努力の結晶
「眠れない」
魔物が姿を見せないので戦う機会がめっきり減り、変幻自在で分かることは大体検証を終え、俺もミリアと同様に斬撃を使えたのですることが無くなり、最終的にはフラウスさんと共に全員を監視する立場として見周るだけで終わってしまった。
こっそりと魔物が現れない元凶であるB級の魔物でも狩ってやろうか。
「……ん?」
隣ではミリアも最近は全力で動いているのか直ぐに寝ているが、反対に存在する筈のファインがいない。
因みにサーニャは最近元気のない母を気遣い母の隣で寝ている。
二人部屋の寝室でサーニャが来たことで父が布団から出て椅子で寝ているが何処でも自由に眠れるという事でリビングで爆睡している。
「ファイン……?」
部屋からゆっくりと出てリビングを見るが父がいびきを掻いて寝ている姿しか見つからずファインの姿が見えない。
真っ暗で何も見えないのに、トイレにでも行ったか?
しかし、トイレに行っても見つからない。
こんな夜遅くに何処に行った?
玄関を出て外に出てみるが人の気配はない。
念のために家から剣を持ち出して中庭の方に行くと……ファインがいた。
月光に照らされる中庭の中で一人で反復横跳びの練習をしている姿があった。
「アレン、静かに見守るにゃ」
「タマ?起きたのか?」
「あちしは寝なくても過ごせるにゃ。ファインが夜に外に出るのを見てこっそり見守ってるのにゃ。ファインはお前さんの課題を達成するつもりにゃ」
タマがフワフワと浮きながら俺の前に現れ、これ以上進むのを止めた。
小さな隙間からファインの方を見ていると汗をぬぐいひたすらに練習をしている。
「かれこれ、二時間以上はやってるにゃ」
「二時間!?今日も永遠とやってたのに!?」
ファインは休まずに今日も朝から晩まで永遠と動いていたのに…夜もしていたのか。
「そうにゃ。ファインは永遠とあの動きを繰り返しているにゃ」
指導者を目指している人の気持ちが少しだけ理解出来たかもしれない。
わざわざ知らない人を教えるなんて俺には無理だと思い込んでいたが…自分が教えている人が少しずつ成長し、今では自分から動いて行動している。
その努力に俺は…感動してしまう。
「……ファインは偉いな」
「今後の楽しみが一つ増えたにゃ。ファインがどれだけ成長するか楽しみにゃ」
「俺もだ。良し、ぐっすりと寝るから俺がここに来たことはファインに教えないでね」
「分かったにゃ」
指導者としてファインに負けてられない。
◇
「やった!もう斬撃は完璧にできるよ!」
「良かったな」
何も教えてないのにミリアは斬撃を完璧に覚え、大はしゃぎをしている。
「…ふう。集中すればいけるわね」
サーニャも徐々に成長しているようで、最初は少しでも前準備という展開で覚えれば良いと思っていたのに、左手にはウインドカッター、右手には土魔法のアースボールが作り出されて、同時に攻撃が出来ている。
俺だけ置いて行かれている気がする!
魔物、速く出て来てくれ!
「ご主人様、今日の回数を数えて貰っても良いですか?」
「うん、いいよ」
「タマは時間を数えてくれる?」
暇そうなタマに時間を数えてもらい、俺は数を数える事にする。
「了解にゃ」
「始め!」
開始の合図と共に始めるが…たった一日で大分変化している。
俺は助言も何もしなかった。
自分から何でも教えるのではなくファイン自身に気付いて欲しいのもあったが、誰かに聞くことをファインに率先してやってほしかった。
…しかし、一日で大分コツを掴んでいる。
反復横跳びで意識をするのは、自分の意見として言わせてもらうと足の指と重心だ。
重心が前に傾き過ぎても駄目だが、後ろに下がり過ぎても駄目だ。
足全体で動くというよりは足の指を利用して動くのが一番良いのだが、それをファインは自分自身で回答を導き出して動いている。
今が何秒かは分からないが既に三十回は超えた。
「終わりにゃ」
タマの終わりの合図とともに息を切らしたファインが膝に手を付いている。
「……四十回だ」
「…ハア…ハア。駄目です…ね。まだ、修業が足りませんでした」
ヴォルさんがファインを俺の元に送り出した意図を少しだけ分かったかもしれない。
昨日の今日でここまで変わるのはファインの成長速度ではない。
そもそも、ファインには四十回をするだけの力が備わっていたのだ。
ファインに必要なのは力の使い方だ。
「これは…」
ファインはまだ四歳でありながら通常の道を外れた成長を見せている。
ミリアに勝るとも劣らない潜在能力が秘められている気がする。
獣人とはここまで強いのか?
もしくは、剣聖はまだこれ以上に強くなる曲線が上だが獣人は途中で止まる可能性もあるが、現段階で四歳の域は軽く超えている。
もう少し異世界の情報に関して知りたいのでディオス村長に頼んで本を貰いたいが…明日はサーニャの誕生日会なので明後日だな。
後、中央都市に行った際には色々とヴォルさんにもう一度話を聞こう。
「ご主人様、もう少し自主練をしても良いでしょうか?」
「う、うん。お願い」
40回出来れば御の字でもう俺の想像を超えている。
もう大丈夫だと、よく頑張ったと褒めたいが最近、女心が分かっていないと自覚している俺でさえ――ファインがそれを求めていないのは分かる。
「タマも凄いと思わない…か?タマ?」
ファインに聞こえないようにタマに耳打ちするが、タマは何処か遠くを見つめるように険しい表情をしている。
「…アレン、明日はサーニャの誕生日会の後は何か用事があるにゃ?」
「いや、特に決めてないけど」
「少しあちしはこの森を調べたいにゃ。夜はいないからよろしくにゃ」
タマが真剣な表情で森を見ているので俺も辺りを見渡すが、何も分からない。
「前も言ってたけど何が変なの?」
「うーん、あちしも少しだけ分かる気がするだけにゃ。もう少し調べたら何が分からないのかが分かる気がするにゃ」
俺には分からないが年齢不詳のタマだからこそ分かることもあるのだろう。
……だけど、タマに言われて森を見て俺も少しだけ違和感があるような…無いような曖昧な気持ちになる。
「オッケー。俺もタマの言うことは気になるし一緒に調べよう」
明日はミーシャは母とずっと一緒に居るだろうし、ミリアは寝ているだろうからこっそり調べてみよう。
「ねえ、次は並行詠唱をやりたいんだけどアレン見てくれない?」
「私も限界突破がやりたい!」
「はいはい。今から行くから待ってね」
二人に呼ばれ、駆け足気味に歩いて行く。
――――明日はサーニャの誕生日会だ。




