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子供にとっての謎

 「アレン、今日は皆で出掛けるぞ」


 「え?いきなり過ぎない?」


 朝、今日も今日とてサーニャと家族で朝食を取っていると父から急な申し出が出た。

 今まで畑仕事で一日も休んだ姿を見たことが無い父が急に出掛けようとは驚きしかない。


 「サーニャと魔法の勉強もあるんだけど」


 「勿論、サーニャちゃんも一緒だ」


 「え?どういうこと?」


 「何も聞かずに付いて来てくれ。サーニャちゃんも村長にそう言われてるだろ?」


 「そうなのよね。今日は私からじゃなくてお爺ちゃんに行きなさいって言われたのよ。そこで、ジダンさんの言うことを聴けって」


 ……サーニャも呼ばれている?

 なんだ?

 明らかにおかしいだろ。


 今までに何回かあれば俺は気にせずに付いて行ったかもしれないが、俺が生まれた頃から五歳までの道のりで一度も経験が無いのだ。


 「うん、分かった」


 しかし、考えた所で結論が出るとは思えない。

 大人しく付いて行こう。


 「私も行くからね」


 「え?母さんも?」


 「おいおい、お腹の子の事もあるから家にいた方が良いぞ」


 「嫌よ。絶対に行くんだから」


 ……本当に何があるんだよ。

 家族が総動員で出掛けるのが人生で初めてって初めてだ。


 「…魔法の勉強したいんだけど」


 サーニャが朝ご飯を食べながら不貞腐れたように呟く。

 年頃の女の子がお出掛けよりも魔法とは……。

 魔法が好きすぎるだろ。


 「あ!今日は勉強が無いからお昼から出来るわ!アレン、昼からやるわよ」


 「あー、昼は予定があるんだよな」


 サーニャが身を乗り出して提案するが、昼からはミリアとの剣術がある。

 俺の勝手な都合でミリアとの剣術を変更するのは駄目だろう。

 俺としてはどちらも好きだし、互いに午前中、午後と決めているので今日はサーニャとの魔法の授業は休みだな……って言いたいのに凄い睨まれている。


 折角誘ったのに断る理由を明確かつ簡潔に説明しろと睨みを利かせた目が訴えている。


 「いや、お昼からは他の約束があるから俺達の都合で勝手に変更させるのも悪いしお昼は厳しいな」


 「ふーん」


 うん。

 全く納得してないね。


 ジト目で見つめられるのに冷や汗を掻きながら目を逸らすしかない。


 おかしいぞ。

 やましい気持ちは一つもないのに何か駄目な事をしている気分だ。


 「サーニャちゃんも今日だけではないし、明日でもまた来なさい」


 「はーい」


 ふう。

 父が仲裁に入ってくれたおかげでサーニャもようやく納得してくれたようだ。


 「良し、朝ごはんも食べたし行くか。母さんも行くなら準備するから大人しく座っててくれよ」


 「はいはい。心配性のパパですね」


 父が自室へと戻るのに対し、母がため息交じりにお腹を擦るのをサーニャがジッと見つめている。


 「サーニャはどうかしたのか?」


 「ううん。ただ、私って妹とか弟とかいないから不思議だと思って」


 「あら、サーニャちゃんも将来子供を産むのよ。その時に体験するわ」


 「へえ。お腹がそんなに膨らんできつくないの?」


 興味津々の様子で見つめているが、何だか嫌な予感がする。


 「きついわよ。体は重いし、体調は悪くなるで大変だけど、それ以上に新しく生まれる子供がどんな子なのか楽しみで仕方ないのよ」


 うん。

 母が大変いいことを言っているが、これは駄目なパターンな気がする。


 「そうなのね。ねえ、子供って――――どうやって生まれるの?」


 ……サーニャは純粋に興味本位で聴いたのかもしれないが、その場の雰囲気が静まり返った。


 絶対にこのパターンだと思ったんだ。

 当然、母は笑みを浮かべたまま硬直した。

 サーニャは純粋無垢な瞳で母の返答を待っている。


 俺は知らないふりをして井戸の中から取り出した綺麗な水を口に含む。


 「そそそそ、そうね。まだ、サーニャちゃんには早いんじゃないかしら。もう少し大人になったら分かるのよ」


 「私はもう大人よ!」


 ここで「分かりました」と退くサーニャではない。

 曖昧に濁された答えでは納得出来ないのか前のめりで聴く態勢に入っている。


 「ええと…そうねえ」


 大変苦笑い気味でどうしたものかと目を泳がせている母だが、俺が仲裁に入ることは出来ない。

 子供の俺が知っていると言えるわけも無いので。


 「そ、そう!大人になるとね男性の力も借りて自動的に生まれるのよ!」


 その自動生産みたいな怖い発想が良くでたな。

 母は乗り切ったと言わんばかりにどや顔をしている発想がホラーだ。

 サーニャはきちんと答えたことで納得したのか何度も首肯している。


 「分かったわ!私は大人だから産めるのね!アレン、私の子作りに協力して欲しいわ!」


 「ぶっ!!」


 落ち着いて傍観を決め込んでいたのに、サーニャの唐突過ぎる言葉に思わず含んでいた水を吹き出してしまう。


 「み、サーニャちゃんにはま、まだ早いのよね」


 「私の子供は間違いなく魔法のエキスパートよ!今すぐ産んで英才教育をしてあげるわ!」


 ……この子は頭の中が魔法で一色にも程があるだろ。


 「母さんが大人になってからって言っただろ」


 「私は大人よ!」


 あ、これは何を言っても駄目なパターンですかね。


 「お前たち、何を騒いでいるんだ?そろそろ行くぞ」


 父が仕事服ではない普通の俺と同じ薄い布を羽織り、出掛ける格好で戻ってきた。


 「ちょっと聞いて欲しいわ!二人ともまだ私が大人じゃないって言うのよ!もう大人だから子供も産めるわ!」


 「は、ハア。全く話が分からないが」


 「どうやって子供ができるのかって話をしてたのよ」


 母がヒソヒソと耳打ちをしてようやく状況が理解出来たのか首肯する。


 「そうか。なら、俺達は席を外すからアレンとサーニャちゃんで頑張れよ」


 父が純粋な笑顔で親指を立てながら爆弾発言を投下する。

 父の言葉に再度その場の雰囲気が静まり返るが、直ぐに母の拳骨が頭上に振り下ろされ父は地面に顔をめり込ませる。


 「おお」


 思わずその力強さに感嘆の声を上げて無意識に拍手をしてしまう。

 サーニャだけは何が起きているのか分からない様子で首を傾げているのだった。

ここから徐々に物語が進んでいきます!

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