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練習

 「強くなりたいか!?」


 学校の演習場に俺とタマ、そしてミリアが集合して修業を始めるのだが、雰囲気が大切だと思い高らかに宣言したが、ミリアは首を傾げてキョトンと可愛らしい表情をしている。


 「……う?うん」


 可愛らしい顔だが、態度は全くの乗り気などではなく何が起きているのかが分からない様子だ。


 「違う!こういう時はおー!!って言うんだ。強くなりたいか!?」


 「おー!!」


 今度こそミリアが元気よく拳を上げて返事をしてくれたので修業に入れる。


 「良し。完璧だ」


 「ミリア、馬鹿に付き合う必要は無いにゃ」


 予想以上の辛辣で冷めきった声を出すタマの一言で俺のテンションゲージは冷めきってしまう。


 「タマは分かってないな~。修業を始める時は少しでも楽しい環境を作るのは大切だぞ」


 今から始めるのは……ミリアには想像以上に酷な物になるだろうし、雰囲気を保つのは大切な気がする。


 「分かったにゃ。ふざけて暴走しないことを祈るにゃ」


 「何を分かっているのかを懇切丁寧に説明して欲しいけどな!」


 俺の黒歴史をほじくり返すあたり、何も理解はしていないようだ。

 俺とタマの言い争いを聞いていたミリアがクスクスと微笑を浮かべていたので少しは気分が紛れたのかもしれない。


 「【変幻自在:武装・雁鉄】」


 変幻自在を使用して、土魔法を纏う事で最高峰の防御力を誇る強さを手に入れた。

 俺の姿を見てミリアは口を半開きにして、放心している。


 「この姿は鉄壁と言えるほどに防御力を上げた纏いだから安心して全力で挑んできても大丈夫だ」


 「その姿になるまでが大変だったにゃ」


 「五年以上も必要だったな~」


 変幻自在のlevel3は強力なのは誰の眼から見ても分かるが、”纏い”を使うには全ての魔法のレベルを3以上に上げる必要があるのだ。

 その為、ミリアたちと冒険者家業を行いつつ、密かに練習を繰り返して計七年の月日で魔法のレベルも上げつつ、纏いも完璧に扱えるようになったのだ。


 「……アレンは本当に凄いね」


 「ミリア?」


 タマと懐かしい思い出で笑い合っていると、ミリアが何故か少しだけ顔を俯かせ、悲し気に瞳を伏せる姿が見えた。


 呼びかけると俺達がいることを忘れたかのようにハッと目を見開き、誤魔化す様に両手を振っている。


 「え!?な、何でもないよ!練習しよう!」


 鞘に入れたままで剣を持つ。

 やる気満々の姿が見えるので気にするだけ無駄か。

 纏いも長時間使うのは怖いし、今はミリアを強くすることだけを考えよう。


 「そうだな。幾らでも掛かってきていいぞ。その代わり、負けても勝ってもその後に反省会をするから」


 「分かった!」


 俺も剣を構え、ミリアを待つ態勢に入ると直ぐに突撃し地面を削り取りながら突進が始まる。

 まるで、闘牛にも及ぶその突進力は確かに恐怖の対象だが…余りにも攻撃が直線的過ぎる。


 纏いで岩石を囲んでいるのを横っ腹の一点に集中させミリアの攻撃を受け止め、反対に横っ腹に剣を叩きつけることで一撃で試合は終了した。


 「……うそ」


 鞘に入れたままなので痛みも無いだろうし、ミリアも剣聖で耐久力も高いので無事ではある筈だが、長年何度も対戦して来た中で俺に一撃で倒されることは今までの経験上は初めての事だ。

 普通の剣でお互いに対等な立場でさえ互角の戦いが行えるのだから能力を俺だけが使えば勝てるのは必然だが、ミリアが弱いわけではない。

 生身でも一発で負けるのにはきちんとした理由がある。


 ミリアに欠けているのは技術だ。

 一発、一発は重く致命傷にもなり得るが、当たらなければ意味が無いのだ。

 今までは驚異的な破壊力だけで乗り越えられた壁は今度は技術も身に付けなければ上の人達には勝つことは出来ない。


 「ミリア、反省会をしよう」


 俺が答えるのは簡単で楽な道のりかもしれないが…俺はミリアに甘えさせる関係を求めている訳でも無いし、ミリアもまた求めていないと断言できる。

 剣を腰に掛けミリアに近づくと、慌てた様子で突然立ち上がったミリアが笑みを零す。


 「ちょ、ちょっと待って!もう一戦だけお願い!」


 今の出来事が余程ショックだったのか、もしくは受け入れられないのかは分からないが再戦を求められてしまう。

 反省会をした方が効率的に良い気がするが、ミリアの感情を考慮すれば動揺するのも無理はない。


 「分かった。反省会をする気になったら言ってくれ」


 「う、うん!」


 俺が――――求めている関係に辿り着くためにも少しでもミリアを成長する手助けをしよう。


 ◇

 サーニャside


 「今日は小娘二人はおらん。儂とサーニャで修業をするぞ」


 「は、はい」


 何時もは無気力でやる気を出さない師匠が自分から修業をするぞと伝えてくるのは初めての出来事だ。

 間違いなく、私が敗北したのを師匠が怒っているに違いない。


 「私もいるよ!わたしも!」


 私の隣で跳躍しながら主張するサレアの姿を見て少しだけ師匠の怒りゲージも減った気がする。


 「分かっておる。サレアは引き続き風魔法を当てる練習をしておけ。まだまだ甘いからのう」


 「今日は大丈夫だもん!」


 師匠の言葉に掴みかかれるのはミリアとサレア、ママだけだ。

 私であれば師匠の言葉に反対した瞬間に半殺しにされて二度と反抗できないように痛めつけられるに違いない。


 「サレア、私も当てるのに何日も掛ったからサレアも頑張って。それができるようになったら次の練習にいけるから」


 「うん!サーニャお姉ちゃんに負けないよ!」


 元気よく満面の笑みを浮かべたサレアが的あての方に走っていく姿を見て思わず微笑を浮かべてしまう。


 「ところでサーニャ、お前は何で敗北したんじゃ?」


 和やかな雰囲気は一瞬ににして霧散し、師匠が私を鋭い眼光でとらえながら正直に話せと訴えかけている。

 生唾を飲み込み、額から冷や汗が流れながらも乾ききった口をゆっくりと動かす。


 「あ、あの、見たこともない魔法を対処できずに…負けました」


 「……ハア」


 師匠の深いため息に私は反射的に身を竦めてしまう。

 今のため息は私が何度も成功できず説明させたときに出たため息に近い。

 その時は体で覚えろと半殺しにされかけたのを覚えている。


 「す、すみません」


 「サーニャ、魔導士にとって最も屈辱的な敗北は――――魔法で負けることじゃ」


 「……はい」


 言い返す術もなく静かに首肯するしかない。


 「接近戦で負けようと、剣術で負けようと魔導士にとってどうでもいい。じゃが、魔導士…ましてや大天魔導士が魔法で負けるのはあってはならん」


 「そうです」


 「…お前が敗北するのは修業を付けとる儂が不甲斐ないからかのう」


 師匠が少しだけ気落ちした姿を見せて私は慌てて声を荒げてしまう。


 「ち、違います!師匠は凄い人です!」


 「本来であればもっと厳しい修行をさせたいところじゃがクレアに止められて制限してたが」


 「ママに止められても大丈夫です!師匠についていきます!私に修業をさせてください!」


 「ほう?」


 師匠が悪戯っ子の様な笑みを浮かべ、まるで全てが上手くいったといわんばかりの表情で全てを悟ってしまう。


 「あ」


 急いで口を両手で抑えるが、もう意味はなさないだろう。


 「サーニャの口から言質はとった。今から本気で修業をするぞ。儂はお前を殺す気で魔法を放つ。全てを防ぎ儂に一撃を食らわせてみろ」


 ……ああ、やばい。


 「死んでくれるなよサーニャ。お前を殺せば恨まれるからのう。死なん程度に防いでみせよ」


 師匠の眼が本気だ。

 私の人生は――――今日で終わる予感しかしない。

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