第十話 逃がした代償
振り返る事なく部屋から出ると、守は近くにあった家具を寄せる事でドアを開けられないようにした。これならゾンビ達に見つかる事もないので食べられる事はないだろう。それに、あの女性はゾンビになったとして、外に出られなければ、人間に襲い掛かる事もない。
そこまでした理由は、あれ以上あの女性を汚したくなかったからだ。男に乱暴され、死ぬ寸前に追い詰められても人としての優しさを忘れる事がなかった素晴らしい女性を守は尊敬をしていた。ゾンビと気付いてからも人として接してくれただけで、守の心は救われていたのだ。
(もうここに用はない)
豪邸の中には、死の匂いしか残っていなかった。ひとまずの目標を達成した今、守は、いったん幼馴染の家へ向かうか考えていた。
(戻るべきか、それとももう少し周辺の安全を確認すべきか)
周辺の家には他にも生きている匂いがする。中には先程の豪邸ほどではないが、嫌な匂いがするところがあるからだ。
(本当なら他も潰したいんだが……)
嫌な予感がする。さっきから心につっかかるこの妙な胸騒ぎが止まらないのだ。しかもその胸騒ぎのする方向が幼馴染の家。
(戻ろう)
幼馴染の家へと、全力で走り出す。守は幼馴染を守る為に生きているのだから。どちらを選ぶかは自明の理だった。
時は守が女性と会っていた頃へ遡る。
「くそ!一体どうなってやがるんだ!!」
車の中で唾をはきながら悪態をついている男。運転席には執事が乗って、ゾンビを轢きながらある場所へと向かっている。自衛隊が使っている装甲車をさらに改造した特殊車両はゾンビを轢いた程度ではびくともしない。
「鉄パイプのようなものが入り口に突き刺さっているのが確認出来ました。おそらく誰かが旦那様を陥れようとしたのでしょう」
「そんな事はわかっておる!!だがどうやってあれだけのゾンビがいてそんな事が出来るのだ!?」
「…………」
執事にそれを答える事は出来ない。まさかゾンビがそんな事をしてくるとは二人とも思っていなかったからだ。
「これからどうなさいますか?」
「……予定通り、清華家に向かえ。こうなってしまっては新しい拠点が必要だ。お優しいあの家なら泣きつけば中に入れてくれるだろう。入ったらこっちのもんだ。男は殺せ。女は……わかってるな?」
「もちろんでございます」
まだ見ぬ清華家の女達の事を考えて男は下品な笑みを漏らす。
守が見逃してしまった代償は大きかった。
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