残り三日
――――残り三日
試験まで残り三日の時点でようやくここまで掴むことが出来たか。
「良いですよカリナさん!直ぐに切り変えて!そうです!良いですよ!」
「えへへ」
ミリアの斬撃を受け止め、カリンの攻撃を油断なく受け止めたカリナが初めてファインに褒められる。
「二回で満足しないでください!次にミリアさんの斬撃が来ますよ!」
「は、はい!」
……やっぱり変わってないかもしれない。
カリナの姿を苦笑いで見つめ、次にメイの方を見てみる。
カリナの方に突撃したカリンを見てミリアが何かを言うよりも先にメイが召喚獣であるチューを呼び出して攻撃の指示を出す。
「そうよ!やればできるじゃない!」
「今のは良いですわね…う…すみません。二日酔いで吐き気がしますわ。少し、休ませてもらっても良いでしょうか?」
気分が悪そうなエレイナがフラフラとしながら褒める。
「あんたは朝から調子が悪そうよね。メイは私の方で見てるからアレンの所で休んでなさい」
「申し訳ありませんわ」
エレイナがふらついた足取りで俺の隣に腰掛ける。
「飲み過ぎだ」
「何で貴方は酔って無いんですの」
吐き気を抑える為か何度も水を飲みながら悪態をつかれる。
「俺は酔わない程度に飲んでるんだよ。昨日は酔ったエレイナを家まで運んでカリンを民宿まで送ったんだからな」
「フフ。まあ、これぐらいで目立ったことは許してあげますわ」
フフフと笑いながら吐き気を我慢する絵面は見ていて酷いものだ。
「念のために言っておくが俺は何度もエレイナを運んでるからな」
「おかしいですわね。何時も飲まない様に心がけているんですが」
「……まあ、気を付けろよ」
一生気を付けないような気がするが、念のために伝えておく。
この子はお酒が弱いのに飲み過ぎて絡み酒なのが傷だ。
人は一つぐらい欠点を持っている方が愛嬌があると言えるので悪くは無いが、絡まれている当事者としては面倒極まりない。
「もう飲みませんわ」
「それは聞き飽きた」
二日酔いになる人は絶対に言う言葉だが、それ以降飲まない人など見たことも無い。
「…うう。貴族としての面目が丸潰れですわ」
「一つだけ言わせてもらうと飲んでる時のエレイナからは貴族の欠片も見当たらないぞ」
「屈辱ですわ」
まるで俺が悪いみたいに聞こえるが、俺は何もしていないので無罪だ。
エレイナが潰れている中で、前衛でカリナの攻防の手助けをしていたカリンが無表情でありながら若干ムスっとした形でこちらに来た。
「何してるの」
「こいつがお酒を飲んで潰れたって話だ」
「学校では互いに知らないふりをするって言った」
どうやら自分だけ仲間外れの様な形にされて不満げなようだ。
「悪かったよ。昨日、運んであげたから許してくれ」
「カリンも酔い潰れましたの?」
そう言えば昨日は全員が潰れて俺が介抱したので両方とも記憶が無いのか。
少しは俺に感謝しても良いと思うんだけど!
「普通に酒場で寝てたよ。俺がカリンを民宿まで運んだんだから」
「記憶にない」
カリンが首を傾げているので、少しだけ悪戯心が芽生えてしまった。
「え?なら、民宿のベットに連れて行った時にアレン大好き!抱いて!って言ったのも忘れたのか?」
「「!?」」
カリンが今まで見たことも無い程に目を見開き、口を半開きにして固まり、エレイナも驚いた表情でカリンを見ている姿に思わずお腹を抱えて笑い出してしまう。
「じょ、冗談だって。アハハハハ、何信じて…お、おい!?何掴み掛かってくるんだよ!絡むのは酒だけでお腹一杯なんだよ!」
カリンが顔を真っ赤にして俺に襲い掛かってくるので両手で対抗するが、流石は剣術クラスの女の子だ。
力が強い!
「この男、女に恥をかかせるなんて最低ですわ!今すぐ絞め殺しましょう!」
「お前ら!昨日運んでやった恩を忘れるなよ!?」
二人が掴み掛かってくるのに抵抗していると、俺達に近づいて来た五人に見られてしまう。
「お、おい。他の奴らも来てるから大人しくしろ」
これ以上は本格的にバレる可能性があるので二人を隣に座らせるが、時すでに遅くサーニャから半目で見つめられる。
「あんたたちってもうそんなに仲良くなったの?」
「そんなことないですわよ。まだ、出会って四日ですし」
エレイナが冷や汗を流しながら誤魔化しているが、酔って頭が働かないからって変な事は口走るなよ?
「カリンちゃんは人見知りだと思ってた」
ミリアが興味深そうに見ているが、これ以上追及されるのは怖いので話を誤魔化そう。
「ミリアも人の事は言えないだろ?俺に最初に出会った時なんてミリアの母さんの足の後ろでチラチラと俺の方を見て話しかけたい雰囲気を出してるのに恥ずかしくて顔だけ出してたんだ。余りにも話をしたそうに見るから俺が話しかけると満面の笑みで……」
俺が最後まで言い切るよりも前にミリアが剣を構えて刃には白い粒子が見える。
「な、なに怒ってんだよ!本当の事だろ!?」
「そんな昔の話は忘れて!!」
「それは私も知らなかったわ」
「ファインもです。ミリアさんは常に天真爛漫な人かと思ってましたけど違うんですね」
「もう!アレンの馬鹿!!」
ミリアが恥ずかしそうに顔を赤くして蹲っているが、これで話の流れは変わることが出来た。
しかし、懐かしい話だ。
今も昔も変わらないが、最初はあの純粋無垢な少女が怪力女だとは夢にも思わなかったな。
「ミリアは可愛い所が何個もある」
カリンが満足げに首肯しているが、この子は昨日はミリアの付き人はしつこいからとか言ってませんでした?
今の様子を見ると、誰から見ても嫌々ミリアの付き人をしているようには見えない。
「昨日は貴族の会合で少々飲み過ぎてしまったんですの。それで、ここに全然酔わないと豪語してるアレンさんにお話を聞かせてもらいましたの」
ここで、後々不審に思われない様に分かりにくい嘘をエレイナがつく。
流石は貴族の娘だ。抜け目がない。
「「「……???」」」
しかし、エレイナの言葉にミリア、サーニャ、ファインが首を傾げていた。
「アレンは普通に酔うわよ」
ミリアの言葉にカリナも首肯する。
「アー君ってお酒に弱いイメージがあるよね」
「「え??」」
ここでエレイナとカリンの声が重なるが、この子たちは隠す気があるのか?
早速バレそうな気がして怖いんだけど!
「私達が十歳の時に皆で飲んだよね。それで、アレンがお酒を飲み過ぎて暴走して女冒険者に絡んで大変だったよ。サーニャちゃんは暴走するし、ファインちゃんも暴れるし、いつの間にか男子冒険者とアレンの一騎打ちが始まるで最終的に私がアレンを気絶させて運んだんだけど」
衝撃事実が発覚した。
俺はその時の記憶が欠片も見当たらない。
「あの時はまだお酒の強さが分かって無かったんだよ。あれ以降は酔ってないし」
「確かに冒険者ギルドにいる時は酔ってないわね。家でママと皆で飲むときは暴走して師匠と暴れ回ったけど。あれは天災だったわ」
「セルシィさんは止まりませんからね。そこにご主人様も絡みますから家が壊れるかと思いきやクレアお母さんの説教で収まったんですよね」
これまた記憶にないことが出ている。
お酒で酔っていたことなど欠片も覚えていないのだが…記憶を無くすって想像以上に怖い。
「――――羨ましいですわね」
「エレイナ?」
どこか悲しげな瞳で遠くを見つめるエレイナの表情に仲が良い設定ではないと考えているのにも関わらず声を出してしまった。
「な、なんでもありませんわ」
少しだけ目を見開き慌てた様子を見せるが何もないのなら大丈夫だと思う事にしよう。
「ていうか、アー君って女たらしなの?今も女の子ばっかりと関わってるけど」
「そんな事はないぞ。農村にいる時のメンバーは確かに女性陣が多かったけど、ここに来てからは寧ろ男性と絡む比率が高い」
何と言っても屈強な冒険者たちが集まる場所なのだ。
冒険者ギルドには殆どが男性で女性冒険者は殆どと言っていい程存在していない。
「学校に来てからミランさんに推薦されてこんな感じになってるけど、俺は紳士な男だよ」
「へえ。そんな風には見えないけど」
懇切丁寧に説明したにも関わらず、カリナは首を傾げている。
もしや…馬鹿か?…って、馬鹿でした。
「ご主人様は紳士ですよ。私達と一緒に住んでも何もしてこないのですから!」
ここでファインが俺をフォローしてくれるが、勘弁してください。
母の言う通りチラチラとミリアの一部に目がいっているとか罪悪感が酷いからお願いだから辞めて!
貴方のご主人様が罪悪感で心が押しつぶされそうですよ!
心の中で辞めて欲しいと訴えるが通じるわけもなく、懇切丁寧にファインが俺の良さを伝えてくれる。
「……成る程ね。でも、アー君はこんなに美女に囲まれて少しは有難みを知らないと駄目だよ」
確かにその通りなのだが、カリナのどや顔が大層むかつくので素直にはいそうですと言いたくない。
「フッ」
「「「「!?」」」」
ちょっとした冗談で笑ったのだが、俺の笑いと同時に全員が殺気立った目で各々武器を構える。
「…お、おい!じょ、冗談だって!」
「ご主人様、今のはファインも傷つきました」
「だから」
「「「「ぶっ飛ばす!!!!」」」」
昨日よりも大勢の連中にボッコボコにされました。




