第十八話 未羽の実力
「未羽、そこをどくんだ」
守はいつでも動き出せる体勢で未羽へと問いかける。だが、未羽はどこ吹く風といった表情で守を見ていた。
「ナナねぇとボクを置いてったまもにぃの言う事なんて聞いてあげないよーだ!」
未羽の右手には今は懐かしき木刀が握られていた。その木刀を見て、守の表情が緩みそうになったが、今、目の前にいる未羽は敵だ。それも守に気配も感じさせずに目の前まで来られる程のだ。
(何かカラクリがあるのか?)
未羽の姿をよく見て見るが、特に変わった様子はない。ただ変わったとすると生きている匂いが無くなった事位だ。おそらくあの戦いで完全にゾンビになったのだろうと守は推測した。
「未羽、俺は二人のところに行かなきゃならないんだ。邪魔するなら力づくでどかすぞ」
守が睨みつけても未羽は怖がる様子もなく、あっけらかんとしている。
「出来るもんならしてみてよ! あの頃のボクじゃないんだからねっ」
ニコッと笑いながら木刀を構えて守へと走り出した。
「速い! だが」
守は振り下ろされた木刀を腕で容易く防ぎ、力で木刀ごと未羽を吹き飛ばした。
「うわぁ! なんて馬鹿力? これじゃゴリラだね、ウホウホッ」
空中でゴリラの真似をしながら体勢を整えると、猫のように静かに着地する。弾き飛ばされた未羽にダメージはない。守も木刀で殴られた程度ではかすり傷一つ負う事はない。だが、ここで守は疑問に思う事があった。
(俺の力で木刀が折れなかったのは何でだ?)
今の守であれば鉄板でも簡単に貫く事が出来る。いくら受け流したとしても木製の木の棒程度へし折れると思っていた。
「あれあれ? この木刀が折れなかったのが不思議そうだね。けど教えてあげないよー!」
表情から見抜かれた守は自分自身に油断している事に気付いた。未羽は守にとって自分より下であり、守るべき対象だと決めつけていたのだ。
守は甘えを捨てる。未羽の後ろでは瑠璃とナナコが今も死闘を繰り広げているからだ。
「まもにぃは誰の為に戦うの?」
未羽の後ろばかり注目していたのがバレたのか、未羽から予想外の質問が飛び出て来た。
「そんな事決まっているだろ? るぅに決まっ――――」
「ボク達は仲間じゃないの?」
「っ!?」
「ねぇボク達って仲間じゃなかったの?」
先程までのへらへらしていた表情はどこにいったのか、真剣な表情で守を見つめている。
守にとってナナコも未羽も等しく仲間だ。二人とも守の血が混ざっている為、他人とは思えず、出来るなら戦いたくはない。
だが、それでも守は瑠璃を守るのだ。自分の意思とは違うところで守は縛られている。
「ナナコも未羽も仲間だ。だが、みぅだけは俺が守るんだ」
「まもにぃのバカ!!」
ナナコの姿が守の目の前から消える。未羽を見失った守は周囲を見回したが、未羽を見つける事が出来ない。
右側から物音がし、振り向いた瞬間、左側から突如衝撃がきた。
「かったいなぁ! 木刀持ってるボクの手がじんじんしてくるよ!!」
反射的に左腕を振り回すも既にそこには未羽はいなかった。
「どこ見てるの? 鈍間なまもにぃ?」
守の真後ろに立っていた未羽に守の背筋からは冷や汗が流れて来た。そこにいたのは瞳を真紅に染め、銀色に変化したポニーテールを靡かせた未羽の姿だ。木刀は相変わらず守に攻撃したのにも関わらず折れていない。
未羽は完全に『覚醒』していた。
『覚醒』した未羽の特性である『身体強化』は完全に覚醒した事でその範囲が身体だけに留まらなくなっていた。神速ともいえる速度アップに耐えられるように身に着けている物も次第に『強化』されているのだ。
その中でも守からもらったこの木刀は二十四時間、常に持っている為、その強度は日に日に増していた。
今では未羽の『覚醒』に合わせて暗く、黒く染まっていったのだ。
「ボクがナナねぇの為にもまもにぃの目を覚ましてあげるっ」
再び目の前から消えた未羽を守は全く目で追いかけられていない。衝撃がくる度に反撃をするが、その時には未羽は遠く離れていた。流石に守の『全身硬化』を貫く事は出来ないが、守に打開する手段がない。
為すがままに殴打を受け続ける。速度を更に上げていく未羽に対して守は亀のように身体を丸め、攻撃に耐えるしかなかった。
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