誕生日プレゼント
「――――来週、サーニャちゃんの誕生日があるのよ」
「へえ」
現在、サーニャたちの能力検証を終えた翌日の朝に俺とミリア、ファイン、タマ、父、母で朝ご飯を食べながら母が真剣な表情で呟いた。
「へえじゃないのよアレン。貴方、あんなに良い物を貰っておいて何もあげないなんて」
「流石にそこまで外道な人間じゃないよ!」
母の指摘に立ち上がりながら力説する。
「ところでサーニャちゃんは今日は来てないの?」
ミリアが素朴な疑問を投げかけるが、俺も気になっていた。
何時もサーニャが朝ご飯を作って感謝しなさいよねの朝一のツンデレを見るのがもう日課のように感じていたのに、今日は見ていない。
「サーニャちゃんは昨日お父さんがディオス村長と飲んでいる時に伝えて貰っ手今日の朝はサーニャちゃんを引き留めて貰ってるの」
ディオス村長も協力しているのか。
「だから、皆でサーニャちゃんをサプライズで祝ってあげるのよ!なので、皆はプレゼントを用意してください」
「「「はーい」」」
俺とミリア、ファインの三人で元気よく返事をしたがミリアには後で念入りに伝えよう。
今日でも後で来た時にサーニャの誕生日会を来週にやるからね!っと喋りそうで怖い。
「ご主人様、一つお伝えしないと駄目な事があるんですけどポーチにもう魔石が入りません」
「え!?そんなに溜まった?」
「はい。なので、そろそろ換金するか違うバックが無いと厳しいです」
気にもしていなかったが魔石を入れるのにも限界はあるよな。
何処かに何でも入るチートなバックとか落ちてないかな。
「あら、丁度良いんじゃないの?その魔石を換金してサーニャちゃんのプレゼントを買ってきなさいよ」
「良いね。毎日根を詰めすぎるのも駄目だし今日は休息日にしてサーニャが来る前に誕生日プレゼントを買いに行こう」
「そうよ!そうしなさい!今日は絶対に森に行ったら駄目よ!」
適当に喋っていたが母が想像以上の食い気味に前のめりで発言している。
…まだ心配されてるか。
「分かったよ。二人とも、今日は買い物に行こう。母さん、サーニャにはファインを色んなものを見せる為に出かけてるって言い訳しておいて」
「ええ。任せなさい」
森に行かないことが余程嬉しいのか母が満面の笑みで送り出してくれた。
もう少し頑張って母に心配されないぐらいに強くなりたい。
そろそろC級の魔物にも手を出そうかと考えたいが、今はサーニャの誕生日プレゼントだ。
高価な剣を貰えたしそれに対する恩返しをしたい。
けど…プレゼントのセンスとか俺には皆無だし誰か相談できる人は……、
「あ!丁度良いからアンヌさんでも誘って」
「駄目です」
「へ?」
名案を思い付いて口に出すと初めて見る真顔のファインが俺を見つめている。
ファインさん?顔が凄い怖いですよ?
「絶対に駄目です」
「ふ、ファインはアンヌさんの事が嫌いなの?」
「嫌いではないです。優しくて良い人です」
「だよね。だから」
「でも、駄目です」
「……」
やばいよー。
ファインちゃんの反抗期ですか?
ミリアもサーニャも反抗期はまだ来てないけどファインが先なの…。
「そうだよ!アレンってばアンヌさんに会ったらだらしない顔になるんだよ!ねえ、ファインちゃん」
「そ、そうです!私もご主人様のあのだらしない顔は駄目だと思います!」
「良し!三人で行くぞ!」
「「おお!!」」
ファインに駄目と言われれば俺も黙ってはいない!
今度から絶対にだらしない顔は見せないようにしよう。
べ、別にファインが怖いとかじゃないんだからね!
◇
「――――さて、街の方に来たけど換金場所を母さんに聞くのを忘れてた」
「お前さん、最初の意気込みは何処に行ったにゃ」
キョロキョロと辺りを見渡しながら換金場所を探すが、それらしき場所は見当たらない。
ド田舎の農村の換金場所一つも見つけられない。
中央都市で学園に入ろうと思っているけど、俺は生きて行けるのか不安になってきた。
「……適当に探すついでに少し寄りたい所もあるから取り敢えず歩くか」
「はい!」
ファインが元気よく挨拶をするが…そう言えば魔物狩りに夢中でファインを何処にも連れて行ってなかったな。
弱音も吐かず無邪気な笑顔でファインは俺の隣を歩いて行くが、もう少し気を配らないとな。
……俺との特訓で弱音を吐かさないように特訓したのは間違いだったか?
ファインのお願いなんて聞いたことも無いが、聞きたいな。
だけど、ファインにお願いされると断られる気がしない。
『ご主人様、豪邸が欲しいです』
……と、上目遣いでファインにお願いされれば俺は豪邸を買ってしまうだろう。
今すぐ森の中に入って魔物を狩り尽くすまで帰れませんをしてファインに豪邸を送ってしまう。
「ご主人様、まただらしない顔になってますよ」
「ご、ごめん!気を付けるよ」
ファインにお願いされる妄想をしていると顔が緩み切ったようだ。
嫌われないように気を付けよう。
「アレン、この武器屋で剣買えない?」
「お前はお金持ってないだろ!」
妄想に心を奪われていると、武器屋の剣をキラキラとした瞳で見つめているミリアの姿が見えて慌てて止める。
「売り物に勝手に触るな」
「アハハハ。面白い嬢ちゃんかと思ったらアレン君の知り合いだったか」
「……貴方は」
ミリアを剣から引き剝がそうと試みていると、豪快に笑うマヤと呼ばれる少女のお父さんが満面の笑みで店番をしていた。
「今回は見てくれに騙されなくて済んだな。あの、嬢ちゃん以降子供でも邪険にしちゃいけねえと見てたがアレン君の彼女かい?」
「そうです!」
「違うだろ!」
そもそもミリアの頭の中に彼女って単語が乗っているのかも不透明だし、間違いなく分かっていないのに適当に返事をしたな?
男ってのはそういう女の子の天然な所で勘違いをするんだ!
「アッハハハ。面白い嬢ちゃんだな」
「あの、本当に先日は防具をありがとうございました。丁度、お礼を言いに行こうと思ってたので良かったです」
探していた人の一人に出会えたのは大助かりで防具を購入させてもらったお礼を伝えようと思っていた。
「律儀な子だな。本当に五歳には見えない」
「残念ながら五歳です」
実年齢を合わせると数えるのが面倒なので永遠の20でお願いします!
「それで嬢ちゃんは気に入った剣は見つかったかい?」
「うーん、折れない剣が欲しい」
「すみません。ミリアはお金も持ってないのに触るな」
ジロジロと剣を触っているミリアを引き剝がして俺の隣まで連行する。
「アッハハ。流石にお金を払ってもらわなきゃ商売は出来ねえからお金をお母さんに貰ってからまた来な」
「アレンだけずるいよ!私も欲しい!」
「サーニャに誕生日でも頼んで。ところでマヤさんのお父さん、魔石を換金したいんですけど場所とか分かりますか?」
「ああ。知ってるぜ。それなら、この場所を真っすぐ行って門の前にある小さい店だが換金できるぜ」
「ありがとうございます」
マヤさんのお父さんにもお礼は言ったし後は換金所で交換して早く帰らないとミーシャに怪しまれるし、一人だけ取り残されたことに今日のご機嫌が一段階悪く可能性もある。
「あ!あの時の人だ!」
換金所に向かおうと足を進めようとした時、武器屋の方から甲高い少女の声が聞こえて振り向くと『開眼の儀』でお花屋さんになりたいって喋っていたマヤが姿を現した。
「お父さん!何で話してるの!ずるいよ!」
「ああ、悪いな。偶々会ったんだ」
お父さんに文句を言ったマヤが次に俺の方を振り返り、武器屋を超えて俺の前に現れる。
「あの時はありがとう!」
「どういたしまして。まだ、お花屋さんになりたい気持ちは変わってない?」
「うん!絶対になりたい!」
満面の笑みを浮かべるマヤちゃんの姿は大変可愛らしいが…ハッ!?
背後から母から会得したのか修羅の如き不穏な気配が二つある。
また、だらしない顔になっていたか。
一つ咳払いをして気を取り直す。
「もう少し待ってて欲しい。マヤちゃんが大人になるときにはきっとお花屋さんを開かせてあげるから」
「我慢できるよ!だから、お願いね!」
「偉いね」
マヤちゃんの頭を撫で手を振って見送られながら武器屋を後にするが…背後の二人の不穏な気配が消えない。
いや、今の俺は真顔。
だらしない顔などしていない!
「さ、さあ。換金所に行こうか!」
「ご主人様」
「は、はい」
冷や汗を流しながら背後を振り返ると両手を握りしめているファインが佇んでいる。
「私に一人で換金所まで行かせてもらえないですか?」
「え?それは」
「お願いします!そして、きちんと出来たらお願いを聞いて欲しいです!」
豪邸か?
豪邸が欲しいのか?
俺、頑張るよ。




