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説得

 「二人とも、聞いてくれ。この人は怖くない!だから、大丈夫だ!」


 「獣魔よ。あの小僧は馬鹿じゃな?」


 「良く分かったにゃ。大正解にゃ」


 背後から妙な横槍が入るが二人はもう仲良しなのか?

 それでセーフじゃダメなのだろうか。


 「アレン、大人しく皆で森を頑張って出ようよ」


 ミリアがチラチラとエルフの人を気にしながらこっそりと伝えてくるが、


 「ミリアこそ頑張ってあの人と仲良くしてみてよ」


 「無理だよ!エルフだよ!?何でアレンは平気なの!?」


 余程エルフが怖がられているのか、ミリアに本気で怒鳴られてしまう。

 一先ずミリアは置いてファインを説得しよう。


 「ファインはどうだ?」


 「ご、ご主人様の言うことは全て受け入れるつもりですが…流石にエルフは…ファインも怖いです」


 あの特訓以降、何でも言うことを聴くファインでさえ無理なのか。

 二人はエルフに対しての偏見を持っている。

 それを考慮すればまずは目の前のエルフの人が怖くないというのを知ってもらう必要がある気がする。


 「二人とも、考えて欲しい。あのエルフの人はどう見ても子供だ。もう、子供がお婆さん口調のロリババアって考えたら怖くなくなるだろ?」


 「人を変える前に貴様の身体を跡形もなく変えてやることの方が容易いぞ」


 「……と、冗談は置いておいて普通に優しいお姉さんだと思ってます」


 今まで隠しきれていた殺気を解き放ったのか全身から溢れんばかりのオーラに一瞬で身が竦んでしまう。

 はい、俺が悪いです。


 「まあ、怖くないと俺は思うけど二人は怖いんだよね?」


 「当たり前だよ!良い噂なんて聞いたことも無いんだよ!」


 「ご主人様、ファインも鼻や耳で協力するので大人しく三人で森を抜けましょう」


 ……確かにここで苦戦しているのならファインやミリアの言う通り、三人で協力して森を抜ける方が楽なのかもしれない。

 だけど、俺は一瞬だが見えてしまった。


 エルフの人の前に現れた恐怖に染まったミリアとファインの姿を見た時に、エルフの人は微かに――悲しみに満ちた瞳をしていた。

 ファインやミリアの言葉通りに三人でいくのが簡単な道だとすれば、俺は難しいエルフの人に教わる道を選ぶ。


 それが……俺が教えられたことだ。


 「二人はヴァルハラがエルフで人と対立して怖がっているのかもしれないけど、目の前のエルフの人はヴァルハラじゃない。普通の女の子だ」


 「だ、だけど人を殺したって」


 「その辺の話を俺も詳しく聞きたかったけどエルフの人は話してくれそうにない。だけど……何かが理由がある気がするんだよ」


 「どうしてですか?」


 ファインの疑問は当然だが、俺が最初に違和感に気付いたのは俺とエルフさんの最初の会話だ。

 もしも、エルフさんが人を殺すことを快感だと頭のいかれた狂人染みた思考を持っているなら俺もさして気にならずに全力で逃げ出すがこの人は違う。

 森を荒らしかと尋ねた時に問答無用で殺す事だってできたはずだ。


 「森が日に日に荒れ狂う姿を見てエルフさんも怒ってたみたいでさ、俺に尋ねて来た。質問して違うと分かったから何もしなかったし普通に色々と教えてくれたんだよ」


 何かあるのは分かるが見ず知らずの子供に聞かせる事ではないと判断したのかは本人にしか分からないが問いただして話すとも思えない。


 「直ぐに恐怖を拭うのは難しいかもしれないけど――――人は見た目じゃ分からないからなぁ」


 「……アレン?」


 「ん?どうした?」


 遠い目をして森を眺めながら呟くと、ミリアが覗き込むような視線を向けてくる。


 「ううん。何でもない」


 ミリアが一瞬だけ悲し気な瞳をした気がしたが…気のせいか?


 「まあ、例えばさミリアは力が強いよね?」


 「うん」


 「周囲に力が強いって噂が広まって近づくと骨を折られるから近づくなよって言われたらどう思う?」


 「私、そんなことしないよ!」


 うん。

 ファインとの特訓の時に危うく折れかけたんだけど今は気にしない。


 「例えばの話だよ。本当は優しくても周囲に力が強いってだけで誤解されたら嫌だろ?」


 「…それは…嫌だよ」


 ミリアが今度こそ落ち込むように視線を落とすが例えばの話で落ち込み過ぎだろ。

 俺が何か悪いことでもしてる様に見えてしまうではないか。


 「ファインも獣人だからってだけで狂暴そうだから近づかない方が良いって言われて誰も寄って来なかったらどう?」


 「…ファインはご主人様に…そ、そんな風に見られて」


 例えばの話なのにファインが涙目になり、目頭を押さえている姿を見て慌ててファインの両肩を持つ。


 「ち、違うから!例えばの話だよ!ファインは天使!超可愛いのに狂暴なわけないだろ!だけど、中身は可愛いのに見た目だけで判断されるのは嫌だろ?」


 「はい。嫌です」


 「二人とエルフの人も同じ気持ちだよ。見た目で判断されて拒否をされたら悲しいだろ。本当は優しいのかもしれないのに…話さないで決めるのは可哀想だ。だから、最初から駄目だと思うんじゃなくて話しながら判断しないか?」


 ミリアとファインが互いに顔を見合わせている。

 ……駄目…か。


 「うん。アレンの言う通りにしてみるよ!」


 「ファインも頑張ってみます」


 「……それは俺も嬉しい」


 二人が笑顔で頷いたのを見てエルフの人と三人で向き合う。


 「と言う事で森の抜け道を教えてもらえる最中に色々と話しながら進みませんか?もしも、お金が必要なら中央都市に行ってから払いますよ」


 エルフさんは俺達を一人ずつ見つめ、溜息を零す。


 「仕方ないんじゃな。森を抜けるまでは道案内をしてやるんじゃ」


 納得させ森を抜ける保証が出来た。

 後は森を抜けて中央都市まで行くだけだ!


 ◇◇


 何をしているのか分からない。

 朧げに見える視界からは草木しか分からない。

 自分が歩いているかも分からない。


 徐々に意識が薄れて行く中で――――幸せを願い続けた日常を消し去った男の顔が思い浮かぶ。


 「……にくい」


 もう視界も薄れてきた。


 「憎い」


 何をしているのかも分からない。

 何がしたかったのかも忘れてしまう。


 それでも――――復讐することだけは忘れない。


 「憎いいいいいいい!!!!」


 最後に見えたのは何も無い静かで孤独な草原だった。

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