第二十二話 家族
「え、何これ?」
最初に声を発したのは未羽だった。目の前の美少女はそんな未羽の言葉なんて気にせず、目を開けると周囲を観察する。そして守を見つけるとそのまま勢いよく抱き着いた。
「パパ!!」
「は?」
地獄も凍り付く程冷めた声を発したナナコを見ても全く気にしない瑠璃は、守から離れると今度はナナコに抱き着いた。三人はどうしたらいいかわからず、固まったままだ。
「ママ♪」
「マ、マ、マ、マ、ママ!? 守がパパで私が……ママ」
一瞬でどこか違う世界へと飛んで行ってしまったナナコ。今までの怒りはどこへ行ったのか。ただただ、瑠璃を抱きしめ返していた。
「……るぅ、どういう事だ?」
「パパ、なにがどういう事、なの?」
何もわかっていない様子の守は次の言葉が出なかった。すると未羽が瑠璃の頭を撫でながら問いかける。
「瑠璃ちゃんは、何で小さくなっちゃったのかわかるかな?」
未羽に撫でられて嬉しそうな顔をする瑠璃。
「るりはるりだよ、なの!」
どうやら記憶まで年齢相応に戻っているようだった。しかも守をパパ、ナナコをママとして認識している。
これには守の血が影響していた。瑠璃の中には今、守の血が混ざっている。その影響で守の血が流れている守、ナナコ、未羽を本能的に家族として認識しているのだ。
「どうしたものか……」
守は頭を抱えて悩みだす。そもそもなぜ瑠璃がこのサイズになったかが全くわからないからだ。
すると瑠璃がナナコから降り、守へと近づいていった。
「パパ、悪い人をやっつけるなの!!」
「悪い人?」
守が思い浮かんだのは眼鏡男とけんじぃ、そして『あの方』だ。今回の戦いも結局は現状を打破出来ず、むしろ手のひらの上で転がされた印象すらあった。
なぜ瑠璃が突然そんな事を言い出したのかはわからなかったが、倒す事に異論はなかった。
「そうなの!」
「るぅは悪い人がどこにいるのかわかるのか?」
瑠璃に視線を合わせて訊ねると、瑠璃が守によじ登り、抱っこされる。
「るりなら悪い人がどこにいるかわかるなの!」
瑠璃はそう言いながらある一点に指をさす。どうやらその先に悪い人がいるようだ。こちらの世界に戻ってきたナナコと未羽もつられて指を指している壁の方を見た。その方角から三人とも嫌な匂いは感じ取れないが瑠璃には何か感じる事が出来ているようだ。
「るぅ本当か?」
「もちろんなの!!」
その瞳は嘘を付いているようには思えなかった。守は未羽とナナコの方を見る。二人とも真剣な表情で頷いた。
「わかった。そしたらるぅ、そこまで案内してくれるかな?」
「わかったなの!」
守から飛び降りた瑠璃は元気よく走り出す。
「ちょっと待て! 一人で行ったら危ないぞ!!」
「ならパパとママが手を繋いでくれたらいいなの!」
嬉しそうに戻ってくるとまず守の手を握りナナコのところまで引っ張る。そしてナナコのところに辿り着いてそのまま逆の手でナナコの手を握った。
すると後ろから不満顔の未羽が瑠璃の前へと顔を出した。
「ボクだけ仲間外れなのかなっ!?」
「そ、そんな事はないなの! ネェネもパパかママと手を繋ぐなの!!」
焦った様子で提案をする瑠璃、それを見て三人が笑い出した。
「ど、どういう事、なの! 何でみんな笑ってる、なの!?」
「いや、何でもないよ。じゃあ悪者退治に向かうか」
「そうですね、あ・な・た♡」
「あれ!? そうなるとボクもまもパパにナナママって呼ばないといけないのっ!?」
「今まで通りでいいだろ? 未羽は未羽だよ」
「え、えっと……まもにぃありがと」
照れ隠しするように入ってきたドアを蹴り飛ばすとそこには行きと同様にゾンビ達がこちらに向かってきていた。
「ハッ、こんなもんで俺達が止まるかよ」
「そうね。この程度で私達、家族が負ける筈ないわ」
「るりも頑張るなの!!」
「そしたらネェネも頑張ろうかなっ!」
それぞれが走り出し、ゾンビ達を始末していく。その姿に迷いはない。きっとこの四人なら乗り越えられる。そう全員が思っているのであった。
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