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女心

 ◇

 アレンside

 ……昨日は大変だった。

 主にミリアに説明するのが。

 何度説明しても分からないと断固拒否をしてファインを甘やかしに行こうとするから止めるのに一苦労だった。


 だが、何とか乗り越えて今日で三日目だ。

 ここから先が俺には想像が出来ない。

 二日目が厳しいと言うのは知っているが、三日目以降はもうファインの気力次第だ。


 ……ああ、嫌だな。

 今日も冷たく接して朝からファインがしょんぼりと目を落としてついて来る姿を想像しただけで憂鬱だ。

 だが、俺は決めているのだ。


 彼女が本当の意味で心が成長した時は絶対に甘やかすと。

 もう今までの厳しさが何だと言わんばかりに甘やかしてやる。


 「母さん、おはよう。そして毎朝言うけど家事は俺がやるから」


 「アハハ。あのね、仕事が無くなると暇なのよ」


 一応朝早くに起きている自覚はあるのに母は年季が違う。

 俺よりも早く起きて絶対に朝ご飯を作っている。

 そして、毎度俺と父に注意されるのが定番だ。


 お腹に子供がいる時ぐらいは大人しくしてもらいたい。

 もう九カ月は超えているだろうし、そろそろ生まれてもおかしくはない。


 「ファインの分の朝ご飯をお願いできる?」


 「朝に中庭に出てたら起きてたからもうあげたわよ」


 「そっか。ありがとう」


 もう起きているのか?


 「――――何時まであの子に構ってんのよ。もう良いんじゃないの?」


 朝食を食べようとしたとき、二日ぶりに顔を出したサーニャがムスっと明らかに不機嫌な様子で椅子に座っている。

 最近は一切魔法の勉強は出来ていないし、サーニャとしてはファインの助力をするのは一日程度だと考えていたのだろう。

 間違いなく怒っている。


 「最近、アレンが構ってくれないから拗ねてるのよ」


 母がこっそりと耳打ちして直ぐに察した。

 まだ…三日ですけど…。


 「違うわよ!何で変な事を吹き込んでるのよ《《ママ》》……あ」


 サーニャが顔を真っ赤にして立ち上がり文句を垂れたけど…今、ママって言いませんでした?

 自分でも聞き間違いかと思ったが、違うようだ。

 サーニャも自分の失言に気付いたのか直ぐに自分の口を塞いだが、母は聞き逃していない。


 母が満面の笑みを浮かべ、サーニャに抱きついた。


 「そうよ~。貴方のママよ」


 「ちょっと!辞めてよ!恥ずかしいから辞めて!」


 「ファインの所に行ってくるね」


 満更でも無さそうに抱きつかれているサーニャの表情を見て機嫌が直っているのを確認して外に出る。


 「お、おはようございます」


 「お…お、はよう」


 玄関を開けると綺麗な姿勢で頭を下げてファインが待機していた。


 「準備は出来てるみたいだな」


 「は、はい」


 「……ん?」


 準備が出来ている様なので走ろうと思えばファインが若干元気を無くしている。

 あれ?

 走るために朝早く起きているんじゃないのか?

 もしかして、俺の顔を見て落ち込んだ?


 それなら、今すぐ部屋に戻って二十分は枕を濡らしてから戻って来る。


 「ちがーーーーう!!」


 何処から現れたのか急に現れたミリアが加速して近づいて俺の頭にチョップを出した。


 「うおおお!?」


 尋常ではない痛みに声を上げて頭を抱えて蹲ってしまう。

 隕石でも落ちて来たのかと思った。


 「大袈裟だよ!私は二割の力で叩いたんだから痛くないよ!」


 「お前の二割は大人の十割だ」


 えげつない程の痛みが頭にきた。

 なになに、天然キャラが暴力キャラに変化したの?

 その場合は俺は常備ヘルメットを被って生活しないと頭が電子レンジに入れた卵並みに爆発するだろう。


 「意味が分からないけど取り敢えず来て!」


 背中の襟を持たれてミリアに違う所に連行される。

 人を軽々と持ち上げるってミリアの筋力はどうなってるんだ。

 そろそろ剣聖のジョブをチェンジしてゴリラに変換した方が良い。


 ミリアに連行されて家の反対側まで連れて行かれる。


 「ファインちゃんは今日朝早く起きたんだから褒めるの!」


 「は、ハア…」


 「アレンが昨日何が言いたいのかは殆ど分からなかったけど、厳しくするって言うのは分かった!だけど、頑張ってるのに褒めないのはおかしいよ!今すぐ褒めて!」


 「はい!」


 有無を言わせない今まで見たことも無いミリアの表情に瞬時に首肯すると再度首元を持ってファインの所まで連れて行かれた。


 「あ、あー。早起きしてやる気があるのは良いことだな。偉いぞ」


 「は、はい!」


 今度はファインの表情が晴れた。

 もしかして…昨日褒めたのが効いたのか?

 それか、初日の俺が厳しすぎたのかは今となっては分からないが…。


 どうしよう。

 冷や汗が止まらない。

 褒めたはずなのにミリアの表情が晴れずに俺をジト目で睨みつけている。

 何か間違えたか?


 ファインの表情が晴れたから良いんじゃないのか?


 「昨日と同じことをして!」


 耳元でミリアに囁かれて何のことか直ぐに気付いた。


 「あ、偉いなファイン」


 頭を撫でれば満足気にミリアが何度も首肯している。

 安堵に胸を撫でおろす。


 「良し、ファインは走る準備をしておけ」


 「はい」


 準備を始めたファインを見て俺も準備をして直ぐに出るか。

 もう一度家に戻って適当に飲料水でも用意しようと思いきや、ミリアが玄関の前に仁王立ちして入らせてくれない。


 横にずれても同じ方向に来て、反対に動いてもミリアが付いてくる。


 「あの…なに?」


 「次は私の番だよ」


 「え?」


 「私も早く起きたよ!」


 だから何だというのだ。


 「そっか」


 「違うよ!褒めてよ!」


 「いや、何時もミリアは早いじゃん」


 「違うよ!今日は何時もより少し早かったんだよ!」


 「知らないよ!」


 ミリアの起床時間など俺が知る訳がない。

 と言うより、そこまで把握している男子とか完全なストーカーじゃないか。


 「私も甘やかしていいんだよ!」


 俺が何時ミリアに厳しい時があったと言うのだ。

 自分で言うのも変だがミリアには常に甘い気がするのだが…あれでも足りない?


 「兎に角、飲料水を取るから入らせて」


 「むう」


 若干頬を膨らませているミリアを見ていないふりをして飲料水を取りに家に戻ればまだ母がサーニャに抱きついている。


 「ねえ、サーニャちゃん。もう一回ママって言って」


 「言う訳ないでしょ。あれは間違えただけだから。ちょっと!アレンもどうにかしてよ!」


 飲料水を取りながら見守っていたけど…そんな満更でも無さそうな顔で言われても。


 「お似合いだよ」


 「お似合いとか意味が分からないわ!もう、離れてよ」


 「いーや。もう一回…百回ママって呼んでくれたら放してあげるわ」


 母は余程嬉しかったのか、サーニャに抱きついている姿を見て外に出る。

 さあ、今日も一日頑張るか。


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