表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/147

ツンデレお嬢様

 「ぼくはアレン、ディオスさんにここにはいるきょかはもらったよ」


 「え?おじいちゃんが?」


 何も知らないのか、呆気に取られた表情をしている少女だが俺は今日は異世界についての情報を集めることを徹底するので構ってあげる余裕はない。

 ついでに言うと構うのはミリアだけでお腹一杯なのでもう十分です。


 近場の本を漁りながら探すがどれも小難しそうな小説や、経済などの話が多数ある。

 ディオスさんに聞くのも良いが、なんて質問をしよう。


 魔法を放ちたいのでまずはその基礎となる本が読みたいですなんて子供らしさの欠片も無い行動に出るのは厳しい気がする。


 「ねえ、あなたがてにもってるほんはまほうじゃないの?」


 「うん。そうだけど」


 ディオスさんに渡された水魔法のシンボルなのか青の雫のマークが記されている本を少女が指を差す。


 「そのほんはむずかしいのよ。よめないのになんでもってるの?」


 …まあ、普通に考えれば難しいのかもしれないが俺は読めるので大丈夫だ。

 気にしないでいい子は外で遊んで来なさい。

 家が近いからついでに俺の代わりにミリアの遊び相手にもなってくれ。


 「よめるからだいじょうぶだよ」


 「うそ!ぜったいによめない!」


 構って欲しいのかな?

 やけに突っかかる少女が俺を見て疑いの眼差しを向けてくるが、どうしよう。

 俺は異世界の情報に関する本を探すのに手一杯なのだ。


 「よめるよ」


 「ならよんでみて!」


 俺が何かをしようとする度に刺客を送ると言わんばかりに邪魔が入るのは何故だろうか?

 そういう補正でも掛かってんの?


 「もうよんだからよみたいならよんでいいよ」


 「うそつき!よめないんでしょ!」


 「…ハア。なら、うそつきでいいよ。ぼくはほかのほんをさがしたいから」


 「え」


 俺の言葉が予想外だったのか少女は目を丸くして固まったので今の内に探させてもらおう。

 お嬢様キャラの相手をしている場合ではない。


 まだ、体力も少ない中でミリアと遊んでここまで来る元気はない。

 今日が限られた時間だからせめて魔法の魔力消費量ぐらいは知りたい。


 「あった」


 本が散乱しているので少しだけ土台に使わせてもらい上の本を探していると『魔法の書』と書かれた本が見つかったので、手にとって土台から降りる。

 少し埃が掛かっているので払いのけて座って読むことにしよう。


 「ひっ、うう」


 「え?」


 静かに座って本を読もうかと思いきや、まだ隣で佇んでいる少女が喉をしゃくりあげ瞼を腕で拭っている姿が見受けられた。


 「よ…よんでよ。よんでくれても…いいじゃない」


 ――――成る程。

 今の状況を全て悟ってしまった。

 この子――ツンデレか。


 素直に本を読んでと一言伝えれば良いのに素直に伝えられないから俺を煽ってきたと。

 四歳でありながら中々難しい性格の持ち主のようだ。


 「ご、ごめん。ほんをよむからゆるしてくれる?」


 「ぜ…ぜんぶよんで」


 「はい。わかりました」


 駄目だ!

 女の子の涙には弱い!


 しかも、俺は前世ではツンデレが大好きだったのだ!


 この世界には俺が断りずらい性格の持ち主が多いのか?

 天然純粋無垢な少女とツンデレお嬢様、タイプは違えどどちらのお願いも断れる気がしない。


 ◇


 場所を移し、明るい場所で見たいと村長宅の綺麗に整えられた庭で二人で椅子に座る。

 村長って儲かるんだなぁ。

 中庭に椅子も常備で花も植え付けられて、微かに香る花の匂いが身体をリラックスさせるが、まずは謝ろう。


 「さっきはごめんね。僕はアレン、君の名前は?」


 「わたしはサーニャ。ほんをよんで」


 翻訳すれば全然許すから本を読んで欲しいと。

 俺は長年ツンデレ好きな所もあり、自然とツンデレキャラの言葉を翻訳することが出来る謎特技を持ち合わせているのでサーニャの伝えたいことが直ぐに分かる。


 「いいけど、なにがしりたいの?」


 「みずまほうをつかいたいの。おじいちゃんになんどきいてもおしえてくれなかった」


 ――――おかしいぞ。

 サーニャの言葉を聞いて気付けたが、ディオスさんはどうして俺に直接教えてくれなかったんだ?

 水魔法の本を渡すよりも先に俺に教える方が時間の短縮にもなるし、メリットの方が多い筈だ。


 ディオスさんが忙しいと仮定しても孫娘?の筈のサーニャに教えていないのも不思議だ。


 「……え。ねえ!きいているの!?」


 「え?ごめん。どうかした?」


 「だから、みずまほうをあつかうえいしょうがのってるでしょ!」


 「のってるよ」


 サーニャはお爺ちゃんに教えてもらうよりも先に早く水魔法を扱いたいようだ。

 俺の裾を引きちぎると言わんばかりに引っ張って駄々を捏ねられる。


 「はやくおしえて!」


 「ウォーターボールってえいしょうをとなえるとまほうができるよ。だけど、まりょくがひつようだから」


 「ウォーターボール」


 「おい!?」


 俺の言葉を最後まで聞かずに手をかざしてサーニャが唱えると…掌から水のサッカーボール程度の球体が現れて中庭の木に命中する。

 一発で成功…だと?


 「できた!!ねえ、いまできてたわよね!?」


 「う、うん。たいちょうにへんかとか…なさそうだね」


 魔力切れでも起こすのではないかとハラハラしたが、サーニャは立ち上がり魔法が出来たことによる感動で中庭ではしゃぎまわっている。

 同い年のサーニャにも出来たのだから俺にも出来る筈だ。


 「ウォーターボール!」


 掌をかざして魔法を唱えるが小鳥のさえずりと、サーニャの喜色に満ちた笑みしか見えず、俺の掌から水が出る事はない。

 あれ?


 俺だけ出来ないパターンですかね?

 嘘だろ?


 剣と魔法のファンタジーで魔法が使えないとか需要ないだろ!!


 余りの絶望的な環境に膝を折って初めて落ち込んでしまう。

 まあ、平凡を目指している訳ですし魔法が使えなくても不便ではないけど?


 ぜ、全然気にしてないんだからね!


 「アレンどうしたの?た、たいちょうでもわるいの?」


 「いや、まほうがつかえなくておちこんでるだけだから」


 俺が絶望して膝を折っている姿がサーニャには体調が悪いように見えたようだ。

 まあ、気にしないで前向きに、


 「し、しかたないわね!わたしがおしえてあげる!かんしゃしてよね!」


 ソッポを向いて若干頬を高揚させながらツンデレ発言をするサーニャ。

 要約すると、『落ち込まないで。私が教えてあげるから一緒に頑張ろう』と言いたいようだ。


 「おしえてほしい」


 「まずはてのひらにちからをいれてギュッとおしこむようないしきでめをつむってみて」


 「うん」


 隣でサーニャが丁寧に教えてくれるのに凄い違和感があるのだが、今は気にせずに魔法を撃つことに意識を持とう。


 「もういちどみずまほうの詠唱をとなえてみて」


 「ウォーターボール」


 サーニャの言う通りに詠唱を唱えると力のエネルギー?と言うべきか説明が難しいが、体内に広がる成分が掌に収束されサーニャと同じく水色の球体が現れ、木の方へと飛んでいった。


 「…で、できた」


 初めて異世界に来て感動を覚えたかもしれない。

 自分の手を再度見つめ直し、震える手を握りしめる。

 恐らく、俺はこの瞬間を忘れないと思う。


 「できたじゃない!わたしのおしえかたのおかげね」


 「うん!サーニャのおかげだ!ほんとうにありがとう!」


 サーニャの手を握り頭を下げて誠心誠意を込めて感謝の言葉を送る。

 一瞬だがサーニャはたじろぐ姿を見せ、俺の手を振り払い腕を組んでソッポを向く。


 「まあ、かんしゃしてよね!」


 要約すると俺が詠唱を教えたからお互い様と言いたいのだろう。

 …しかし、本当にできるとは…。


 「まほうはおもしろいでしょ」


 「うん」


 「しかたないからもっとおしえてあげる」


 簡潔に伝えるともっと一緒に魔法の勉強がしたいのだろう。

 俺も今回の経験を活かして他の魔法も使いたい欲求はあるが、


 「サーニャはいままでだれかにまほうをならったの?」


 「ならってないわよ。いま、はじめてできたんだから」


 ……おかしいな。

 説明が子供とは思えないぐらいに的確でしかも分かりやすかった。

 俺の前世の知識を合わせてもサーニャと互角の知能を持ち合わせている気がする。


 「きょうだけじゃなくてあしたもやるのよ」


 「うん。え?」


 反射的に答えたが、いまなんと?


 「いちにちじゃわすれるんだから。しっかりやらないとだめだからあしたもきていいからやるのよ」


 ふむ。

 要するに同じ魔法を使う友達として明日も一緒に頑張ろうねと言いたいのだろう。


 「わたしはおひるからおべんきょうがあるからあさからきてね」


 「……え、ええと」


 あれ?

 これは大変ではないか?


 午前中はサーニャと一緒に魔法の練習をして、午後からはミリアと一緒に剣術の勉強をする。

 流石に…厳しい気がするな。


 「…い、いやなの?」


 潤んだ瞳で不安げに上目遣いで見つめるサーニャの表情を見て俺は決意する。


 「やろう!」


 これは断れる気がしない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ