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逃走劇

 ――――魔物狩り二日目。


 「良し、準備万端」


 軽装を身に纏い、剣を腰に掛けて部屋からこっそりとリビングを見る。

 母は既に起きていて、リビングでゆっくりとしている。


 「ご主人様、今日も行くんですか?」


 部屋から覗き込んでいると、ファインが起きてしまい眠たげな瞼を擦りながら尋ねる。


 「うん。魔物狩りには絶対に行く」


 「…私も行きます」


 「え?寝てていいよ。まだ早いし」


 「ご主人様の行く所が私の行く所ですから」


 可愛い事を言うファインが着替えを始めていく準備を始めているので俺は部屋から母を見守る。

 少し経てば母は思い立ったのか腰を上げて外に出る。


 間違いなく暇すぎて畑仕事の準備に行ったな。


 父とサーニャから家事禁止命令が下った母は余り負担の掛からない準備をしているとサーニャが昨日の魔術特訓で喋っていたので今の内に出ることにしよう。


 「ファイン、行くぞ。全力疾走だ」


 「はい!」


 部屋を出て俺達は全速力で駆け抜けて、母にバレずに昨日の森を抜けた所まで戻ってきた。


 「ファイン、付いて来てもらって何だけど帰ったらまた怒られると思うよ」


 「だ、大丈夫です!怒られるときはファインも一緒に怒られます!」


 「本当にファインは可愛いなぁ」


 可愛らしく拳を握りしめるファインの頭を撫でて俺達は塀を超える。


 「…お前さん、まだ昨日の事を反省してないんにゃ?」


 「あ、猫も来たのか」


 ファインの服の中から猫が眠たげに目を擦りながら俺の方をジト目で見つめる。


 「魔物を狩るのがそんなにしたいにゃ?」


 「魔物を狩るというよりはレベル上げと魔法や能力を色々と試したいんだよ。流石に何も知らないのはまずいからね」


 自分の能力も魔法も何も把握出来ずに学園に行くと考えただけで恐ろしい。

 何も出来ずただ、基礎だけ学んで学園を卒業してしまう。


 「ファイン、ボアの匂いはある?」


 「残念ですけどありません。だけど、複数の足音が聞こえます」


 「複数?」


 「恐らくゴブリンにゃ。魔物の中で徒党を組んで行動するのはゴブリンしかいないにゃ」


 ゴブリンか。

 狡猾で人の知恵を持ち、人の武器を奪って使うとか聞いたことがあるな。


 「行ってみよう」


 「だ、大丈夫ですか?」


 「昨日の俺を見ただろ?大丈夫だって」


 ファインを安心させるように呟き、二人と一匹で移動して茂みに隠れると、ゴブリンが三体で動いているが手には棍棒が持たれている。

 薄い人間と同じ布を身に纏い、二足歩行で肌は緑色、昨日のボアとは違い口の周りに小さな角が生えている。

 若干感性が古い人であれば可愛く見えるかもしれないが、戦闘態勢万全である。

 何時でも戦闘する気満々なご様子だ。


 「ご主人様。今日はこっそりと」


 「どうも、こんにちわ!」


 「ご主人様!?」


 ファインが驚いた声を上げる中で俺はゴブリンたちの前に堂々と立ちはだかる。

 魔物との対戦なんて一対一の方が不思議だと考えている。

 今回の複数戦闘は良い経験になりそうだ。


 「さあ、掛かって来い!!」


 真剣を抜いて待ち構えると、ゴブリンたちは互いに顔を見合わせ首肯して俺に突撃して来る。


 一体目のゴブリンAの棍棒を横に流し、次に同時にゴブリンBとゴブリンCが同時に襲い掛かってくるので二人の攻撃は受け流さず、跳躍して前方に飛んで三体に死角を作らせない。


 ……成る程。

 流石は知恵を持っているだけはある。


 態勢を整え、どう倒すか思考を張り巡らせる。

 まずは連携を断つために一体を倒すか。


 何事もそうだ。

 連携と言うのは非常に厄介だが、単体で怖い物はない。

 ゴブリンも今の攻防で分かるように一対一の対戦は勝てるのだ。

 徒党を組むから面倒なだけで一対一なら負ける気がしない。


 ゴブリンAが俺の思考を他所に勝手に襲い掛かってくるので、直ぐに行動に移す。


 「ウインドカッター!」


 ゴブリンAにウインドカッターを放つが、当然横にずれて避けられる。

 しかし、それで良いのだ。

 次にゴブリンB、Cが襲い掛かってくるのを剣を弾くだけに残し、ゴブリンAに俺が襲い掛かる。


 片手でゴブリンAに剣を振り下ろすが、ギリギリの所で棍棒で防がられるが俺はそれを待っていた。


 「ウォーターボール」


 残していた片手でゴブリンに昨日と同じくウォーターボールを使い吹き飛ばす。

 残りは二体。


 「ギャ!!」


 「ギャギャギャ!!」


 ゴブリン二体が仲間の一体がやられたことに激昂した様に襲い掛かってくるが、三体揃わなかったら負ける気がしない。


 「ライトボール!」


 近づいていた二体に敢えて何もせずにギリギリでライトボールを使いゴブリンの視界を奪う。


 「ウォーターボール」


 一撃目を躱し、ウォーターボールをお腹に叩きつけ、もう一匹の混乱しているゴブリンを剣で一閃し戦闘は終了した。


 「ふう」


 「ご主人様はやっぱり凄いです!」


 昨日と同じく飛び跳ねながら歓喜に声を出しているファインの頭を撫でる。


 「ありがとね。まあ、三体なら大丈夫かな」


 「お前さん、一つ聞きたいにゃ。どうして、ウォーターボールで止めを刺すことが多いにゃ?」


 猫は何か毎回だけど結構鋭いよね。

 何でも敏感に悟ってしまう所は俺もこだわっているので説明できるのは嬉しい。


 「水魔法のレベルを上げたいなって。何度も使って止めを刺せばその分強くなるし、水魔法が色々と便利が利きそうだし」


 「成る程にゃ」


 猫が納得しているが、俺には一つだけ不満というか面倒な事がある。

 ――――ステータスを確認する術がないのだ。


 昨日、こっそりと街の方に行き衝撃の事実を知ったのだがこの村には冒険者ギルドが無いとの事。

 中央都市に行かなければ、冒険者ギルドが無いのでステータス更新をする場所も無いと聞かされた。


 ステータス更新は冒険者、他の人でも絶対に冒険者ギルドに行かない限りには更新が出来ないので現状のステータスを把握することが出来ない。

 レベルが上がった確証も分からないし、自分の何のステータスが駄目で何が良いのかを知る術が欲しいな。


 「猫さ、魔法のレベルが上がったのが分かるとか、能力のレベルが上がる方法が分かるような特殊な能力は持ってない?」


 「そんな全知全能な生物はこの世にはいないにゃ」


 ですよねー。

 世の中はそう上手くはいかない。


 「能力に関しては分からないにゃ。けど、魔法なら別に直ぐに分かるにゃ」


 「ど、どうやってわかるんだ!?」


 「魔法の詠唱を唱えれば分かるにゃ。お前さんはレベル1なら水魔法はレベル2にゃ。『ウォーターウォール』と唱えたら分かるにゃ」


 「ウォーターウォール」


 猫の言う通りに唱えると目の前に俺の身長以上の水の壁が出来上がる。


 「おお!」


 思わず感嘆の声が漏れてしまう。

 ようやく魔法のレベルが上がったのか!!

 魔法を使って約三年、ようやく新しい魔法が扱えるのは素直に嬉しいなあ。


 「魔法で思い出したけど、猫は何が出来るのか詳しく教えてくれない?」


 「そう言えばまだお前さんと契約してないにゃ」


 「契約?」


 「獣魔は契約しないとその効果が得られないんですよ」


 何も知らなかった。

 ヴォルさんが召喚した瞬間から色々と俺に都合のいいように出来ているのかと思えばそんな簡単な話ではなかったのか。


 「契約ってのはどうするの?」


 「手を合わせれば出来るにゃ」


 「契約してデメリットとかある?」


 「……獣魔は召喚した瞬間にもう自由に動けて自由に契約が出来るにゃ。唯一デメリットがあるとすれば契約をするか否かは獣魔が自身で選択することが出来るにゃ」


 ほほう。

 獣魔も全知万能な訳ではないのか。


 「契約する前に猫の名前をそろそろ決めたいなぁ」


 「猫さんじゃ駄目なんですか?」


 「猫さんでも良いけど…うーん、なんだろうな」


 前世では動物を飼う暇など無かったので名前を付けるという事をしたことが無い。

 中々難しいので覚えやすく親しみやすい名前で、


 「タマでいいや」


 「良いですね!タマさんですね!」


 ファインが賛成してくれるが自分でもありきたりなのは分かっている。

 だけど、名前は憶えやすいぐらいが丁度良い気がする。


 「お前さん、あちしが契約する前提で話を進めてるにゃ」


 「ん?駄目なのか?俺はてっきりここから逃げない時点でもう了承しているのかと思ったんだけど」


 「…良いにゃ。お前さんは中々面白そうにゃ。手を差し出すにゃ」


 猫…改めタマに言われるがままに手を差し出し、タマの肉球と重なり合うと淡い白い光に包まれる。


 「終わりにゃ」


 「ん?何か変わったのか?全く自分じゃ分からないんだけど」


 一瞬光に包まれたので、何か変化が起きるのかと思ったけど変わった気配が無い。


 「お前さん…いや、契約したのでアレンにゃ。アレンには分からないとは思うにゃ。精霊獣にも色々と種類はあるんにゃけど、あちしのは能力や魔法に干渉する獣魔にゃ」


 「色々と教えて欲しいな。これから、色々と助けて貰う事も多いと思うから」


 新しい魔法、新しい獣魔との契約。

 俺の冒険譚が――――今から始まるんだ。

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