剣聖の正体
「……本当にすみませんでした!!」
何度も謝罪を述べながら、俺は何度も謝り続ける。
先程までのモヤモヤも全てかき消され、俺は女性に対し銃口を向けてぶっ放していた事実だけが残され、ミランさんに謝罪するしかない。
「全然気にしてないから安心してよ。ほら、頭を上げて」
ミランさんの顔を見れば、頬に俺が放った水の弾丸で切り傷が出来ている。
「申し訳ありません!!」
「何で上げた頭をもう一度下げるの!?だ、大丈夫だって。この傷も回復して貰えれば治るし……ね?」
ミランさんの微笑む姿に少しずつ正常を取り戻すことが出来た。
ゆっくりと起き上がるが、俺はミランさんが女性と言うのが半信半疑なのだ。
「……女性なんですよね?」
「うん。ミリアちゃんは最初から気付いている様子だったよね」
「はい!気配が女性だったので!」
意味が分からない。
気配に男も女もあるのか。
にわかに信じられないし、俺達を騙してミリアを取り込む嘘だとすれば俺は許せないぞ。
女性と言うのを一番試せる方法は……、
「あの、ちょっと鎧を脱いでもらっても良いですか?」
「……?別に良いけど」
ミランさんが鎧を脱いで服が見えるが…まだ分からない。
胸がサーニャと同等の大きさか?
「アレン、何か良からないことを考えてないかしら!?」
チラリと背後を振り返るが、無駄に鋭いサーニャから激怒に近い声が聞こえて反射的に顔を背けミリアさんを見る。
……本当は男性とか言わないだろうな?
「ちょっと触りますね」
「え?」
ミランさんが戸惑いの声が聞こえるが俺はミランさんの胸を服の上から触る。
服の上からも柔らかい膨らみがあるので間違いなく女性だな。
これで一件落着だ。
「あ、結構大きいですね。着やせする…ブヘッ!?」
一件落着かと思いきや、隣のミリアが全力でおれのほほを殴りつけた。
「あ、死んだにゃ」
「死んでねえ。俺の耐久力を舐めないでくれるか」
タマの酷い冗談に応えると、ミリアに胸倉を掴まれて起き上がらされる。
「何やってるのアレン!?私は馬鹿だけどアレンも馬鹿なの!?ねえ!?女の子の胸を触るなんて駄目に決まってるでしょ!?私は良いけどミランさんは駄目だよ!」
女の子か確認する為なんですと言っても火に油なのでここは大人しく……ん?待て。
「今なんて?」
「だから!女の子の胸を触るなんて」
「その次だよ!え?ミリアのなら触って良いの?」
「別にアレンならいいよ!そんな事より」
そんな事よりどんな事があるのだろうか。
触って良かったのか。
今度、暇な時に触らせてもらおう。
全力で殴られる事しか想像できないけど。
「貴様!我が国の宝である剣聖の清い体に触るなど処罰だぞ!!」
ミランさんの背後にいた護衛の一人が槍を持ち近づいて来る。
あれ?結構不味いことをしたか?うん、分かってます。
ミリアが騙されてミランさんに寄り添うのかと怖かったんです。ごめんなさい。
「本当にごめんなさい!!アレンを許してください!アレンも謝って!」
ミリアに首元を持たれ強制的に頭を下げさせられながら俺も謝罪を求められる。
「すみませんでした」
「謝罪など生ぬるいわ!!貴様ら、処刑に」
「待って。落ち着こう騎士団副長エイディ」
護衛の人が近づいた瞬間にミランさんが俺を庇うように手でエイディさんを制す。
「僕も最初は腕を斬り落とされたいのかと思ったけど、このアレン君には一つも邪な気配は無かった。本当に僕が男か女かを確かめたかっただけだと思う」
最初に物騒な言葉が聞こえたが、庇ってくれてありがとうございます。
本当に邪な気持ちなんて一切持ってないので許してください。
「否、この男には剣聖の身体を触る資格はある」
「騎士団長ジリル!?ど、どういうことですか!?」
もう一人の審判をしていた人が俺の援護に入ってくれる。
というか……護衛の二人もS級の魔物に負けない感じがするな。
「ミリア、あの二人も相当強くないか?」
「そうだね。気配からも普通に強い……ってアレンは反省してるの!?」
「俺はただ男か女か確かめたかっただけだ」
「あそこまでして?」
「うん」
これで男であればもう一度勝負してボッコボッコにする所だったけど。
「僕も意味が分からないんだけど、どういう意味?」
騎士団長の言葉にミランさんも首を傾げているが、俺はこの話題に必要なのだろうか。
ごめんなさいもしたので癒しのファインの元に戻りたいんだけど。
「お忘れですか?剣聖ミラン、貴方の家の掟を」
「――――ああああ!!」
騎士団長とミランさんが雑談しているが俺には関係ない様子だったのでこっそりとミリアを連れてファインたちの元に戻ってきた。
「いやー、色々と巻き込まれそうで…ん?二人とも?」
剣聖に勝ったことで祝福ムードが漂っているのかと思いきや、ファインとサーニャからジト目で睨みつけられている。
「さぞかし、柔らかい感触を楽しんだんでしょうね」
「なっ!?ちょ、ちょっと待って。あれは男か女かを確かめる為で」
「ファインはご主人様を少しだけ軽蔑します」
「待って!本当に待ってくれ!」
サーニャとファインから罵声を浴びせられるが、きちんとした訳がある。
きちんと話せば二人とも理解してくれるし助かる筈だ。
この話題を家に持ち帰れば母から説教を何時間も食らいそうな気がして困る。
「ねえねえ」
「ちょっと今忙しいから後で…ミランさん?」
これから何時間も掛けてサーニャとファインを説得したいのだが、後ろから裾を掴まれ話しかけられた方向を顰め面で見ると、ミランさんが頬を高揚させながら話しかけてきた。
……何で顔が赤いんでしょうか?
「あ、あのね」
「は、はい」
「――――僕と結婚したい?」
――――はい?




