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結婚?

 「え?聞き間違いでは」


 「無いよ。僕と結婚したい?」


 いきなり結婚したいかと言われしたいですと言う人がいるのだろうか?


 「いや、すみませんが何を言っているのかさっぱり分からないんですけど」


 「そうだね。順を追って説明するよ」


 ミランさんの話を聞けば簡単な事だった。

 ミランさんは有名な貴族の家であり、後継者は必ず剣聖の職業に選ばれる優秀なお家らしい。

 その中で後継者が男でも女でも絶対に敗北は許されないそうだ。


 男が負けた場合、称号の座をその者に渡す事、女が負けた場合は敗北した者が女であれば剣聖の座を譲ること、男であれば――――その者に嫁ぐことらしい。

 なので、ミランさんの家系で女が生れた場合は求婚を求める男性の挑戦者が後を絶えないそうだ。

 閑話休題。


 要するに俺がミランさんに勝利したので俺はミランさんと結婚出来る権利を得たわけだ。


 「――――そんな訳で私はアレン君と結婚できるんだけど」


 モジモジとした姿を見せるミランさんだが、俺は一つだけ苛立ちがある。


 「嫌じゃないんですか?」


 「え?」


 「勝手に決められて負けたら結婚なんて俺だったらふざけるなって思いますけど」


 他の人は違うかもしれないが、職業も選べないし結婚相手も好きに選べないなんて余りにも非情すぎる。

 この世界は自由に見えて何処にも自由が無い。

 全てが取り決められ職業も選べず結婚相手まで選べないのはぁ余りにもミランさんが可哀そうだ。


 ミランさんはクスリと微笑むと、


 「君は優しいんだね」


 「優しいというよりは何もかも勝手に決められるのが嫌なんですよ」


 「フフフ。そういう事にしておこうかな。でも、安心して。私の場合は親が私を溺愛しているからこの掟を決めたけど何も不満は無いんだ。だって、僕より弱い人とは結婚したくないからね」


 ミランさんは全く嫌そうな表情もせず、寧ろ憧れの王子様を待つお姫様状態だ。


 「僕だって誰かに守られたいって願望はあるんだよ」


 「分かります!剣聖だから大丈夫だろって嫌ですよね!」


 ミランさんの乙女な顔にミリアが同調する形で何度も首肯しているが俺にはさっぱり分からない。

 強い人にしか分からない苦悩があるのだろうか。

 気になるのがミリアが話す度に俺の方をチラチラと見てくるのだが、俺の事を言っているのか?


 「それで、どうかな?」


 「どうかなと言われましても急に結婚してと言われてはい、しますなんて答えられないと思うんですけど」


 「そうなの?僕に求婚を求めてくる相手は直ぐにでも結婚しましょうみたいな流れだけど」


 この世界の常識がおかしいのか、俺が変なのか分からない。


 「……そうですね。ここで答えられないです。まだ、やりたいことも叶ったわけじゃないのに妥協すると駄目な気がして」


 ここで偶然でも幸せを掴むのはきっと間違いではない。

 ミランさんと結婚して将来的には子供を産み幸せな家庭を築き、俺は出稼ぎに冒険者をしたりする毎日もきっと楽しいのだろう。

 でも……それは簡単な道のりできっと本当の意味での幸せを手に入れることは出来ない気がする。


 俺に子供が出来た時、何か将来的にやりたいことがあっても『開眼の儀』が存在する限りは自由に目指すことが出来ない。

 そんな生活で妥協するなら最初から努力はしないし、頑張らない。


 でも、俺は決意したんだ。

 第二の人生は自由で平穏な生活を目指すために今は努力すると。


 「俺はヴァルハラを倒して『開眼の儀』を潰して自由な世界を目指します。そこまで、止まる気は無いんです。だから、それまで待つならその夢が叶った時に答えを伝えても良いですか?……ミランさん?」


 普通に答えただけなのにミランさんが目をも開き、口を半開きで放心状態になっている。

 変な事でも言ったか?


 「…自由な世界…ってどんな感じなの?」


 「ええと、俺が目指してるのは誰もが勝手に職業を選べるんじゃない。自由に選択して何事にも自分で決められるそんな世界を作りたいんです。やりたいことを頑張れて、諦める必要なんてない。縛られることも無い。頑張って無理なら良いですけど頑張ることも出来ないなんて悲しいじゃないですか」


 微笑を浮かべながら伝えるとミランさんの顔色が晴れ、満面の笑みを浮かべている。

 あれ?変な事でも言ったか?


 「ご主人様…そこで笑顔を向けるのは卑怯です」


 「え!?何が!?」


 「ミリアも大概だけどアレンも天然なのよね」


 「何かしたの!?」


 二人からまたしても軽蔑した目で見られるがおかしなことは言ってないぞ?自分の理想を伝えただけで変な事は言ってない…筈だよね?


 「僕は今まで曖昧だった。国の為にヴァルハラを倒す、それが宿命だと言われ続けた。でも、そうだよ。僕はアレン君が言ったそんな世界が見てみたい!!自由な世界を見てみたいよ!」


 「本当ですか?今まで肯定的に言うのはミリアたちぐらいで他の人に言われたのは初めてですね」


 今まで冒険者ギルドでも色々と交流がありその話をする度に鼻で一蹴する人、俺達が実力者だからここで静かに暮らせと進める人たちはいたが、肯定してくれる人は存在しなかった。

 因みに俺達を馬鹿にした人はその瞬間にサーニャが襲い掛かって何度も叱られた。


 「結婚が駄目なら婚約者でも駄目かな!?今すぐじゃなくても良い。だけど、僕はもう他の人に負けて結婚したくない。アレン君と結婚したい!!」


 「は……はい?」


 あれ?急に俺の好感度が急上昇している気が、


 「お願いします!」


 ミランさんが頭を深く下げて婚約を求められるが…一応仮だし大丈夫かな?


 「は、はい。分かりました」


 「ご主人様!?」


 ファインが素っ頓狂な声を上げるがここまで頭を下げられて断るのも忍びないし、取り敢えず仮の婚約者であれば別に問題はない気がする。

 ミランさんは俺の返答を聞いた瞬間に喜色に満ちた笑みに変わる。


 「ありがとう!絶対に忘れないでね!」


 今までとは違い、本当に乙女の様な顔をしたミランさんが頬を高揚させながら満足げに皆の元に戻ろうとしたが、直ぐに俺達の方へ振り返り……、


 「因みに僕は女の子だからミリアちゃんを奪ったりしないから怒らないでね」


 最後に爆弾発言をして皆の元に戻っていく。

 何で忘れていたことを今頃になって言うんだ!!


 悲痛な叫びを心の中で発狂しながら、隣を見るとミリアがジッと俺の方を見つめている。

 全身から嫌な汗が流れてるんだけど!!


 「アレン、どういう事?奪うって何?」


 「何でもないよ」


 「怒ってるの?」


 「怒ってねえよ!!」


 「怒ってるよ!?」


 辞めて!これ以上、俺を辱めるのは辞めて下さい!!

 顔を背けながら応えるが直ぐにミリアが目線に回り込む。


 「何で目を背けるの?」


 「背けてない」


 「嘘が下手過ぎるよ!ミランさんが男で私が何処かに行くと思ったの?」


 「思ってない。ミリアは馬鹿だから騙されるんじゃないかと思っただけだ」


 普段は天然なのに妙な所で鋭いミリアの指摘に頬から汗が伝う。

 しかも、真正面から段々とミリアの顔が笑みに変わっていく。


 「もう!アレンってば可愛いんだから!私はアレンの傍から離れないよ!ほら!抱きついてあげるよ!私は何処にも行かないって証明してあげるよ!」


 満面の笑みを浮かべたミリアが俺の方へ突撃して来るのを全速力で逃げ回る。


 「いらねえよ!変な勘違いすんな!付いてくんな!」


 「照れてるアレンは可愛いね!」


 「うるせええええ!!」


 的確なツッコみを入れるミリアから全力で逃げていると、今まで沈黙していたサーニャがプルプルと震えている。


 「あんたたちいい加減にしなさいよ!私が黙ってると思えば求婚やら抱きつくとかふざけてるんじゃないわよ!私の従者なのに婚約者なんて認めないわよ!そこ!ミリアも男に簡単に抱きつくなって何度言わせるのよ!」


 我慢の限界なのかサーニャがミリアを追いかける光景に早く捕まえてくれと願いながら逃げ続けている。

 早くお家に帰りたい!!

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