魔法のお勉強
◇
一年後
俺も五歳になり、ようやく流暢に喋れるようになった今日この頃、午前中はお決まりのサーニャ手製の朝ご飯から始まる。
「どう?私のご馳走美味しいでしょ!」
「うん。何時も通り美味しいね」
「アレン、お前はサーニャちゃんみたいに毎日朝ご飯を作ってくれる女の人がいて良かったな」
サーニャが少し誇らし気に、何故か父が毎朝ニヤニヤとした表情で見てくるのだが俺とサーニャが付き合っているとでも思っているのだろうか。
この魔法大好きツンデレお嬢様は毎日俺の家に来て魔法を唱える事しか考えて無いんだ。
「ああ、もう息子の親離れが始まったのね。嬉しくもあり悲しくもあるわね」
「母さん、それも毎日言ってるよ」
我が家の朝のお決まりの挨拶をしながら蒸せた芋と米に似たご飯を堪能する。
うん、寸分違わぬ美味しさだ。
「良し、今日も魔法の検証をするか」
「ええ!?また、検証するの!?今日こそ炎魔法の練習をしたいわ!」
「…この辺で炎魔法を使ったら火事になるって」
俺の服の裾を摘み、魔法に関する所だけツンデレが抜けるサーニャが駄々を捏ねるがここら一帯は何処も草木に囲まれ、炎魔法だけは試せないシステムになっている。
「サーニャちゃんは何種類の魔法が扱えるんだい?」
「今は四つね。水、風、土、光を完成させたから後は炎と闇だけよ。私は全種類の魔法を扱えるようになるんだから」
「将来が有望ねえ。サーニャちゃんは将来は魔法に関する職業に就きたいの?」
「まだ全然決めてないのよね。今は全属性の魔法を扱えるようになるのが最優先事項だから、その後の事は全部出来るようになってから決めるわ!」
……段々とサーニャが俺の家族の仲間入りを果たしていて、今では父と母と大変仲良く談笑するまでの仲になっている。
「俺とサーニャは魔法の検証を始めるけど、お母さんは――赤ちゃんの為にもゆっくり家で休んでてね」
現在、母のお腹には新しい命が宿っている。
弟か妹かは分からないが前世で一人っ子だった俺には大変嬉しい限りの出来事だ。
「はいはい。分かってるわよ」
「アレンからも何度も注意してくれよ。お母さんは気を抜くと直ぐに仕事に出るからな」
父が朝ご飯を食べ終えた後に鍬を持ちながら俺の頭を撫でる。
「お母さんが働くなら俺がお母さんの代わりに仕事の手伝いを」
「「それは駄目」」
手伝いをすると言い切る前に母とサーニャの声が重なり合って止められる。
「子供は元気に外で遊びなさい」
「アレンったら私と魔法の勉強をする約束をしたわよね!?」
「約束って毎日じゃん」
畜生。
今日も駄目か。
相変わらず仕事の手伝いをさせない強い意志を感じる母の言葉に父も止める気配はない。
異世界の謎に関する情報は未だに一つも解決されていない。
以前、母にどうして手伝わせてくれないのかと純粋に質問をしたがはぐらかせて俺が求めていた回答は返ってこなかった。
「アレンは少し大人びているがまだまだ子供だ。元気に遊んでこい」
「…はい」
「だけど、森には近づくなよ。最近、魔物が活性化していると聞くしこの近辺で遊べよ」
「遊びじゃなくて勉強よ!」
「ワハハ。悪い悪い。勉強を二人で頑張れよ」
サーニャの窘める声に父が豪快に笑いながら鍬を持ち畑仕事に向かったので俺達も二人で中庭で魔法の検証を始める。
「さあ、今日も始めるか」
現在、俺もサーニャと同じく四つの魔法を扱えるが全て――サーニャに教えてもらって出来る状況だ。
未だ解明できていない部分は多いが少し纏めよう。
魔法に関して
・全ての魔法の魔力は統一されている。
・魔力は増加しているのか、少しずつ使える容量も増えて今では二十回までは平気で魔法が打てる。
・最初に覚える魔法は何故か自分の意志では使えない。
・サーニャに教えてもらうことで魔法は使える。
水魔法の時から要領は同じだが絶対に他の属性の魔法も絶対に自分が最初に出来ることはない。
「これが闇魔法の本ね」
「良し。まずは俺からやるからな」
「はいはい。どうせ出来ないんだから早くしてよ」
中庭の大木にもたれ掛かり座っているサーニャから挑発染みた声が聞こえるが、要約すると『落ち込む前に私に教わりなさい』と気を遣っているのだろう。
何だかんだで一年もいると段々とツンデレの言葉の詳細まで理解出来るようになってきた。
サーニャの言葉を聞きながら闇魔法の本を開き、詳細は見ても魔法の発動条件は分からないので、最後の詠唱部分だけ見る。
一度大きく息を吸い込み、体から手に力を移動することを意識する。
「ダークボール!!」
今まで小さな声から大きな声、ぼそりと喋る所からはっきりと喋る所まで全て試したので今日は大きな声で魔法の詠唱を唱えるが…何も変化は見えない。
「……駄目か」
体からエネルギーが放出される感覚も無ければ、手からは何も出てこない。
「ふうん。闇魔法は光魔法と同じく妨害系みたいね。次は私がやるわよ」
「どうぞ」
「ダークボール」
大木に目掛けてサーニャが詠唱を唱えると、黒に近い紫色の球体が姿を現した。
「……おかしいだろー」
今や最初の興奮は無くなり、何故、サーニャには魔法が使えて俺に出来ないのかの謎が深まるばかりだ。
「後は炎魔法だけね!」
一人で落ち込む中でサーニャは拳を握りしめて目標を胸に目を輝かせている。
「アレンはまた出来ないのね。仕方ないから私が教えてあげても良いわよ!」
「いや、もう少し考えさせてほしい」
まだ、検証は終わってない。
俺が魔法を扱う方法があると信じてもう少し努力してみたい。
しかし、俺の答えに不満をお持ちの様でサーニャは若干頬を膨らませて再度、大木に寄りかかっている。
……教えたかったんですね。
俺が下を向いている姿に落ち込んでいると思って話しかけたのに断られて悲しかったようだ。
「…もう少し自分で頑張って出来なかったらサーニャの力を貸してくれよ」
「仕方ないわね!」
素直ではないけど結局優しいサーニャだった。




