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剣術の勉強

 時はお昼、俺はもうミリアの遊びを逃げる為のかくれんぼを辞めて静かに大木の傍で涼みながらミリアが来るのを待つ。


 俺が初めてミリアに勝利した日から約一年の月日が経った。

 俺とミリアの戦績は最初の頃を合わせると負けた回数の方が多いが着実に俺の勝利数も増えてきている。


 だが、決して油断できる状況でもないのだ。

 あの日からミリアが俺の家に泊ることが無くなった。

 最初は女として羞恥心などが芽生えたのかと思えば、ミリアのお母さんに聞いた話だと夜遅くまで剣を振っているようだ。


 余程、あの日に負けた悔しさが胸に残されているようであの日からミリアが朝から来ることも無く永遠と鍛錬してその実力を発揮するためにお昼だけに来るようになった。

 その功績も実り最初は俺も一度勝てば後は余裕だと思い込んでいたが次々に地力を付けるミリアに勝利の回数が伸びることは無かった。


 「アレーン!!」


 砂塵が舞う程に駆け抜けるミリアが中庭に現れて満面の笑みで近づくのだが、何十年ぶりの再会かと言わんばかりの勢いだが、昨日も会ってます。


 「ミリアは何時も元気だな。今日もやるんだろ?」


 「うん!絶対に勝つんだから!」


 大木に立て掛けてある木刀を持ちミリアに渡し、俺も重い腰をあげる。


 「昨日は俺の勝ちだからな。今日も勝って二連勝だ」


 「違うよ!私が勝つんだから!」


 お互いにウォーミングアップなど必要は無い。

 ミリアが来るまでの間に既に俺も身体は動かしているし、あの日からミリアは朝も剣を振っている様なので今日も必要ないだろう。


 「いくぞ」


 「うん」


 「「勝負!!」」


 何度始めたのかは分からない。

 同時に駆け抜け、互いの切磋琢磨した木刀が重なり合うと同時に、直ぐに剣を左にずらして相手の態勢を崩す。


 この一年間で死に物狂いに努力した結果とも言えるミリアは今まで圧倒的な力を誇っていたのに、今では化物級の力がその腕には宿っている。

 一撃を受け止めれば俺が吹き飛ばされる程の威力は蓄えているのだ。


 「ふっ!」


 態勢を崩したミリアに反撃しようと一歩踏み出す前にミリアがその場で回転しながら跳躍して回転斬りを披露する。


 「うお!?」


 ギリギリで剣を縦にして受け止めるが、踏ん張れずに後退しながら吹き飛ばされる。

 …相変わらずえぐい力だな。


 「うおりゃああああ!」


 ミリアも一年の勝負で自分と俺の差と何をぶつけて、何を対応するのかを理解している様に見える。

 ミリアの長所は言わずともその力と速さだ。

 大人顔負けの力は誰にも負けず、その速さは相手に余裕を与えない爆速を誇る。


 俺が子供の身体なので大袈裟に感じるなどは関係ない。

 ミリアが――――異常なのだ。


 猛追して追撃を繰り出してくるが、ギリギリで躱し受け流し隙を伺う。

 俺がミリアに唯一勝る部分は追い詰められている状況でも冷静に対応できる所と馬鹿力のミリアの攻撃を受け流せる点だ。

 ミリアにはミリアの良さがあるように、俺は俺の良さを活かして戦うのだ。


 「ここ!!」


 ミリアは剣先を上から下へ降ろし、更に一歩踏み出して下から上に掬い上げる連撃を繰り出すのに対し、一歩引いてミリアの剣を上から押し付け力の勝負になる前に右斜めにずらす。


 完全に態勢を崩したミリアの横っ腹に突きを繰り出し、ミリアは反応できずに尻もちをついて勝敗は決した。


 「ああ!!また負けた!」


 ミリアが地面に座ったまま悔しそうに地面に背中を付けて仰向けで倒れている。

 どの表情には負けた悔しさはなく寧ろ清々しい程の笑みを浮かべている。


 「負けたのに全く悔しそうでは無いんだな」


 「悔しいよ。毎日練習してるし、悔しいけど楽しいもん」


 「その気持ちは分かるなぁ」


 俺もミリアに倣い、地面に仰向けで寝る。

 何度も敗北したが一度でも辞める気にはなれないで寧ろ何時も次はどうするかと自問自答をしている自分がいる。


 「こんなに楽しいのはアレンだけなんだよね」


 え?

 ミリアの予想外の言葉に隣で上を見上げる


 それって…幼馴染あるあるのまさか俺に惚れて……、


 「少し賑やかな街の方に行って私と同い年の人と戦ったんだけど全員一発で負けて泣いちゃうんだもん」


 ですよねー。

 うん、相手は天然無限元気マンのミリアだもんね。


 ちょ、ちょっと期待なんてしてないから!


 「まあ、ミリアは力が強いからね」


 「でも、アレンは私よりか弱いのに勝てるよ!」


 女子にか弱いと言われる日が来るとは想像していなかった。


 「もう何十回と戦ってるからなあ。少しずつ対処の仕方が分かってきたんだよ」


 「私もね、何回も負けてるけどその分だけ強くなれるって思うと凄い楽しいんだ」


 サーニャは極度の魔術オタクだが、ミリアも剣術オタクだな。

 まあ、ミリアの場合は極度の負けず嫌いも含まれているけど。

 気持ちは分からないでも無いが、何度負けてもミリアが落ち込む姿が全く想像できない。


 「だから、私は色んな人と戦ったけどやっぱりアレンと戦うのが一番好き!今からもう一度やろう!」


 「はいはい」


 その日、次の一戦は俺が敗北し互いに一勝一敗の結果で幕を閉じた。


 夜遅くになり最近は父が夜は家にいるので母の代わりに晩御飯を作り、その手伝いをして三人で夜ご飯を食べる。


 「うん、美味しいわ」


 「だろう?俺達が何年も掛けて作った畑の食物だからな」


 相変わらずお熱いことで。

 この二人は俺が赤ん坊の頃から何年経とうが相変わらずの仲良しで見ているこちらが恥ずかしくなるほどのいちゃつきを披露する。


 普通は倦怠期や色々と面倒事などもあるだろうに、永遠と仲の良い夫婦と言うのも珍しい気がする。

 前世の頃に色んな所で働いていたが、夫婦で喧嘩ばかりの所が多いイメージしかない。


 「ごちそうさま。部屋でディオス村長に借りた本を見てるね」


 「夜遅くまで見るのは駄目よー」


 「はーい」


 親のいちゃつきを見ることほど恥ずかしい物は無いので部屋で大人しく村長のディオスさんから借りた本を見ている。

 と言うのも、数カ月前からサーニャが魔法の勉強をしなさいと遠回しに俺が何故か出来ない現象に気を遣ってくれたようで、本を貸し出すことをディオスさんを説得して了承してくれたのだ。


 一年も経つが未だに謎の魔法の現象、世界に関する深まる謎は解けてはいない。

 しかし、少しずつ成長しているのもまた事実だ。

 ミリアとの剣術勝負に関してもまだまだ改善の余地はある。


 今日は一戦目で勝てたことで調子に乗り集中力が散漫していた。

 もう少し集中してミリアの動きを読めれば戦いようはあったはずだ。


 ……不思議だ。


 お風呂にも入り、食事も食べて後は寝るだけなのに――――興奮が全然収まらない。

 読みかけた本を閉じて仰向けて、頬に熱が灯りながら口角を上げる。


 「この世界は楽しすぎる!!」


 夢にまで描いた平穏な生活が目の前に存在しているのだ。

 自分のやりたいことが自由にできて、同い年の人と好きな事をして過ごす平穏な毎日。


 ――――これが俺が夢に描いた自由な生活なのだ。 


 

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