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剣聖VS剣聖

 「な、何言ってるのアレン!」


 「ミリアは下がってろ」


 ミリアが裾を引っ張り宥めているが、俺は止まる気はない。

 このまま普通に授業をしてムカムカとしたまま過ごすぐらいならここで叩き潰して心を少しでも軽くしたい。


 「アレンだけずるいよ!私が戦いたいよ!」


 「――――は?」


 アランさんを庇っているのかと思いきや、頬を膨らませたミリアが両手を挙げて怒りを露わにしている。

 ……もしかして、戦いたいのか?


 「今から私が挑もうと思ったのに邪魔しないでよ!」


 ミリアに譲るべきか?

 否、俺も戦いたい。

 この美少年の小僧を空の彼方まで吹き飛ばしたい。


 「お、おう。なら、二人とも戦わせてくれません?」


 俺の提案にアランさんは顎に手を当て考えるそぶりを見せ、笑顔で首肯する。


 「良いね。僕も授業と言われても何をすればいいのか分からなかったんだ。この際だから皆と戦いながら間違っているや、直した方が良い所を指摘する形にしようか」


 アランさんは呆気らんと喋っているが、俺はその一言に青筋を何本も立ててしまう。

 この野郎――――全員に勝つ気でいるのか?

 他の奴らはともかく、俺やミリア、ファインに簡単に勝てると…いや、勝つと断言しているのだ。


 「まずはミリアがいくのか?」


 「うん!やりたい!」


 ミリアが両手を握りしめて強い意志を見せるが…俺個人の考えで戦わせたくない!

 だけど、言えるわけも無いしこの際ミリアにコテンパンにされて泣いて帰らないだろうか。


 「良し、やろうか」


 既にミランさんの方もやる気は十分の様で護衛の二人から離れ、鞘から剣を抜いて構えている。


 「お願いします!」


 ミリアも綺麗にお辞儀をして剣を抜いて構える。

 ……というか、普通に剣を抜いて戦うのは大丈夫なのか。

 ミリアの力が強過ぎて木刀なんて一発で粉砕するのは分かるが危なくないか?


 俺の心配をよそに二人はやる気十分の様でいつでも戦える準備がある。


 「なら、僕は能力も魔法も使うつもりは無いけど自動的に付加される能力があるんだ。だから、ミリアちゃんだったよね?君も一つだけ能力を使って欲しい」


 自動的に使う能力?

 ステータス上昇などの能力か?


 「分かりました。【限界突破】!!」


 ミリアのユニークスキルの限界突破を利用し、白く淡く光り輝く。

 この一対一で一つだけ能力を使うのなら一番最適な能力だな。

 負けるな!ボッコボコにしろ!


 「……へえ。その歳でもう【限界突破】を自在に扱えるんだね」


 不敵な笑みを浮かべたミランさんは剣を強く握りしめ、構え直し二人は真剣な表情で対峙する。


 「では、剣聖の護衛である私が審判を行います。両者、正々堂々と試合を開始してください!」


 護衛の声に真っ先に動き出したのはミリアだ。

 十四歳になり化物級の速さを兼ね備えたミリアが地面を抉りながら駆け抜けミランさんに突撃する。

 砂塵が舞い、見える頃に――――ミリアの剣をミランさんは平気な顔で受け止めていた。


 「……嘘だろ」


 「…あの剣聖、中々やるわね。ミリアの一撃を受け止めたわよ」


 「今まで見たことがありませんね」


 誰もが当たり前の後景に思えるかもしれないが、俺やサーニャ、ファインからすれば有り得ない光景だ。

 何時だってミリアの本気の一撃には誰もが恐怖を抱き、魔物も例外ではない。

 S級の白竜でさえミリアの攻撃を最も警戒するほどには強烈なのだ。


 本気のミリアの攻撃をびくともせずに受け止めるのは初めて見た。


 「おりゃあああああああああ!!」


 ミリアが更にもう一撃と振り上げて叩きつけると、ミランさんもそれに応えんと言わんばかりに受け止める。

 二人の周囲の地面だけ削れ、抉れていく。

 周囲がざわつく中でも二人の攻防は止まらない。


 ミリアが縦に、横に、斜めに連撃を繰り出すのをミランさんは平気な顔で受け止めるが地面はめり込んでいくので超人的な戦いと化している。

 周囲はもう言葉も出ない様で唖然とした姿で見つめている。


 「うん、悪くないね」


 「ハア…ハア」


 あのミリアが息切れをしているのにミランさんは汗一つ垂らさずにミリアの連撃を受け止めていたが…雰囲気が変わる。


 「――――ッ!?」


 俺が感じた物をミリアも瞬時に察したのか攻撃を止めて一歩下がる。


 「…フフフ。悪くないね。反応も敏感だし殺気も感じ取れてる。後は努力次第だね」


 不敵な笑みを浮かべるミランさんだが、明らかに先程とは雰囲気が変化している。


 「行きます!!」


 それでも動く以外に道はないのはミリアも承知なのか、更に強く足を踏み出し突撃して中段から横に一閃すると見せかけ、フェイントを入れて上段から剣を振り下ろす。

 間違いなく入るか受け止めるしかないと踏んだがミランさんは――――綺麗に右に避けミリアの首元に剣を添える。


 「僕の勝ちだね」


 「あ、ありがとうございました」


 全員が称賛の拍手を送るが…今の違和感は何だ。


 「ミリアちゃんは今まで力で誰にも負けたことが無いよね?」


 「はい…」


 「これからは力を抜いて技術を磨けばもっと強くなると思うよ」


 「分かりました。ありがとうございます!」


 ミリアは清々しい笑みを浮かべ、お辞儀をして戻ってくるが俺は今の攻撃に関して興味が尽きない。


 「いやー、負けちゃったよ。次はアレン?」


 「今の攻撃はミリアの剣速を考えれば避けられるか?剣聖だから避ける技術なども…」


 「ミリアさん、ご主人様が考え込んでいる時は誰が話しかけても無駄ですよ」


 「そうよね。魔法の時も考察し始めたら止まらないし」


 二人の言う通り、今は誰の言葉も頭に入ってこない。

 左から聞こえたと思えば直ぐに右に流れていく。


 考えろ、今のがミランさんが言っていた能力の一部なのか。

 ミリアの攻撃を簡単に回避する能力の可能性もある。

 しかし、最初の攻撃さえ受け止めることなく攻撃できたはずだが、最初は出来ない制限などもあるのか?

 もしくは、相手の攻撃をある程度受けることで出来る能力の可能性もあるが…急に雰囲気が変化した事でも辻褄が合わない。


 「ご主人様、ファインが先に戦っても良いですか?」


 「うん。お願い」


 まずは、もう少し観察だ。

 ファインなら簡単に負けるわけがないが、ミリアでさえ一瞬で敗北したのだ。


 「ご主人様にお仕えしているファインと言います。ファインは剣ではなく爪でも良いでしょうか?」


 「勿論。全力で戦わないと面白くないし…君も中々に強そうだね。剣聖との勝負は鞘が破壊される可能性が抜いたけど、これから誰か僕から鞘から抜けるかな?」


 ミランさんの瞳が薄く微笑みながら俺を射抜く。

 明らかに俺に対する挑戦状だよな。


 「ファインが抜かせてみせます!!【獣化】」


 ファインの体毛が増加し、牙が研ぎ澄まされ、爪が更に伸びていく。

 獣人特有の能力であり、ファインが身体能力も何倍も増強される優れものだ。

 ミリアの【限界突破】に引けを取らない上昇を見せるが…剣ではなく爪にどう対応する?

 自分の身体を使う分でミリアより力は劣るが速度は上だ。

 手数勝負に持ち込めばファインにも勝機がある…のか?


 「おお!凄いね。獣人でも稀に出る【獣化】を扱えるとは…。しかも、意識が遠のいてる様子も見えないし最高だね」


 俺の予想通りと言うべきか、ファインの【獣化】を見てもミランさんにはあ同様の姿は無く、自然な構えでファインと向き合っている。


 「いきます!!」


 ファインは地面を擦る形で踏みつけるのではなく素早い動きでミランさんに近づき、鋭利な爪で切り裂くがミランさんは難なく受け止める。

 この攻撃は受け止める…否、躱せないのか?


 「はあああああああ!!」


 この八年間で伊達に何度も修業はしていない。

 俺だけではなくミリアとも何度も対戦を重ね、力の強い相手との攻撃方法や対処方法も身に付けた。

 ファインは俺と似た戦法で相手との鍔迫り合いになれば勝てないことを理解し、次々と連撃を繰り出すことで手数で攻める戦法のようだ。


 ミランさんは表情は変わらないがファインの攻撃に防戦一方……なのか?

 ミリアの時も同じだが、初めはわざと受けているように見える。

 これは授業でありミランさんは助言をするために敢えて受けて、雰囲気が変わった瞬間に攻めるという形を作り出しているのか…。


 「今の所は普通ね」


 「うん。でも、急に変わるからな」


 「そうなの?」


 サーニャには感じ取れない様で首を傾げているが、直ぐにミリアが話に参加する。


 「そうだよ。私も頑張って攻めようと思ったんだけど突然殺気だって危ないと思って下がったんだよね」


 ミリアの言う通り、あれは間違いなく殺気だ。

 それも…今まで見たことも無い程の強烈な殺気だった。


 「――――ッ!?」


 ミランさんに何十発と連撃を繰り出していたファインの毛が一瞬で逆立ち、連撃を止めて距離を空ける。

 意を決したのかファインは加速し、ミランさんに近づき――――ミリアの時と同じように攻撃を躱され今度は横っ腹に剣を添えられていた。


 「はい。お終い」


 満面の笑みを浮かべるミランさんに対してファインは一度大きく深呼吸をして綺麗に頭を下げる。


 「ありがとうございました」


 「うん。君はもう少しフェイントを加えると良いと思う。力頼みじゃなくて速さ重視で割り切って動くのは良いけど技も覚えないとね」


 「はい」


 モヤモヤが晴れた訳ではないが、この人は……只者じゃない。

 最近では速さ重視の攻撃を仕掛けるファインだが、攻撃が直線的過ぎるので技を覚えようと話し合いをしていたのだ。

 それを一戦交えただけで理解し助言できるのは本物の強者ならではの技だ。


 「さあ、どんどんいこうか」


 ……俺はこの化物に勝てるのだろうか。

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