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判断

 「……え?森から出られないの?」


 「……厳しくなってきたかも…。俺としては森を真っ直ぐ歩けば行けると思ってたから」


 「アレンは森を舐めてるにゃ。馬車屋の人ぐらいに土地勘が分かってる人でも遭難する人はいるにゃ。幾らこの森が小さいとしても普通の森にゃ」


 「ご主人様、どうします?ファインはご主人様の指示に従いますが、森の抜け道も知らない状況では厳しいと思います」


 今までの仲でも最も危険な状況かもしれない。

 父にああいった手前、恐らくだがもう迎えは来ない。

 森を舐めていたのも全部俺のせいであり、誰のせいでもない。


 俺の落ち度ではあるが…まだ、挽回できないだろうか。


 全員で森を抜ける方法を……、


 「大丈夫じゃない?」


 「ミリア?」


 「大丈夫だと思うよ。私とアレンで最強だよ!」


 ……ミリア。

 今のは最近女心が分かっていない俺でも容易に察することが出来た。

 俺を気遣い全員を元気づけようと両手を上げて全力で高らかに宣言する。

 しかし、その腕には確かな実力だけが秘められ誰にも否定の言葉を出させない。


 「そうか…そうだな。大丈夫な気がしてきた!大変な時はその時に考えよう!森で遭難しても動物でも何でもファインが見つけられるし生きられるからな!色々と考えるのは俺の趣味じゃない!」


 最近は俺が仕切ることが多かったが元々は俺は陰でのんびりと何も考えずに過ごして生きたいのだ。

 くよくよ考えても仕方がない。

 目の前にファインの鼻で動物でも何でも狩れて、ミリアの実力で魔物を蹴散らすことも出来る。

 それだけで生きていける気がする。


 「何も考えない訳ではない。だけど、何事も色々と考え込まずに楽しんで進もうぜ!」


 「アレンはそれでいいよ!」


 「ファインも付いて行きます」


 「仕方ないにゃ。前途多難な道も悪くはないにゃ」


 三人と一匹で森の中に向けて再び歩いて行く。

 その道のりは確かに難しいが――何とかなる気がした。


 ◇


 「――――疲れた。ここは何処だ」


 「アレンにゃ。お前は本物のばかにゃ」


 能天気に森の中に入ったのも束の間の出来事で歩いて何時間経過したのかは分からないが、一日の疲労が蓄積されて足が重たい。

 更に言うと出口のない迷宮を歩き続ける事に精神が消耗されてしまう。


 森を舐めすぎてた!


 「ご主人様、お水です」


 「あ、ありがとう」


 隣を歩くファインから水を貰い、周囲を見渡すが自分が立つ場所が進んでいるか否かも分からない。

 同じ所を歩いていると言われるとそんな気がするし、違うと言われれば納得してしまう。

 今の現状で最も適切な言葉は遭難だ。


 「……ファイン、森の中で過ごしても俺の傍にいてくれるか?」


 「ご主人様、気を確かに持ってください。因みにファインはご主人様の傍を離れることは永久的にありません!」


 「おお!ファイン、本当に可愛いな」


 ファインは当たり前のように呟いているが、その一言に後十年は永遠に走ることが出来る気がする。


 「二人とも遅いよー」


 一人だけ暇なのか剣を素振りさせながら歩くミリアの姿は本当に化物にしか見えない。


 「…ミリアは元気すぎるんだよ」


 「アレンがだらしないんだよ!私は普通だよ」


 ミリアが普通と言うのは世間一般的に考えても有り得ない。

 俺は前世の頃は何度も借金取りから逃げ惑う生活をしていたので体力の配分や動き方は知っている筈なのだが知識で覆せないのが体力だ。

 効率的に歩いているにも関わらずそれを覆すミリアの体力には心底驚かされる。


 「不幸中の幸いにゃ。魔物がいないからこそ順調に進んでるにゃ」


 「だなー。もう少し進みたいけど夜に向けて食料も確保したいね。魔物がいないからこそ今の内にさ」


 「食料を確保するのはファインに任せて下さい。直ぐに取って来れます!」


 「ありがとな。俺も一緒に行くから」


 森に絶賛遭難中で苦労しているが、ファインが優秀で頭が上がらない!

 情けないご主人様でごめんなさい!


 「アレンー、私はどうしたら良いの?」


 両手で剣を振りながら爆風で草木を無い物として歩いているミリアの姿を見れば…もう言葉は浮かばない。


 「うん、ミリアは取り敢えず剣でも振ってれば魔物も近づいてこないと思うよ」


 「アレン!!アレンは私に冷たいよ!もっと甘やかしてよ!」


 先頭を歩いているミリアが涙目で俺の所まで来て胸倉を掴んで揺らす。


 「今まで甘やかしすぎたかなって。もうそろそろ厳しくしないと駄目かと」


 「嫌だよー!私はアレンに甘やかされたいよー。ギュッとしていいし、撫でてもいいよ!」


 「子供か」


 「子供にゃ」


 そうだった。

 俺は違うけど目の前の二人は普通の子供だった。


 「アレーン。甘やかしてよ。ギュッとするよ。良い!?」


 「何の質問だよ。ファインと一緒に食事でも探してきてよ。その間に俺とタマで火起こしをするから」


 「ギュッと」


 「動物を狩りに行って来て」


 「むう」


 不満そうに頬を膨らませているミリアを軽くあしらい、ファインとの動物狩りを諦めて二人に任せる事にする。


 「ここを拠点にして、ファインなら俺の匂いを辿れるよね?」


 「はい。ご主人様の匂いなら十㎞離れても分かります!」


 「助かるよ。ファインとミリアでお願いね」


 ファインの嗅覚で居場所を特定し、ミリアの実力で魔獣を狩る、完璧な二人であれば安心して任せることが出来そうだ。


 「いいよーだ!アレンなんて放っておいていこうファインちゃん!」


 ミリアがファインの手を握り森の奥に歩いて行くのを見て俺も行動を開始しよう。


 「タマは周囲の確認をしてて。俺は手ごろな乾燥した木を探してくるから」


 「待つにゃ」


 「ん?どうした?」


 俺も適当に目的地が分かるように印をつけて行動しようとしたが、背後からタマの真剣味を帯びた言葉に足を止める。


 「乾燥した木が燃えやすいのをどうして知ってるにゃ?」


 「それは」


 「本で読んだは流石に通用しないにゃ」


 タマの方を向き直り、常套句の言い訳を並べようとしたが通用せずに先に潰されてしまう。


 「乾燥した木が燃えやすいなんて書かれている本は無いにゃ」


 「……」


 「あちしは別にアレンが何者でも気にしてなかったにゃ。だけど、流石に無理があるにゃ。五歳の子供が出産の方法を知って、今も森で遭難しているのに落ち着いているにゃ。盗賊やフラウスが襲い掛かって来た時も平常で――――絶対にあり得ないにゃ。ここには誰もいないにゃ。正直に言うにゃ」


 鋭いタマの眼は流石に誤魔化せないか。

 徐々に落ち着き、誰もいないタイミングだからこそタマも尋ねているのだろう。

 別に隠している訳でもない。


 気になるのなら、


 「――――誰もいないというのは心外じゃな」


 「――!?」


 俺が人が寄って来ていたのに気配に気付かなかった…?

 森の奥の陰からはっきりとした幻聴でもない声が聞こえ、振り返るがその場には誰もいない。

 小さく足音が聞こえ、徐々に明瞭になる姿に目を見開いてしまう。


 「お前たちか。この森を永遠と荒らし続けていたのは。儂の森でよくもぬけぬけとそんなことを出来たの」


 小さな背丈で俺やミリアと遜色ない小さな子供だが…その雰囲気は確かに大人の風格を漂わせている。

 緑色のお団子ヘア、翡翠色の綺麗な瞳に可愛らしい長い耳を生やした――――エルフが確かに佇んでいた。


 「――――覚悟は出来ておるんじゃろうな」

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