第一話 あの時のゾンビ
第二章開幕です。
雲一つない、晴れわたる空。荒廃している街並み。家の中の棚は倒れ、店の品物は散乱し、窓ガラスは割れている。ホンライ車道を走っている筈の車はナニかを避ける為に柱にぶつかったのか、煙をあげて動かなくなっている様子がそこかしこに溢れている。
喧騒に包まれていたかつての街はそこに存在していない。聴こえてくるのはゾンビ達のうめき声と、時折響く生存者の悲鳴だけだった。
かつて多くの人々が通勤、通学などに利用していた歩道を利用しているのはゾンビ達だ。彼らは目的地もなく、そこかしこにフラフラと歩いている。そんな中、キビキビと歩いている一風変わったゾンビがいた。いや、今は止まっているようだが。
「アァ……ゥゥ…………」
そんな一風変わったゾンビ、守に抱き着いているのは裸体を露わにしている女性ゾンビだ。勿論、守が脱がした訳ではない。
(どうしてこうなった……?)
このゾンビには見覚えがあった。そう、あの豪邸で守が初めて人を殺した時の女性だ。
(この女性からは生きている匂いがしない。ゾンビなのは間違いないな)
ただ、不思議な事にこの女性ゾンビには守が噛んだ時の噛み痕や、あの男に暴行された痕すら残っていない。肌の色だけは死人のようだが、シミ一つないその肌はまるで生きていた時のように、いや、生きていた時以上に美しい肢体を守に晒している。ちなみにどことは言わないがぷるんぷるんだ。そして、恥ずかしくてそれを守は直視する事が出来ていない。あの時は、そういう状況じゃなかった為大丈夫だったが、本来は初心なのだ。
(見ない、見ない。あれ、それにしてもどこにも傷がない? もしかして俺みたいに傷が治るのか?)
見ない、見ないと決めつつ、チラっと見てしまう守。男の性だった。
ちなみに、幼馴染との決別から数日が経っている。あの戦闘で、守は銃で撃たれていた。だが、既に撃たれた傷は治っている。それ以外にも、最初に噛まれた肩の傷や、まだ生きていた頃にあった古傷まで消えていた。
そこまで異常な事が起きていれば、守も自分の身体の変化に気付く事が出来た。だから守に噛まれた女性ゾンビが守と同じように傷が塞がるのかもしれないのはおかしな話ではない。なお、普通のゾンビは傷が治っていない。傷を負った部分は腐っていくだけだ。
(えっと、これはどうしたらいいんだ……?)
最初、守がこの女性ゾンビに気付いた時にびっくりはしたが、幼馴染を追いかけているところだった為、そのまま無視するつもりだった。守は一刻も早く、幼馴染の次の居住地の安全を確保したいのだ。
守はこの前の戦いにおいて、決別する事を選んだが、守る事をやめた訳ではない。こっそりと遠くから幼馴染にとって害になる存在を消していく方向にシフトしただけだ。決してストーカーではない。守はそう思っている。
話が逸れてしまったので話を戻すが、無視するつもりだったので、そのまま歩いていると、すれ違う寸前で抱き着かれた。
最初は襲われたのかと思ったが、そんな様子はなかった。むしろ恋人との再会を喜んでいるかのような様子で(無表情だけど)くっついたまま離れなかったのだ。
これが知らないゾンビであったなら頭部を粉砕して引き剥がすところだったが、この女性ゾンビにはとてもじゃないがそこまで出来なかった。
「…………」
「…………」
無言が続く。
「ナ、ナァ、ハナシテクレナイカ?」
「…………」
名残惜しそうにしぶしぶ守から離れた女性ゾンビは、離れたあとも、じっと守を見つめ続けている。
(この人は喋れないのか。俺も最初、話せなかったもんな。てことはこの人もいつか喋れるようになるのか?)
「エ、エット、アナタハドウシタイノダ?」
女性ゾンビに問いかけると、するするっと動き出し、再び守に抱き着いた。
(そういう事じゃない!!)
どうする事も出来ない状況に守は再び動く事が出来なくなるのだった。
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