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第十四話 守の中

 時は少し遡り、ナナコと未羽が『黒蛟』と戦闘を始めた頃。いつやってきたのか、守は真っ白い空間の中、一人で立ちすくんでいた。


(俺は何してるんだ?)


 意識が混濁しているのか、自分自身がどこにいて何をしていたのか、全くわからなくなっていた。


(くそっ、何か忘れている気がする)


 喉に何かつっかかったような気分になり、大きな溜め息を一つ吐く。頭を捻り、何とか思い出そうと思っているのだが、どう頑張っても何も思い出せそうになかった。


(ハァ。それにしてもここはどこだ?)


 思い出せないのだから仕方ない、と割り切り、周囲を見回す。どこを見ても真っ白に覆われた空間。あまり深く考えると頭がおかしくなりそうだったので、とりあえず何か行動に移す事にした。そして、重い足取りではあるが、一歩踏み出した。


 それからどれくらいの時間が経ったのだろうか?


 どこまで歩いても景色は変わらず、周囲は真っ白なままだった。


「おーーーーーい!!」


 時折大声で叫んでみるが、誰も反応しない。


「困ったな。どうしたらいいんだ……」


 溜め息を吐きながら、そのまま大の字になって倒れこむ。そして守はここで恐ろしい事に気付いてしまった。


「俺って誰なんだ……?」


 当たり前に出てくる筈の名前がわからない。母親の顔を思い出せない。どこに住んでいて、どんな友達がいたのかもわからない。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 気付いてしまうと途端に今の状況に恐怖を感じ始める。大声で叫び、地面を叩き、走り回ってもみた。だが何をしても状況に変化はない。


「俺って何なんだ……? どうして何も思い出せないんだ? ……何で俺は何も思い出せない筈なのにこんなに悲しいんだ」


 いつの間にか流れ出してきた涙が頬をつたい、地面へと落ちていく。


 その場で蹲るように座り込んでからどれくらい経っただろうか……。相変わらず真っ白い空間の中、守の耳に僅かながらに変化があった。


「――――ぁくん、――――まぁくん、ねぇまぁくん!!」


 音量を一気に上げたみたいに急に大声で叫ぶ声が守の耳元に届く。びっくりしてしまった守は思わず飛び上がってしまった。すると、相手も驚いたのか、お互いに距離を取ってしまう。


「びっくりしたよ。まぁくん急に飛び上がるんだから」


「まぁくん?」


 どこか懐かしいその響きに頬が緩みそうになってしまう。だが、今はそんな感傷に浸っている場合ではない。それより目の前にいる人形みたいに整った少女だ。


「君は誰だ……?」


 その台詞に一瞬寂しそうな表情になる少女を見て、守の心はズキンと痛んだ気がした。だが、そんな表情も一瞬で元の笑顔に戻り、守の言葉を気にした様子もなく、守るへと近づいてきた。


「私は瑠璃。清華 瑠璃だよ」


「清華……瑠璃」


 どこか頭の隅っこに引っかかるその名前に、すがるように手を伸ばしてしまった。それを瑠璃は嫌がる素振りを見せずに優しくその手を包み込むように握ってくれた。


「うん、そうだよ。私は瑠璃。まぁくんには『るぅ』って呼ばれてたんだからね」


「るぅ……。ごめん、俺には君が誰だかわからないんだ」


「仕方ないよ。これもあいつらのせいなんだから。繋がった事で全部わかったの。おじい様の事も、それに遥さんの事も……」


 守には瑠璃が何を言っているのかわからなかったが、何となく瑠璃にとって悲しい事があったのは想像出来た。


 本来であれば、こんな初対面のような相手を信じるべきではないのだが、守は違った。根拠はないが、言っている事を信用してもいい、直感だが、守はそう感じ取っていた。


「なぁ、ここはどこだかわかるか?」


 ずっと彷徨ってきた守にとって、この答えが返ってくるとは思っていない。だが、初めて起きた変化に、守はどうしても聞いてしまう。


「ここはまぁくんの中だよ」


「俺の……中?」


 瑠璃の言っている事がよくわからなかった守は首を傾げてしまう。


「そう、ここはまぁくんの、うーん、精神世界って言ったらいいのかな? ちなみにここが真っ白なのはまぁくんが全てを忘れてるからだよ」


 荒唐無稽な話だと守は思った。


 だが、瑠璃の瞳は真剣で、簡単に否定出来る雰囲気ではない。それに、今の守は目の前の人物どころか、自分の名前すら思い出せないのだ。おかしいと思っても信じるしかなかった。


「それじゃあ、全てを忘れてるって事なんだけどさ、どうすれば俺は全てを思い出せるんだ?」


 つまりは全てを思い出せさえすれば、今の状況を変えられる。そう言ってるように感じた守は率直に瑠璃へと尋ねてみた。


「えっと、それはね――――」


 聞かれる事を予想していたのか、特に考える様子も瑠璃が見せなかった。そして瑠璃は握っていた守の手をスッと離す。


 そして――――


()()()()()()()()()()


 そういうと、瑠璃の右手が守の胸元へと飲み込まれていくのであった。

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