間達。もはや家族だ。小さくなった瑠璃が娘。奥さんがナナコ。お姉ちゃんが未羽。あんなの疑似的なもので、お芝居みたいなものの筈だったのに、心は満たされていた気がした。


 こんな世界滅んでしまえばいい。


 欲にまみれた世界。こんな世界の為になんか戦いたくない。それが守の本心だ。


 だが、それでも彼は愛しい家族の為に戦う。


 昏い、昏い、海の底のように何も見えない世界。隔絶された世界。このままでは出る事が出来ない事はわかっている。抵抗も出来ない。


 だが、それ終わりを告げようとしているようだ。今は眠っているが、どこか遠くから守を呼ぶ声が聴こえてくる。


 守は目を開ける。昏い、昏い世界の奥底に一筋の光が守を照らしていた。


「ごめん。今度こそ間違えない」


 守は立ち上がった。そして光に向かって歩きはじめる。


 光に近づけば近づくだけ力が湧き上がってくる。


 これはみんなの力だ。みんなの力が守に集まってくるのを肌で感じると、心が温まってくる。


 まだまだ差し込んでくる光は細く、弱い。


 だけど守はこの光を掴んで見せる。帰りを待っている家族がいるのだから……。

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