天然女子
三年後。
異世界転生を果たし、あっという間の三年の時が経ち俺は中庭の大木の下でお昼寝タイムだ。
何と気ままに過ごせる最高な世界なのだろう。
今までの波乱万丈な生活が嘘のように穏やかな日々を送っている。
今日はこの後、近場の村長さんの家で本を借りて家で読書タイム、後は異世界の魔法についても学びたいと考えている。
「アレンー。ミリアちゃんが遊びに来てるわよ」
今まで穏やかな雰囲気でお昼寝をしていた意識が覚醒し、素早く立ち上がり全速力で中庭の外に駆け出す。
「きょうもきたのか!」
まだ、流暢に喋られないので可愛らしい高音に四歳になっても慣れない中で全速力で駆け抜ける。
っち。
四歳の身体は自分が思っている以上に不便だ。
足が重く息も荒い中で今日計画していた作戦を実行する。
近所の手入れされていない俺より身長の高い草原の中で静かに腰を低くして身を隠す。
三歳の間までは家の中庭以上に進むことは禁止されていたし、農家生まれの実家には本も無かったので暇を持て余していた。
そんなある日、俺の家に隣の家に住んでいる母の親友の子供が丁度俺と同じ歳だったのだ。
ご近所と言う事もあってか、年の近い俺とミリアは遊び始めたのは自然流れだ。
『いっしょにあそぶ?』
少し恥ずかしがり屋なミリアは母の足から離れない中で俺が一言だけ気を遣って話しかけたのが駄目だった。
ミリアはお伽噺が大好きな幼女で剣に憧憬を抱いていた。
一日目に一緒にチャンバラごっこをした。
その日から俺の生活が変わった。
お昼まで気ままに過ごしている中で再度ミリアが俺の家に遊びに来る。
『けんであそぼ』
二日目、俺も暇だったので良しとした。
『きょうもあそぼ』
三日目、流石に今まで体を動かさずにいたので筋肉痛で身体が動かない中で必死にちゃんばらごっこを日が落ちるまで繰り返した。
『またしょうぶ!』
四日目、まるでミリアが負けて悔しがっているように見えるが理由は分からないがミリアの方が力は強力で俺は一度も勝てていないにも関わらず毎日勝負を挑んでくる。
『きょうはあさから』
五日目、もう絶対に休むと決断している中で次は朝から現れたミリアが再びチャンバラごっこを申し込んできた。
その日、俺は決意した。
――――この子の相手は絶対に無理だと。
子供の力とは偉大な物でどれだけ動いても一日経てば復活しているようで大層気に入られてしまった俺はミリアの遊び相手に認定されたと五日目で確信が持てた。
『きょうからぼくをみつけたらけんであそぼう』
これ以上遊ぶのは御免なので俺は条件を付けてから約半年。
毎日遊びに来るミリアとのかくれんぼが始まった。
そして、半年経つが化物染みた体力を持つミリアは俺が何度逃走しても捕まえられる。
お昼から近場の近所に避難しても見つけ出してくる。
四歳になり外に出られるようになった今に新たに本気でかくれんぼをしようと草原の中に隠れている。
流石にこの中で見つけ出せるわけが…、
「アレン、みつけた!!」
「ぎゃあああああ!?」
全く気配の見つからない銀髪金色の瞳のショートカットのミリアが薄い布で体全体を覆うワンピースの様な姿で唐突に背後から現れ耳元で大声を出した事で全身から産毛が逆立ち年甲斐もなく絶叫を上げてしまう。
これがおかしいのだ。
俺は人生の中で何度も借金取りに追われる日々を過ごしてきたのだ。
当然、少しでも不穏な気配を察知する技術は身に付けたのだが、ミリアだけは全く気配が読めない。
「アレンをさがすのたのしい!」
「ハハハ」
ミリアの満面の笑みを見て苦笑いしか浮かばない。
勘弁してくれ。
今日で一年間連続の剣術だぞ。
俺は何時の間に騎士になる将来が決まったのだ。
二人で大将軍になる気は無いんだからね!
「さがすのもたのしいけどきょうもけんじゅつ!」
「はいはい」
二人で俺の家まで戻り中庭に既に常備されている木刀が二刀の内、アレンと木に刻まれた方を手に取る。
父が俺に初めて友達が出来て、しかも剣術を使うことに喜びを感じたようで作ったのだ。
「いくっよ!!」
声とは裏腹に凄まじい速さで足をめり込ませ突撃するミリアだが…どう見ても子供が出していい速度ではない。
やる気を出すまでは難しいが、やるからには本気でやる。
それが俺の信条だが…速さは一目瞭然で更に力も俺以上だ。
「とりゃあ!」
ミリアの木刀と俺の木刀が重なり合う度に俺の剣が力負けする形で弾き飛ばされる。
「っち!!」
徐々に溢れ出るやる気が目の前の戦いに熱中し直ぐに体制を整えて剣を斜めにしてミリアの剣を受け止める。
ミリアは俊敏さと力が上で、技術的な面は俺の方が今の所は上か。
ミリアは力も速さもあるがまだ子供だ。
動きが単調で流石に前世で波乱万丈な生活を送っている俺でも剣術は知らないが、それでも次に何をするのかが分かる程度の技術だ。
捌けるのだが次に繋げることが出来ずに後手に回る。
何度も打ち合い隙を作り出そうとする俺と一撃必殺で相手が何かをする前に仕留めようとする攻防が続いて夕暮れに差し掛かる。
「……きょうもだめか」
最後にミリアの剣が横に一閃され俺の横っ腹に叩きつけられて試合は終了した。
正直に言って俺はこの世界に来て前世の記憶を使えば楽勝だと考えていたが、流石に剣術に関してはこの世界の人と平等であり、最初から技術を身に付けることしかできない。
「やっぱりアレンとたたかうのはたのしい!」
汗を腕で拭うミリアが満面の笑みを浮かべるが、こちとら一年間負け続けているんだぞ。
流石に一回は勝ちたい。
「きょうはおわりだね」
木刀を置いて家に帰ってゆっくり休みながら明日隠れる場所を探そうと決めていると、ミリアが目の前に回り込み首を横に振る。
「ううん。まだやるよ」
「は?なんで?」
「おかあさんがきょうとまるって!」
……終わった。
無意識に膝を折り地面に手を付けて絶望してしまう。
月に一度あるかないかの恒例行事が今日だったのか。
「なにもみえなくなるまでやろう!」
お疲れさまでしたと頭を下げて立ち去りたいが、純粋無垢な笑みを浮かべるミリアの姿を見るとどうしても断れない。
これがNOと言えない日本人の性なのか!