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八英傑

 「ミリア、悪いけど対戦は少し待ってて」


 「え!?何処に行くの?」


 「あの人の所にちょっとお礼を伝えに言って来る」


 目で話すことはないのかと言わんばかりの圧力を感じるので、俺も演習場から跳躍し観客席に降り立ち、少しずつ歩みを進める。


 「アレン、一応戦闘の準備だけはしておいた方がいいにゃ」


 服の中から小声で何時もより真剣な声が聞こえるが、俺も薄々だが話し合いだけで平和的に解決するのが最も助かる道だが、そこまで穏便にことが進むとも考えていない。

 今の所は殺気は見えないが…達人の中には殺気を隠して過ごせる人も居るのは知っているので警戒は怠らない。


 「分かってるよ」


 自分でも緊張しながら近づくと目の前の女性は少しだけ表情を柔らかくする。


 「私の意図に気付いて直ぐに来れるのは助かるわ」


 透き通る声でありながら妖艶さも含み、そのミリアよりも大きい胸に視線が引き寄せられそうになるのを必死に我慢しながら女性と目を合わせ続ける。


 「先日に助けてくれたことも含めてお礼を言いたかったので丁度良かったです。終えが暴走した時に止めて頂いてありがとうございます」


 「別に構わないわ。それより、こちらの話をしたいのだけど良いかしら?」


 本当に気にしていないような形で何事もない平穏な謝罪は終わるが…この人の言葉はおおよその見当は付く。

 入学式の後の二人組の話を聞けば自ずと答えが出てくるのだ。


 「……はい」


 「私の派閥に入りなさい。入れば将来の安定までえ全てが約束され他の人達に至らないちょっかいを掛けられる心配もない」


 やはり、派閥の勧誘か。

 【八英傑】には派閥が存在しその勧誘をされるというのは話に聞いていたが、予想以上に早い話だ。


 「へえ。派閥なんてあるんだ」


 「へ?」


 背後からミリアの声が聞こえ慌てて振り返ると、当たり前の様に俺の背後に立って興味津々な表情で佇んでいる。


 「あら、貴方は剣聖の子だったかしら。……へえ、才能はかなりあるみたいね。もし、貴方が一人では嫌と言うのならその子も連れて来ても構わないわよ」


 いつの間に背後にいたのかは分からないが、余計に話がこじれそうで怖いです。

 だが、俺は派閥などの面倒な関係は御免なので諦めて欲しいのだがその後は余計なトラブルに巻き込まれそうな気もするんだよなー。


 「――――ちょっと待ってもらおうか!!」


 思案していると突如として俺の隣に人が降ってきた。


 「え…何処から来たんですか?」


 「うん?空から来たぞ」


 「空から!?」


 この人って超人ですかね?


 「そんな事はどうでも良い!そこの気合とやる気があるお前と勝負がしたい。派閥とやらに入ると簡単に勝負が出来ねえとかで面倒なんでな。俺と最初に勝負してくれ」


 ……何を言っているのかが全く分からないのだが、誰か教えてくれませんかね?


 「あ、この人もアレンの暴走を止めた人だよ」


 ミリアの一言に全てに察しが付いて直ぐに頭を下げた。


 「先日は助けて頂いてありがとうございます」


 「良いって事よ。と言う事で、俺と勝負をしてくれ」


 朗らかな表情で受け流したが戦闘狂の様な思考で勝負を挑まれるのだが…どう体操するのが正解か……。


 「貴方、急に割り込んで邪魔をしないで貰えるかしら?」


 「邪魔なんてしてねえだろ。俺は戦いたいだけだ。派閥に入ると戦闘とか面倒だからな。勝負が終わったら話せば良いじゃねえか」


一理あると思ってしまったが、女性の方はこめかみに手を付け疲れ切った表情を浮かべる。


 「貴方の場合、それで派閥が完成しているのでしょう?負けた人は入ってるのを派閥の勧誘と呼ぶのよ」


 女性の話にも一理あると思えてしまう。

 この人はまだ初対面で殆ど関りは無いが、隣にいるだけで安心感と頼もしさも感じられ付いて行きたいと思わせるリーダーシップが滲み出ている。


 「それはこいつ次第だろ。俺と先に戦わせてくれ」


 「何を言っているのか分かっているの?派閥同士の取り合いに貴方が後から手を出した形になるけど大丈夫なの?」


 二人の言い争いが過熱しているが、俺は【八英傑】を全員賭すことを目標に学園生活を送ろうと考えていますとは今の状況では口が裂けても言えない。


 「ミリア…そろそろ戻っても大丈夫だと思う?」


 「……?良いと思うよ。私と対戦する約束したし」


 良し、ここはミリアの意見を参考にしよう。


 「あ、あのー。今から予定があるので今日の所は」


 「「黙って待ってろ(なさい)!!」」


 「す、すみません!」


 この人たち、俺が考えている何倍も怖い。

 強くて怖いのが一番駄目だというのを身近で学んでいるので今日は静かに帰りたいのだが、帰れる雰囲気ではない。

 派閥争いというのはこの上なく面倒だなぁ。


 「あのー、勝った方がアレンを勧誘するのじゃダメなの?」


 ミリアがおずおずといった形で手を挙げて発言するが珍しくまともな事を言っている。

 しかし、二人の表情は晴れない。


 「俺達が戦えばその下の奴らも争うことになる」


 「派閥の人数では私とこの馬鹿男が一番多いのよ。学園で戦争を起こしても良いのなら受けて立つけれど」


 「絶対に駄目ですね」


 俺の勧誘を巡って学園で戦争が起きるなど言語道断だ。

 もう、ここまで来れば俺がはっきりと喋らないのが駄目な気がしてきた。


 「あの!俺は何処の派閥にも入る気はありません!」


 きっぱりと告げると隣のミリアから拍手が起きて、いやいや~と後頭部を掻きながら照れると目の前から殺気が漏れ出ているのは女性の方だ。


 「へえ。断るという意味を理解して言っているのかしら」


 殺気だった彼女の表情に反射的に身が竦み、全身から冷や汗が流れてしまう。

 やばい、やばい、やばい、やばい、やばい、やばい。


 ――――想定していた杯以上の強さを持ち合わせている気がする。


 「――――私の従者に何か用かしら?」


 「へ?」


 俺の事を従者と呼ぶのは唯一人だ。

 背後を振り返ればサーニャが優雅に佇み、その隣にはファインもいる。


 「あら、貴方は……弱い大天魔導士だったかしら」


 彼女の言葉にピクリと眉が動き、青筋を立ててしまう。


 「キャリン、俺に譲れよ。全員と戦いてえ」


 「戦闘狂のユウゴは静かに壁でも殴るのがお似合いだと思うけど」


 二人が言い争いをしているが、先程の言葉を俺は聞き逃していない。


 「キャリンさんですよね?」


 一歩前に足を進め、怒りの元凶である一人と顔を会わせる。


 「ええ、そうだけど。もしかして派閥に……」


 キャリンさんも俺の殺気に気付いてくれたか。

 俺は大抵の事では怒ることはないと自負している。

 自分が馬鹿にされようが、傷付けられようが大した傷ではないし、馬鹿にされるのであれば自分が弱く見えるのが駄目だと感じている。


 傷つけられるのは俺が不甲斐ないからだと思えるが――――この三人を知りもしない人に勝手に罵倒されるのだけは我慢できないようだ。


 「誰の事を弱いと言ったのか今度ははっきりと言って貰えますか?」


 「フフ。怒らせたかしら?けれど、事実でしょう?前回の戦いを見る限り余り強そうには見えなかったわ。その子で大天魔導士なら私が魔導士なのが不思議なぐらいに」


 「何も知らないお前如きがたかが一戦でサーニャの事を知った風な口を聞くんじゃねえよ」


 「……アレン」


 俺の言葉に流石にキャリンも目を細め、殺気を更に膨らませる。


 「あらあら、暴走して私の強さに気付かなかったのかしら?」


 「貴方が強いなら証明して見なさいよ。アレンの事は殺さないつもりだったから手加減したけどあんたには手加減は必要ないみたいだから」


 サーニャは俺の前に立ちはだかり、手をかざして警告する。


 「おいおい、俺が先に戦うって」


 「アレンと戦いたいなら私を倒してからだよ」


 ユウゴに対してミリアが剣を向け対峙する。


 「ほう?お前か…中々に気合とやる気があるみたいだな」


 「格の差を教えてあげようかしら」


 ――――とんでもない勝負が始まる気がする。

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