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不穏……

 アレンside


 サーニャと母の姿を見てフラウスと対面すると先程までの笑みを消し、自分の思い通りに動かない現状に青筋を立てている様子だ。


 「あー、本気でイライラする。茶番なんて見せやがって。全員ぶっ殺してスッキリするか」


 フラウスが剣先をまずは俺の方へ向ける。


 「ご主人様はファインが守ります」


 「アレン、私も手伝うよ」


 左隣にファインが立ち、右側に木刀を持ったミリアが並ぶ。


 「カッコよかったよ」


 「はい。素敵でした」


 両隣から称賛の言葉が贈られるが…気恥ずかしいので勘弁して欲しい。

 それよりも、二人は戦闘をする気があるが――――これ以上は二人には酷すぎる。


 「ファイン、ミリアもお願いがある。サーニャと母さんを連れて見えない所まで下がってくれ」


 「……ご主人様?」


 「お願いだ」


 フラウスから目を離さずにお願いをする。


 「うん。ファインちゃん、二人を連れて離れよう」


 「は、はい」


 抱きしめ合っているサーニャと母を連れてファインとミリアが見えない所まで離れて行くのを確認してフラウスと対面する。


 「おいおい、全員を逃がすつもりでも無駄だ。俺は足跡を追って直ぐに追いかけられる」


 「勘違いするなフラウス。これは、俺のエゴだ」


 「あ?」


 「あんなに優しくて純粋な奴らに――――人を殺す瞬間何て見せるべきじゃない」


 これ以上、あいつらにトラウマを、心に少しでも陰りが生じるような景色を見せたくないという俺の我儘だ。


 「ハハハッ!!お前、勝てる気でいるのか!?水の弾丸なら一度見てるからな!俺は普通に躱せるぞ!?」


 「そうか」


 「後、さっきからフラウス、フラウスとさんを付けろよ!なら、少しは楽に殺してやるよ!」


 「――――お前が敬語を使えよ」


 「あ?」


 そもそも敬語と言うのは尊敬している人に付けるものであると考えているが、基本は年上に対しては敬語を使う。

 なら、フラウスは俺に敬語を使うべきだろう。


 「お前の何倍も年上だぞ?アレンさんと呼べよ。呼べば少しは楽にしてやるよ」


 「……決定だ。お前を半殺してあいつらの前で無残に殺す!!」


 フラウスが剣を構えるが、既に勝敗は決している。


 「最後だ。フラウス、上を見ろよ」


 フラウスが俺に対する警戒を弱めずに上を見る。

 ――――水の弾丸が既に五十発、フラウスを囲む形で用意されている。

 もう逃げ場はない。


 「お、おま」


 「俺達の森に行くのを保護者として協力してくれた事だけは感謝してる」


 「ぶっ殺す!!絶対に殺して」


 フラウスが慌てた様子で俺に突撃し剣先が俺に届くよりも先に五十発の弾丸が同時に降り注ぎ、血飛沫が散り――――フラウスは跡形もなく消えた。


 地面に落ちている剣には罪はない。

 その剣だけを手に取り、腕で血を拭い回収して静かにその場を後にする。


 「ごめん。待たせたね」


 「ご主人様!大丈夫ですか!?」


 「うん。後、ミリアに剣をあげるよ。これから必要になると思うし」


 「あ、ありがとアレン」


 戸惑うミリアに剣を渡した所で俺もその場に腰を下ろす。

 ……流石にしんどいな。


 「ご主人様、綺麗なお水なのでどうぞ」


 「ありがとう」


 ファインから手渡された水を一気に飲み干し…ようやくリラックスすることが出来た。

 落ち着いたところでこれからどうするべきかを考えないといけない。


 色々あり過ぎたが、誰よりも落ち着いて対処できるのは俺だけな気がする。

 ミリアもファインもまだこんな有り得ない状況で動揺はあるだろうし、サーニャと母はもうしばらくはまともに働かせるのは忍びない。


 一旦、落ち着くためにこの森に来たが村で食料を食い荒らした魔物たちが戻ってきて鉢合わせる状況だけは勘弁願いたい。


 「ミリアのお父さんとお母さんの気配はまだある?」


 「それが今は全く分からないの。大丈夫だとは思うんだけど」


 ミリアが不安げな声を上げるが…俺も父がどうなっているのかが気になる。

 フラウスが父の話をしていないという事は、ディオス村長を助けに行って入れ違いになっている可能性が高い。

 しかし、村には魔物が現れている。

 幾ら自我が無いとは言っても、欲求を満たせば普通に戻り父さんたちに襲い掛からない保証はない。


 「……仕方ない。こっそり村の方に戻ろう」


 「え!?あの魔物の大群の中に行くの!?」


 「大丈夫。魔物は食料を求めてるからバラバラに行動をしていると思うし、背後からの奇襲はタマが分かるよね?」


 「勿論にゃ」


 確認の為にフワフワと浮いているタマに伝えると安心な首肯が返ってくる。


 「盗賊の人達はどうするんですか?」


 「これは俺の憶測だけどフラウスは盗賊を揉み消すためにも魔物を呼んだんだと思うんだ。もしも、サーニャを奪うことが目的だったとしても盗賊連中が生きてるとフラウスの完璧な作戦は完了されない」


 「何でそう思うにゃ?」


 「理由は二つ。一つは盗賊連中が生きているとサーニャを略奪した証拠を全部揉み消すことが出来ない事。フラウスは何年も掛けて森の果実を奪ってまで作戦を実行する念入りに計画を練るタイプだ。なのに、自分以外に証拠を持っている盗賊連中は邪魔になるだろ?もう一つは盗賊は俺達の家に来ているにも関わらず魔物たちが押し寄せてきた。二つとも俺の憶測だけど魔物が現れた時点で盗賊たちは逃げ出していると思う」


 「納得したにゃ」


 タマが引き下がるが視線だけは雄弁だ。

 俺の方をジト目で見つめている。

 ……明らかにおかしいと思ってるよね。


 五歳の子供が全体の現状の把握のみならず、相手の思考を考えて行動するなんて絶対にあり得ないと自分でも思っている。

 別に異世界転生の事を黙っている訳ではない。

 信じてもらえないと思っているだけで、俺は幾らでも喋れるのだが今はこれ以上混乱することを話す気にはなれない。


 それは、タマも承知の上なのか視線だけは怪しげながらも言葉に出して問い詰めるような真似はしない。


 「なら、善は急げだ。今から行こう。ファインは周囲の足音と匂いを警戒して、タマは念のために盗賊なども含めて360°を警戒して進もう」


 「はい!」


 「分かったにゃ」


 サーニャと母も少なからず調子を取り戻した様子なので、全員で立ち上がり未だに燃え盛る村を見渡す所まで戻ってくる。


 「……ファイン、魔物の匂いは?」


 「沢山ありますが、ご主人様の言う通りバラバラに別れてます。ただ、全部を回避して進むのは難しいと思います」


 「まあ、多少は許容の範囲内だし大丈夫だと思う」


 魔物と戦わずに進めるのならそれに越したことはないが、世の中はそう甘くはないことを知っている。

 戦闘を視野に入れるなら剣を……ん?


 鞘から剣を抜こうとした時、俺の手の上にミリアの手が重なる。


 「アレンは少し休んでて。魔物が出た時は私が対処するから」


 「……だけど、ミリアはケロべロスの時の怪我は?」


 「大丈夫!私は頑丈だから!」


 確かにミリアは剣聖の職業も合わさり、耐久値はSと書かれていたので大丈夫なのだろうか?

 反対にサーニャの方は母に支えられながら歩いている状態だ。


 「私の斬撃を使えば魔物も一撃だから大丈夫!良いでしょ!?」


 ……何処か無理があるようにも見えるが、ミリアは俺の知らない所や大事な所は理解していると俺自身は思っているので素直に従っておこう。


 「なら、お願い。だけど、無理そうなら俺も手を出すからね」


 「任せて!」


 ファインの隣を歩くミリアの表情は真剣そのものだが…急に戦いたいとはどういうことなのか。

 まさか、俺がフラウスとの戦闘の後で少しだけ気が滅入っているのに気付いている……?

 いや……そんな訳ない……か。


 この時の俺は油断していたのかもしれない。

 まだ戦いは――――終わってはいなかった。

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