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全員の様子

 昨日のセルシィさんとの修業を経て少しずつ日常が変化して来た。

 まず、エレイナとカリンが毎日俺の家に来てセルシィさんに修業を付けてもらうようになったことだ。

 二人は不思議な事にやる気に満ち溢れ、暴君と言っても過言ではないセルシィさん相手に何度も質問し挑み続けている。


 二つ目として学校内でファイン、カリナ、メイの三人が演習場でミランさんと勝負を始めたのだ。

 何が目的なのかは分からないが、三対一でミランさんに何度も倒されながらも懸命に戦い続けている姿を見て感動しそうになる。


 カリンとサーニャも学校内で一対一を繰り広げているし、エレイナは一人で黙々とセルシィさんに教えられた技術を身に付けようと努力している。


 因みに俺は先程からミリアが肩を揺すってくるので非常に面倒だ。


 「アレン!聞いてる!?」


 「悪い。全然聞いてなかった」


 正直に答えたのだが、サレアとはまた違う我儘お姫様のお気に召さなかったようで軽く頭を小突かれる。


 「だから、私と勝負ししようよ!」


 今までの当たり前の日常に思える光景だが、やけにミリアがこだわっているのだ。


 「俺も何度も伝えるけど変幻自在のlevel3は使わないって」


 「私はその状態のアレンに勝ちたいんだよ!暴走しない程度で戦おうよ」


 変幻自在のlevel3は相当強く、使用方法を間違えれば危険な物には変わらない程に恐ろしいのだ。

 既に大勢の人にバレているので隠しているつもりはないが、普段から使おうとは思っていない。


 「勝てないって」


 「分からないじゃん!皆も頑張ってるんだし、アレンも一緒にやろうよ」


 確かに最近は誰もが熱中して修業している姿が見受けられるが心境の変化でもあったのだろうか?

 カリナなんて修業なんて汗を掻くから嫌だーって最初の頃は言っていたのに今では真剣な様子でミランさんの攻撃を受け止めようと躍起になっている。

 今の所は一撃も受け止められてないが。


 「ミリアもセルシィさんに挑めばいいだろ?強くなれるしカリンとも一緒に戦えるし一石二鳥だ」


 「私はアレンと戦いたいよー」


 この我儘娘は一度決めたことは曲げない主義のようだ。

 先程から言葉では無理だと悟ったのか身体を押し付けるお色気作戦に変更している。

 これを無自覚に行っているので質が悪い。

 男の子はそんなに単純じゃないんだからね!


 「別に俺じゃなくても違う人に挑んで来いよ。ミランさんも簡単に協力してくれると思うぞ」


 普通に戦うのであれば俺も普通に承諾するが、level3の変幻自在を使用するのであれば話は別なのでお引き取り願いたい。

 チラリとミリアを横目に見つめると、俺の腕を掴んだまま頬を膨らませて不満を露わにしている。

 膨らませても駄目なものは駄目なんだからね!


 「最初にミランさんと戦った時に嫉妬したくせに」


 「お!お前!」


 ミリアからの予想外の一言に俺は反射的に立ち上がり、全身が熱くなりながらミリアを見つめるがジト目で睨みつけられる。


 「嫉妬したくせに」


 二回もいわれた!


 「は!はあ!?馬鹿じゃねえの!?俺が何でミリアに嫉妬するんだよ!天然怪力女に嫉妬する要素何て一つも……おおおお!!無言でアイアンクローをするのは辞めろ!」


 怪力女の部分が気に食わなかったのか、無言で頭を片手で掴み上げられた。


 「アレン、今日はあちしもいるから暴走しても止められるにゃ」


 ミリアを援護する形で服の中からタマが欠伸を噛みしめて現れる。


 「そう言えばタマはタイミングが悪いよな。俺が能力を使う時にはいてくれよ」


 「アレンがあちしがいない時に纏いを使うのがばかにゃ」


 ぐうの音も出ない正論に言い返す術が無かった。


 「……分かったよ。その代わり五分だけだ。暴走しないのはその程度だよな?」


 タマに確認の為に質問すると首肯が返ってきた。


 「うん!五分で私が倒すよ!」


 勝つ気でいるのか。

 ミリアの強気な姿勢に苦笑いを浮かべてしまいながら、重い腰を上げて鞘からは剣を抜かずに構える。


 「タマがギリギリの所で止めてくれるか、俺がミリアを倒すまでね」


 「分かった!」


 ミリアの安心できない一言を聞きながら体全身に魔力を巡らせる。


 「【変幻自在・武装:水宴】」


 「わああ!かっこいい!」


 全身に水を纏った状態にするとミリアから感嘆の声が漏れるが、戦闘においてこれ程までに厄介な敵は自分でもいないと自負している。


 「時間も無いし早速始めるか」


 「うん!」


 ミリアが満面の笑みと同時に全力で突撃して来る。

 子供の頃とは違い、桁違いの速度で一秒で俺との距離を縮め剣を振り上げた。

 瞬時に動き、死角を取り攻撃を繰り出すがミリアは機敏な動きで直ぐにカバーする。

 ミリアは防御すると同時に俺に攻撃させまいと横に一閃するが、俺は纏っていた水を足から噴射させ上空に少し浮かび上がり回転しながらミリアの横っ腹に回転斬りをお見舞いする。


 「キャ!?」


 完全に予想外の一手にミリアは何も出来ずに吹き飛ばされる。


 「もう辞めとくか?」


 「まだまだ!!」


 この”纏い”の凄い所は自分の身体を覆うように纏わせた能力を名前の通り変幻自在に扱うことが出来る点だ。

 足から噴射させることも出来れば、【斬撃】の様に水の刃を飛ばすことも出来る。

 しかし、使用すればするほどに消費し魔力も減るし、纏っている間は常に魔力を消費するのだ。

 短期決戦向けの能力だが、この力は短期決戦で十分に強いのだ。


 ミリアが突撃するのを今度は受け流す必要もなく剣に水の纏いを増やし膨大な水剣へと変化し、近づいて来るよりも先に薙ぎ払う。


 「うわ!?何が来るのかが全く分からないよ!」


 ミリアが慌てて剣を横に向けて受け止めるが、態勢が不十分で横に二転三転と転げる。

 今のを転がるだけで終わることが出来るのはミリアだけだ。

 普通なら今ので吹き飛ばされて終わるんだけどな。


 「まだ終わりじゃないんだろ?」


 「うん!」


 「なら行くぞ」


 今度は最初よりも更に足に水を纏わせ空中に浮きながら加速してミリアに突撃する。

 ミリアの前で地面には着かずにギリギリの所で踏み止まりながら剣を振る。


 「おりゃああああああ!!」


 俺に何もさせないと言わんばかりに高速のミリアの剣技が襲い掛かるのを微調整の威力で水を浮かせて躱し、最後はミリアが剣を振るタイミングで剣に水を送りながらミリアの間合いから離れる。


 間合いから離れた所で剣を振り下ろしたばかりのミリアを再度一閃し今度こそ吹き飛ばされた。

 ミリアが壁に衝突したのを見て”纏い”を解除する。


 「タマ、時間は?」


 「三分にゃ。消費を考えると一戦における妥当な時間にゃ」


 「そうか」


 俺の中では妥協点だな。

 これではセルシィさんには勝てなかったし、まだまだ戦いようはあった気がする。


 「大丈夫だとは思うけど、一応平気?」


 「一応って酷いよ!壁に激突したんだよ!」


 壁から文句を垂れるミリアが憤慨した姿を見せるが元気ではないか。

 鞘から出してないので当たり前だが、壁に衝突しても平気なのはミリアぐらいだろう。


 「相変わらず頑丈だな」


 多少疲れたのでミリアの隣に腰掛ける。


 「頑丈なのはアレンもだよ」


 「……誰かさんのおかげでね」


 チラリとミリアを見るが、負けた悔しさも見せず平然とした表情をしているが、全員の行動と言い少しだけ気がかりがある。


 「あのさ、皆が急に努力したのって俺が暴走して止められなかった事に責任を感じてるのか?」


 殆ど明らかだが、俺が勝手に暴走して止められないことを気に病んでいるのであれば自分自身の情けない気持ちが膨らんでいく。


 「うーん、言い方がちょっと違うよ。責任だとアレンが悪くなっちゃうし、誰もアレンが悪いとは思ってないよ。私達は――――不甲斐ないんだよ」


 「不甲斐ない?」


 「そう。私も八年で強くなったつもりでいるし、頑張ったけど…それでもアレン一人も守れないなんて情けないって。多分、あの時にいた全員も多少の違いはあっても同じ気持ちだと思うよ」


 ファインやサーニャ、カリンたちも同じ気持ちなのか。

 俺が悪くないとしてもだ……。


 「それなら、協力ぐらいした方が良いよな」


 責任ではないとしても不甲斐なさを痛感させたのは自分であり、手助けする必要はある筈だ。

 重い腰を上げ最初にファインたちに協力しようと歩き出そうとしたが、隣のミリアに腕を掴まれ一歩も動けない。


 「……なに?」


 「アレンは何年経っても女心が分かってないよ!もしも、最初からアレンを頼るんなら頼ってるはずだよ」


 「……?どういうこと?」


 ミリアの言いたいことがいまいち分からず首を傾げると、話してあげるから隣に座ってと言わんばかりに隣の地面を叩くので仕方なく隣にもう一度座り直す。


 「皆にだってプライドがあるんだよ。確かにアレンと練習したい気持ちもあると思うけど、それ以上に情けない姿をこれ以上見せたくないんだよ」


「……そう言えばファインも自分が情けないとか言ってたなぁ」


 ミリアの言葉に心当たりがないと言えば嘘になる。

 エレイナも自分たちの責任だと喋っていたし…少しでも強い姿を見せたいというプライドは確かに持ち合わせているのかもしれない。

 俺も誰にも気付かれない内に全員を守れるぐらいに強くなろうと変幻自在の使い方も試行錯誤し、セルシィさんに勝負を挑んだりしてたな。


 「だから、アレンは見守るのが一番だよ」


 「……そうか。少しずつ成長するあいつらを見るのも悪くないな」


 少しだけ昔の事を思い出しながら感慨深く呟くと、ミリアが俺の頬に両手を付け強制的に視線を合わせられる。


 「また悲しい目をしてる!何か悲しいことでも辛いことがあったら言って!」


 ……ミリアは本当に目ざといな。


 「大丈夫だって。それより、今の話だとミリアはどうして俺と練習してるんだ?ミランさんやセルシィさんと叩か会うのが今の話としては辻褄が合うと思うけど」


 話を逸らすとミリアも余り強くは言わない様で俺から手を放して顎に手を当て思案するような表情を浮かべた。


 「うーん、私の場合はアレンとも付き合いは長いし負けてる姿や情けない姿も沢山見せてるから今更なんだよね」


 ミリアの言葉に納得してしまった。


 「そうだなー。ミリアが一人でお風呂に入れないからって一緒に入ったり服を脱がせてあげたのもはっきりと覚えてるしね」


 懐かしい記憶に想い馳せていると俺の頬を抓りながらも無言で顔を真っ赤にしているミリアがいる。


 「そういう事を言ってないよ!私が言ってるのは戦闘の話だから!それに昔の話で今はお姉さんだからね!」


 「……ミリアがお姉さんねぇ」


 昔では考えられなかった話ではあるが、既に俺もミリアも十五歳か。

 やる事も多ければ時間が経つのも早いなぁ。


 「そうだよ。サレアちゃんのお姉ちゃんだしカリンちゃんたちも守れるそんなお姉さんになりたいんだ。良し、もう一回勝負をしよう!」


 今の話を聞けば断ることも出来ない……ん?

 何処からか視線を感じると思いきや演習場の観客席に以前も来ていたお姉さんらしき人がいる。


 「アレン?どうしたの?ってあの人ってアレンが暴走した時に一瞬で解決した人だ」


 「本当か?」


 「うん」


 いぜんから見られていると思っていたが……あの人も相当強いな。

 S級の白竜が可愛く見えるぐらいの異次元のオーラをまるで俺に見せつけるかのように放っている。

 ――――俺も話はあったし少しだけ話してみるか。

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