一年の戦い
大変申し訳ありませんでした。1話を飛ばして投稿してしまいましたので、本日は2話投稿になります。
「皆!そろそろ始めるよ~」
いつの間にか中心に立ち、審判を気取っているカリナが俺達を呼ぶがそろそろか。
作戦も決まったし、後は俺次第な所もあるが何とかなると心の中で思い込んでおこう。
ミリアたちと対面すると、ファインとエレイナは不安げな表情、ミリアだけが不敵な笑みを浮かべている。
向こうの作戦は考えるまでもない。
ミリアが突撃してその後をファイン、エレイナが援護する形だろう。
それが最も効率的であり、ミリアの実力を発揮できる形でもある。
この戦いはミリアを如何に防ぐことが出来るかだ。
「それじゃあ、始めるよ!念のために殺傷能力のある炎魔法は禁止でオッケー?」
「ああ」
「良いよ」
俺とミリアの答えにカリナも首肯し、手を挙げる。
「では、試合開始!」
カリナの腕が振り下ろされるのと同時に、ミリアが地面を削り取りながら全速力で駆け抜けてきた。
「作戦通りに進めるぞ!」
「任せなさい」
この狂暴な化物染みた力を持つミリアに何もさせないのは当然の話だ。
想像以上の速さでミリアが駆け抜け、目の前のカリンと相対する瞬間に背後からサーニャのウォーターボールが放たれる。
ミリアは魔法を一刀両断するが、その僅かな隙を掻い潜りカリンが詰め寄りミリアに攻撃させないように鍔迫り合いに追い込む。
「ウインドアロー!」
今度はミリアを援護する為にエレイナが魔法を放つが…この魔法は何だ?
弓の様な魔法が軌道を曲げながら俺達の方に向かって進んでいる。
3レベルの魔法は槍の様な形をした属性の三本が俺達の方に向けて突き刺さるのだが、槍でも球でもなく弓矢の形をした魔法が向かって来る。
これは予想外だ。
ギリギリの所で軌道をずらして避けることに成功したが、中々に強い魔法だ。
「カリン、サーニャ、作戦通りにね」
「アレンこそしくじるんじゃないわよ」
サーニャに対し微笑を浮かべ俺はミリアに突撃する。
「今度はアレンだね……え?」
サーニャの剣を一度受け止め、俺は素通りしてファインの方へ向かう。
「!?ミリアさん!直ぐにこっちに」
「ウォーターウォール」
サーニャの声が聞こえると同時に二十は超える水の壁が俺達を囲むように作られる。
「惜しかったな。俺が突撃した時点で意図に気付けたら百点だったぞ」
俺達の作戦は単純明快だ。
ミリアが危険ならミリアを除けばいい。
勝負をしなくても二人にミリアを足止めしてもらっている間に、俺がファインとエレイナを倒して戻れば間違いなく勝てる。
「――ッ。まだです。逆にファインたちがご主人様を足止めに成功すれば勝機はあります」
「……そうだな。よく考えた」
今のでファインには百点をあげられる。
俺達の意図に気付くなど普通は不可能だ。
俺がファインに求めていたものは相手の作戦にハマってしまった後の対処法だ。
その点で言えば既にファインは指揮官としての素質を持っているのと同義だ。
これ程までにファインが成長していることに感動も有れば、喜びもある。
今回の戦いは実に有意義だったし、俺も色々と作戦を練るのは楽しかったのでご褒美を上げよう。
「ファイン、エレイナも黙っててくれよ。これは――――タマとセルシィさんしか知らない俺が現時点で使える最終奥儀だからな。ファインが頑張ってくれたご褒美に見せてあげるよ」
「……ご主人様?」
今もこれからも手伝ってくれるファインに感謝を込めて、俺の全身全霊を掛けた技をお披露目してやろう。
「【変幻自在――――】」
俺が最後の技を使えば、ファインが目を見開き、エレイナも口を半開きにして固まっている。
「……ご、ご主人様…それは」
「終わりだ」
◇
「よっと」
サーニャが生成したウォーターウォールを斬って戻ればミリアが二人を相手に戦闘を行っている最中だった。
「え!?二人とも負けたの!?」
ミリアが俺の方を向いて驚きの声を上げるが、最後の奥の手を使ったので負けて貰わなければ俺の方が困ってしまう。
「ミリア、降参しろよ」
「うう。流石に無理か―」
ミリアもこの三人相手には勝てないと決断したようで剣を落として両手を上げた所で決着がついた。
「ちょっと待った!私は全然戦闘が見れてないんだけど!二人がミーたんと戦ってる所しか見れてない!」
カリナがここで現れて不満げな表情をしているが、そんな事を言われても遅れたら負けるのだから仕方ないのだ。
「私達に言われても無理よ。そこのあっさりと負けた二人に言いなさいよ」
サーニャが適当にあしらっていると、背後から鳩尾に一発ずつ与えられたファインとエレイナが現れる。
二人は軽くトラウマを受け付けられた様子で何度も首を横に振っている。
「無理です。あれは無理です。何が起きてるのかも全く分かりません」
「不甲斐ないですが、今の私では勝つことは不可能だと断言できますわね」
「そうだよ!もう少ししたら私も追い付いたのに今日は早すぎるよ」
ミリアも戦い足りないのか、不満げな表情をしている。
「あの、流石に無理だと思います」
おずおずといった形でメイが手を挙げて二人を庇うように立ちはだかるが、もしかして、
「ん?見てたのか?」
「は、はい。私のもう一体の召喚獣であるチュンチュンです」
メイは言いながら小鳥のようでありながら目が赤く、鋭い嘴をした生き物を自分の肩に置く。
「この子を通して見てたんですが…あれは無理です」
「誰にも言わないでね」
「は、はい」
メイが何度も首肯している姿を見て安堵するが、正面に立つミリアとサーニャ、カリナは首を傾げている。
「アレンが何かしたの?」
「まあ、ファインが成長してたからご褒美に俺の秘密の技を使ってあげたんだ」
「秘密の技?」
「うん。セルシィさんに見てもらって勝負まではしたけどね。お互いボロボロになった所でタマに止められて引き分けだったけど」
初めて発見した時は間違いなくセルシィさんにも勝てると踏んでいたのだが、如何せん、セルシィさんが強過ぎたのだ。
何が起きているのかも全く分からない【罠魔法】に加えて、見たことも無い能力なども利用されて引き分けの結果に終わったがまだセルシィさんは本気を出していない気がする。
「師匠に引き分けた!?ちょ、ちょっと見せなさいよ!魔法!?」
「見せないけど魔法も使うね」
奥の手なので余り見せびらかしたくは無いし――――この状況下では絶対に見せられない。
会場の観客席にチラホラと強者らしき人物たちが見定めする様に見守っている。
「私も見たい!アレン、勝負しようよ!」
「見せないから終わり。カリナとメイの修業を再開するよ」
俺がチラッと視線を会場に向けると、一人は堂々としたまま俺を見つめ、一人は静かに隠れる。
男と女の二人とその周囲に何人かいるな。
男の方はずっと俺の方を見ている。
短髪に鋭い目つき、不敵な笑みを浮かべ、俺と同じくらいの身長でありながらその風格は剣聖にも劣らない。
女の方は直ぐに隠れたので分からないが……少しだけ警戒しておこう。
「ええ!私は全然見てないよー」
「カリナさん、従いましょう。アレンさんは怒らせたら駄目な人です。絶対に駄目です」
どうやらファインとエレイナだけではなく、今回の戦いは見ている側にもトラウマを植え付けてしまったようだ。
◇◇
学校が終わり、辺りが街灯に照らされている中で玄関で靴に履き替える。
辺りが暗くなる中で馬車が減り、その代わり歩き回る人たちが増加する中で俺もその中に身を投じようと一歩を踏み出した瞬間だった。
「ご主人様」
玄関に掛けた手がピタリと止まり、背後を振り返るとファインが腰に手を当てて仁王立ちして立っている。
「な、なに?」
「何処に行かれるんですか?」
「ちょっと野暮用で」
「もしかして冒険者の人達とお酒ですか?近頃と言うか一年前ぐらいから夜に何処かに出かけることが多くなってますが」
バレていたのか。
冷や汗を垂らしながら目を逸らすがファインからの追及は免れないようだ。
「ちょっとそこまで」
「では、ファインも付いて行きます」
「ええ!?」
「ご主人様のいく所に付いて行くのが従者であるファインの役目です」
ごもっともな意見だが…今から行く所に誰かを連れて行くと――――怒られる怖さが二倍に膨れ上がる気がするんだよな…。
「直ぐに帰ってくるから待ってて」
「……」
流石に今から行く所にはファインは連れて行けないので大人しく待っていて欲しいのだが、今度は何も言わずに表情は変わらないが耳と尻尾がしょんぼりと下がっている。
「女の人に会いに行くんですか?」
「うん?ま、まあ、一応だけど」
今の一言でファインは声は出さずに尻尾が地面に付いてしまう。
「女の子に手を出しに行くんですか?」
「……ん?いや、違うって!話をしに行くだけなんだけど今から会う人と初めに約束したんだよ。他の人は絶対に連れてくるなって」
俺だってファインを連れて行っていいのなら直ぐにでも連れて行く。
しかし、駄目と言う約束の元で俺と今から会う人の関係は成り立っているので連れて行くのは厳しいだろう。
「分かりました。では……一つだけ我儘を言っても良いですか?」
「何でも言っていいよ!豪邸がようやく欲しくなったのか?ファインの為なら」
「違います」
言い切る前に即答されてしまった。
ファインのお願いなら大抵の事は聞いてあげるのに!
「ファインの事をミリアさんの時と同じようにギュッとして」
「喜んで!」
ファインが何かを言い切る前に俺はファインに抱きついてあげた。
髪や尻尾も触りたいが、敏感な所な様で一度だけ触った時にファインが恥ずかしい姿を見せたと泣き出してからは一度も触っていない。
「……あ、ありがとうございます」
「なるべく早く帰るから先に寝てていいよ」
最後に頭を撫でると、ファインの耳と尻尾が最高潮に揺れているので大満足なご様子だ。
その姿を見て一安心し、俺は家を出て指定の場所に走っていく。
急がないと――――怒っているのに更に怒らせてしまう!
「ハア…ハア。付いた」
全速力で駆け抜け、指定の異世界の高級感溢れる酒場に付き、その入り口の扉を開ける。
部屋の中は綺麗なバーを連想させる雰囲気でありながらあ防音使用の部屋まであるという素敵な場所だ。
扉を開けると、驚かせないように横に立った従業員が営業スマイルを向けて俺の前で一礼する。
「アレン様、お久しぶりでございます。既に、お客様である二名の方が個室の方に行かれていますので」
「分かりました」
従業員の人に連れて行かれた個室の扉を開ければ…確かに存在していた。
「遅いですわよ。レディーを待たせるのは紳士の男のやることではないですのよ」
「遅刻」
「悪い。――――エレイナ、カリン。今日の話し合いを始めようか」




