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スタートライン2

 「悪い二人とも。少し外で待っててくれ」


 「どうかしたの?」


 ミリアが覗き込んで純粋な疑問をぶつけてくるが、俺がこの場を離れるわけにはいかない。


 「直ぐに終わるから」


 「分かったわ」


 サーニャがミリアを引き連れて外に出てくれたおかげで俺とヴォルさんの二人きりとなる。

 ヴォルさんは見た目は間違いなくこちら側の世界の住人、更に言えば日本の人間らしき所は見当たらなかったのだが、


 「…フッ。何も取って食おうとは思っていない。少し二人で話そうか」


 「はい」


 ヴォルさんが異世界転生を果たした人間であろうと、俺には関係ない。

 まだ、異世界の情報に関して殆ど分かっていない状況なので情報が手に入ると考えれば付いて行く価値はある。

 ヴォルさんの背後を追い歩いて行くが教会の後ろ側は何も無く小さな個室だけが残されている。


 「基本、この部屋は誰も使わない。俺達、教会側の人間が休む時に使う部屋だ。ここで少し話そう」


 「はい」


 ヴォルさんと部屋に入る際に念のために周囲に人の気配が無いことを確認してから部屋の中に入る。


 「フッ。用心深いのだな」


 「俺は今までそういう環境で過ごしてきましたからね」


 「それでは、まずは異世界転移を果たしたアレンだったな。俺も異世界転移を果たした一人だ。よろしく頼む」


 「よろしくお願いします。俺もつい五年前に異世界転移を果たしたばかりですが」


 「ハッハハ。そう畏まるな。俺もお前も同じで本当は年寄りだ」


 「そう言うなら普通にするけど、どうして最後に日本なんて発言したんだ?」


 俺が最初に聞くべきなのは日本と言葉を発したのか。

 その真意を知りたい。


 「そうだな。それを伝えるにはまず聞いておくべきことがあるな。お前は――前世の頃に不幸な境遇の中で過ごしていたか?」


 「まあ、想像以上にしんどい人生ではあったけど」


 「ふむ。やはりか」


 ヴォルさんが自己完結しているが俺にも詳しく教えて欲しい。


 「む?悪いな。一人で考えていた。そうだな…何から話すべきかと言われれば何から話すべきか。まずは、異世界転移を果たす者の――条件とは何だと思う?」


 「……うーん。そこは考えたことは無かったな。俺の周りに転生者の人もいなかったし」


 「俺は前世の頃に後悔ばかり、もしくは不幸な境遇が関係していると思う」


 「へえ。それで俺の前世の境遇を聞いたのか」


 「ああ。俺も前世の頃は孤児で父親も母親も分からない。一人で過ごし一人で死んだ。別に不満など無かったはずなのに何かが欠けていると漠然と思いながら過ごしたのは事実だ」


 何かが欠けていると言うのは分からないでもない。

 俺の場合は自由と平穏だ。


 「しかし、この世界に転生して俺は母親と父親という存在を初めて知った。今まで全く知らなかった母親の優しさ、父親の強さ、祖父のありがたみ、祖母の穏やかさ、俺は何も知らない世界が目の前には在り、俺が知らなかったのは――家族だったのだと気付かされた」


 ……まあ、その点に関しては同感だ。

 俺も何も知らなかった。

 父親も母親も急に何処かに消え、俺は一人で生きる人生だったからな。


 「俺の前世の話をしたのはアレン、お前が転生した理由だ」


 「――――ヴァルハラを倒せって話じゃないのか?」


 「気付いていたのか?」


 「今日分かったけどね。流石に大天魔導士と剣聖が異世界転生者と同じ所にいるってのは偶然にしては出来過ぎてるから」


 俺の両隣の家には偶然にも剣聖と大天魔導士がいました!ってそんな偶然が起きるわけがない。

 宝くじの百倍は当たるのは難しいぞ。


 「そこまで気付いているなら話が速いな。この世界の情報に関して聞きたいことはあるか?同郷のよしみだ。話せる範囲であれば話そう」


 今の言葉に思わず身体が前のめりになる。


 「実はその情報に関してが俺は全く無い状況なんだ。色々と教えて欲しい」


 「何も知らないか。では、大雑把に説明するがこの世界に闇の王であるヴァルハラがいるのだが、そいつが本当に化物級に強い。剣聖や大天魔導士を超えてる」


 「そこまでなのか?」


 「当然だ。今までの異世界転生者はその為に用意されていると私は踏んでいる」


 「詳しく」


 「世界の拮抗と言うのは上手い具合に調整されている。しかし、その中で魔王が――異質だったのだ。魔王一人の存在が世界の拮抗を崩し、人間たちは劣勢の状況に追われている。ここからは俺の憶測が含まれるが、世界の拮抗を保つために用意されているが異世界転生者だったと思う」


 「ふむ」


 今の段階は俺の頭の容量でも理解が出来るぞ。

 これ以上難しくなるなら厳しいけど。


 「前世の頃の記憶、そして不幸な境遇に襲われた人間が――転生した後に取る行動とは何だと思う?」


 「…次は頑張ろうって思うのかな。俺は平穏に暮らせるように頑張ろうと思ったけどね」


 「そうだな。俺も恐らくだがこの世界に送ってくれた者の意志とは反する生活を送っていると思う。しかし、後悔はしていない。俺は強力な能力があったが家族に心配を掛けたくはなかったからな。平和な道を選択した」


 「良いと思うよ。俺も『開眼の儀』が無ければ農家とかでのんびり過ごしてたと思うし」


 「ハッハハ。あれには驚いたな。まさか、『開眼の儀』を壊すなどと言ったのは俺も聖職者の経験が長いが初めての経験だ」


 何だろう。

 教会で開眼の儀を行っていた時のヴォルさんは何処か頑固で怖いイメージがあったのに、今は全然そんな風には見えないな。

 優しそうな人だ。


 「俺も自由に選べるなら文句はなかったんだけどね」


 「しかし、同じ聖職者は怒っていたが俺はアレンの意見が間違いとは思わない。俺は初めから聖職者に選ばれて何も考えてなかった。しかし、他の者たちは違う。自分が望む物を目指すことも出来ないと言うのは辛いというのを今日改めて気付かされた。そのお礼も伝えたかったんだ」


 「お礼って気恥ずかしいよ。この歳になって」


 「そうだな」


 ヴォルさんがニヤリと笑みを浮かべる。

 当たり前だけど人ってイメージ通りの存在ばかりではないな。


 「アレンはこの先どうするんだ?」


 「今の所は何も考えて無いんだよね。だって、今日決意したばかりで何から手を出すべきかと」


 「助言程度に聞いて貰えれば良いが中央都市にある一番デカい学園に行くのが良いと思う」


 「悪いんだけどまず、ここが何処なのかも分かって無いんだよ」


 「そうだったのか」


 ヴォルさんと話しながらどれだけ自分が何も知らないのかを痛感するな。

 今のままでは『ヴァルハラ』を倒すなんて夢のまた夢だ。


 「アレンが住んでいるのが南東の中央寄りの農村だ。この森を抜けて荒野を進めば中央都市が見える。学園の規則とし十歳以上で、この世界の規則として十歳までは準備期間として扱われている。十歳から役目を果たさないといけない決まりだが学園に通えば免除される」


 「高校と同じ感じ?」


 「そうだな。剣聖と大天魔導士と一緒に行くのが効率が良いと思う」


 「まあ、ミリアとサーニャの意志も確認しないと厳しいけど、その学園って剣術と魔術とかある?」


 「両方ともあるぞ」


 ミリアとサーニャなら剣術と魔術が勉強できるってだけで絶対に行くとか断言しそうだけど。


 「多分大丈夫だと思う」


 「あくまで俺の意見だから全然変えてもらって良いが、まずは十歳まで基礎的な物を学び、十歳から学園で応用を学び力を付けるのが良いかもな」


 「それが良いね。丁度、二人と剣術と魔術の勉強をしている最中だから」


 ヴォルさんの意見に反対はないのだが、


 「どうしてここまで良くしてくれるの?同じ異世界転生者だけど今日が初対面だよね?」


 「そうだな。その質問に答える前に俺から一つ質問をしよう。どうして、アレンの職業が不規則だったと思う?」


 「異世界転生者だから?」


 「半分当たりだ。異世界転生者であり、この世界に送った仮に神と呼ぶが神の狙いは世界の拮抗を保つためにヴァルハラを討伐するのが目的だ。剣聖でも大天魔導士でも倒せない魔王を倒す職業が無いと思わないか?」


 「……確かにそうだね」


 よく考えてみると、一番上での剣聖でも大天魔導士でも倒せなければ絶対に倒せないことになる。


 「お前は剣聖、大天魔導士を超える器として用意された者だ。異世界転生者は用意された職業ではなく違う職業になれるのだ。お前がヴァルハラを倒すとなると勇者だな」


 「物語の主人公だなぁ」


 「それで良いじゃないか。物語の主人公としてヴァルハラを倒す。それ程浪漫のあるのも少ないだろ」


 「なら、物語の主人公である俺にどうしてそこまで良くしてくれるの?」


 「言っただろ?神はヴァルハラを倒すために異世界転生者を用意している。俺は道を外し平穏な生活を望んだが、アレンはヴァルハラを倒すことを決意した。そうなると、この先は」


 「……茨の道か」


 「ああ。更に言えば魔王を討伐するまでの道標として様々な難関を用意していると考えてもおかしくはないだろ?」


 「…そうだね」


 よく考えれば分かる話だ。

 今の話を簡潔にまとめよう。

 ・闇の王ヴァルハラを倒す為に転生を果たした。

 ・神は恐らくヴァルハラを倒すために様々な難関を用意している。

 ・異世界転生者はこの世界に用意された職業は選べない。自分の進んだ道の先に職業が存在する。


 この二つを覚えておけば大丈夫か。


 「俺は傍から見れば逃げていると思われても不思議ではない。だが、今日世界の常識を思い知らされ覆さんと行動したアレンを少しでも手助けしたいと思ってな」


 「それは助かるなぁ」


 「俺に出来るのは情報を話す程度でこの先はアレンの努力次第だ。……いや、もう一つ出来ることがあるな。少し手続きに時間を要するがアレンにプレゼントを送ろう」


 「何から何までありがとう」


 「まあ、アレンの場合は何も知らなすぎるから丁度良いプレゼントだな」


 「いやー、俺も今日ほど何も知らないんだと痛感した日は無いよ」


 ヴォルさんと談笑していたが、すっかり忘れていたのだがミリアとサーニャを外に放置している。


 「御免、もう少し話したいけど外で友達が待ってるんだ」


 「そうか。名残惜しいが俺は中央都市で働いているので中央都市に来た時は是非顔を出してくれ」


 「そうさせてもらうよ」


 「あ、忘れていたがアレンのステータス表だ。余り人に見せるなよ」


 最後にヴォルさんから受け取ったステータス表をポケットに仕舞い教会を後にしようと思ったが、扉の前で足が止まる。


  「分かってるよ……あ、俺も一つ聞き忘れていたんだけど確認したいことがあるんだ」


 この儀式の中で最も気になる点に関してヴォルさんに話せば目を見開き…数秒の静寂の後に口を開いた。


 「……口外はしないと約束できるか」


 「時と場合にはよるけど普通に過ごしている中では絶対に話さない。冗談で済まさられる話ではないと思うし」


 ヴォルさんから発せられた言葉に若干の驚きがあったが、絶対に口外しないと約束をして教会を後にした。

 外に出た際にミリアとサーニャから「遅すぎる!」と文句を言われながら帰路に立つ。


 ◇


 「アレン、大事な話がある」


 家に戻り母を除いた父とミリア、サーニャと共に昼食を食べ終わった後に、父が今まで見たことも無い真剣な表情で俺に対し呟いた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 伏線もりもりですね。 この話で気づいたんですけど、異世界転生と異世界転移の表現が使われてますが今作だと転移は関係ないはずなので転生で統一したほういいんじゃないですかね。探せばこの話以外にも…
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