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ミリアとアレン

 「……勝ったよ、アレン」


 剣を鞘に仕舞い、ミリアは何時も通りの微笑みを浮かべて戻ってきた。

 その笑顔に……俺は何度救われているのか。

 何度、勇気を貰えているのか。


 自然と足が前に出ていた。

 肩の痛みを忘れてしまい、俺は全力でミリアに抱きついた。


 「わ!?あ…アレン?」


 「……無茶するなよ」


 コンマ数秒の世界だった。

 もしも、一秒後にはミリアがフラウスの様に倒れていた可能性だってあったのだ。

 恐ろしく背筋が凍る程の恐怖が確かにあったのだ。

 勝てると思っていた。

 信じていた。


 それでも、拭えないのだ。

 だから――――恐怖と呼ぶのだ。


 「無茶をしたら駄目なのはアレンだよ」


 抱きしめたミリアの腕が震え、掴む腕の力が強まる。


 「…私は弱いよ。馬鹿だよ。それでも…力になりたいんだよ。アレンが何に悩んでるのか私には分からないよ。だけど――――助けたいんだ。アレンが困ってたら絶対に助けるからちゃんと頼ってよ」


 「――――ああ」


 ミリアの言う通りだ。

 人と言うのは温かい。


 俺だけの実力ではない。

 ミリアの力が強いのは確かだ。

 それでも、大切な物を手放さずに済んだのだ。


 「……たよ…らせてくれ」


 嗚咽を吐き、涙を堪えながらも耐えることも叶わず、情けない顔になりながら涙を流し続けてしまう。


 「もう、泣かないでよ。アレンが笑顔になるために頑張ったんだからね」


 この体は温かい。

 温もりがあるんだ。

 俺を出迎えてくれる大切な幼馴染の温もりがあるのだ。


 「ごめんな。温かくてな…」


 「うん!温かいね!」


 本当に…無事でよかった。


 ◇


 「お主の傷はどうじゃ?」


 「大分良くなりましたよ。セルシィさんの回復魔法のおかげです」


 セルシィさんがまほうが得意と言うのは口だけではなかった。

 タキシムとの一戦を終え、俺とミリアも互いに落ち着いたところでセルシィさんが優しく肩に触れると薄緑いろに光り、みるみると痛みが引いたのだ。


 「百年ぶりぐらいに面白い戦いが見えたからそのお礼じゃな。感謝なら儂を驚かせた剣聖に言うんじゃな。だが、儂の回復魔法はレベル1じゃからな。傷口は簡単には塞がらん。無理に動かせば傷が開くぞ」


 セルシィさんに注意されるが、多少の出血で力は抜けているが全く肩に違和感はない。

 グルグルと肩を振り回しても……、


 「ギャアアアアア!!肩から血が!?」


 「おい、子猫。この小僧は本物の馬鹿じゃな」


 「あちしがアレンと契約していることが恥ずかしいにゃ」


 呑気な声を上げる年長者の一匹と一人だが、俺は落ち着いてられる状況じゃない。


 「ご主人様!直ぐに応急処置をしますから!」


 「ファインは優しいな」


 優しく手慣れた手つきでファインが薬草をすり潰して塗ってくれるのが染み渡り、じわじわと熱を帯びて痛みが引いていく。


 「どうですか?」


 「完全に治ったよ。もう、これなら何度回しても」


 「ご・主・人・様!!」


 ファインが腰に手を当て、顔を前のめりに近づきながらジト目で睨まれる。


 「じょ、冗談だって」


 俺は馬鹿じゃないから何度も間違えない!

 しかし、ファインは本当に優秀な子だな。

 傷も治せて魔物の位置も特定出来て、俺には本当に勿体ない天使だと思う!


 「さあて、傷も癒えたし魔物が戻ってくる前に少しでも進もうか」


 腕は完治していないかもしれないが、剣術よりも今は魔法の方が得意なので腕は酷使しない方向で進めば問題はない筈だ。

 ……それに、今はミリアも頼らせてもらう。


 既に俺よりも強い気がするのだが、今は気にしない。

 この森を乗り越えてからみっちりと特訓を再開させよう。


 「ちょっと待つんじゃ。小僧、その小娘の告白に対して返答はせんのか?」


 「え!?わ、私は」


 立ち上がり、前に進もうとしたがセルシィさんから変なツッコみを受ける。

 ミリアが驚いた声を上げているが……ああ、ミリアに大好きとか言われたな。


 「そう言えばセルシィさんは知らないと思いますけど、ミリアが俺の事が好きなことぐらいは知ってますよ」


 「ほう」


 「え!?」


 セルシィさんが興味深そうに、ミリアが驚いた声を上げるが俺は鈍感ではない。

 と言うか、ミリアは気付かれていないと思っていたのか。

 あそこまであからさまでは俺でも簡単に気付けてしまう。


 「俺もミリアの事は好きだよ」


 「ほ、ほんと!?」


 「こんな嘘はつかないよ」


 ミリアが満面の笑みを浮かべるが、今更な話だ。


 「ミリアが俺の事を剣仲間として好きなことぐらいは俺でも分かるぞ。後、幼馴染としてもか」


 「へ?」


 「は?」


 ミリアの間の抜けた声と、セルシィさんが眉を顰めているが…変な事を言ったか?


 「毎度、抱きついて来るし、剣で勝負を挑まれるしこれだけ仲良くしてるんだからそれぐらい当たり前に気付けるって」


 「……小僧。お前、そこまで馬鹿なのか?」


 「え?何がですか?」


 「あちしは薄々こうなると思ったにゃ」


 「ファインもです」


 全員が全員、溜息を零している。

 ……何が違ったのかが皆目見当もつかない。


 まさか、ミリアが俺の事を恋愛対象として好きなわけでも無かろうに。

 前に俺の事を好きかと聞いた時も真顔で呟いていたし、恥じらった姿が無かったことからもミリアにはまだ恋愛感情と言うのが芽生えていないのだろうと結論づいている。


 恋愛感情って強いの!?と聞かれるのではないかと思えるほどにミリアの頭の中には剣術で一杯だ。


 「さあて、全部解決したし森を抜けようか」


 「儂が馬鹿なのじゃろうか。大事なことが解決しとらん気がするが」


 「セルシィ、諦めるにゃ。ミリアもまだ耐えるにゃ」


 「わ、私は全然気にしてないよ!」


 いつの間に仲良くなったのかは定かではないが、セルシィさんとタマ、ミリアが談笑している姿を見ながら前を向く。

 ファインが隣にいるので安心安全、更には癒し効果まで発揮している。


 「ご主人様、ファインはもう少し積極的になります」


 「ん?どうしたんだ?戦闘はまだ駄目だぞ。ファインには危ないからな」


 「……本当に頑張ります」


 何処か強い意志が取れるファインがやる気を漲らせながら進んでいくが…大変だ。

 女心が全然分からない‼︎

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