決意
大天魔導士が出たこと自体が教会側からしたら想定外の出来事だろうに、まさか加えて剣聖も現れるとなると教会側の人達もざわざわと話し始めている。
俺達の周囲の大人たちもヒソヒソと声が聞こえてくる。
まあ、サーニャが大天魔導士ならミリアも剣聖だろうなとは思ったので俺は然程驚かない。
寧ろ、あの化物級の力を持って騎士となれば剣聖が想像できない。
「アレン!剣聖だって!凄いの!?」
「剣士の中では一番強い部類だね」
「やった!!」
ミリアが歓喜の声を上げて大喜びしているが、
「二人とも、その用紙見せてくれない?」
「「いいよ」」
二人の用紙を見せてもらうと――――俺が最も求めていたステータス表がそこに記されていた。
やっぱりあるよな。
Lv.1 名前:ミリア
種族:人族
力:B
敏捷:S
耐久:S
器用:B
知力:C
魔力:C
【能力】
・斬撃[1/5]・限界解放[1/5]・速度上昇[1/5]
【魔法】
・無
ミリアのステータスを見るが、数字が記載されていない。
基本はステータスには数字が振られていると思い込んでいたけど、ステータスの中身は分からないのか?
考えても仕方が無いので俺の順番が来るまでにサーニャのも見させてもらおう。
Lv.1 名前 サーニャ
種族:人族
力:C
敏捷:C
耐久:C
器用:A
知力:S
魔力:S
【能力】
・同時展開[1/5]・並行詠唱
【魔法】
・水魔法[1/5]・風魔法[1/5]・土魔法[1/5]・光魔法[1/5]・闇魔法[1/5]
ミリアも化物級だと思っていたが、サーニャも十分化物だ。
「次は農村ジダンの息子、前に出てきなさい」
おっと。
ミリアとサーニャのステータス表を見つめていると俺の出番が来たようだ。
神様、お願いします。
俺に――――平穏な職業をお願いします!
心臓の鼓動がやけに聞こえながら俺はヴォルさんの前に立ち、水晶に手をかざし光が消えるのをジッと待つ。
「ん?」
一瞬ヴォルさんの眉がピクリと動き声を上げるのに俺は心臓が飛び跳ねそうになるのを必死に押し殺す。
待って。
二人だけでももう十分強い部類に入ってるんだから俺は必要ないよね!?ね!?
「――――ジダンの息子アレン」
「は、はい」
「そなたは――冒険者だ。民を守り、生活の安全を守る冒険者として懸命に働き給え」
「ほ、本当ですか!?」
喜びの余り再確認するとヴォルさんが若干たじろぐ姿を見ながら首肯する。
きたああああああああああああああ!!
第一候補の冒険者だ!
「ちょっと待ちなさいよ!」
「そうだよ!」
へ?
一人で歓喜に打ち震えていると、背後から聞き覚えのある二人の声が聞こえる。
恐る恐る後ろを振り返ると、ミリアとサーニャがヴォルさんを睨みつけている。
「アレンが冒険者な訳ないでしょ!私と同じで魔法の才能があるのよ!」
何を言っているのかとサーニャをジッと見つめると、どうやら先程の『本当ですか?』という俺の言葉が嫌だと落ち込んでいると思ったと悟ってしまう。
「ちょ、サーニャ?俺は冒険者で」
「アレンは私より強いんだよ!なのに冒険者なんておかしいよ!アレンは最強って職業だよ!」
「そんな職業はねえよ!」
ミリアのお馬鹿な発言に思わずツッコんでしまうが、剣聖より強いと言う言葉に周囲がざわざわと騒ぎ始める。
誰かこの流れを止めて!
「お待ちください!」
ん?
止めて欲しいと願っていると周囲の人達から母が一人一歩前に踏み出した。
「我が息子アレンは非常に知力の高いのです。三歳で本を熟読し子供とは思えない人物なのです。もう一度、水晶で確認して頂くことは出来ないでしょうか!」
母よ。
貴方もミリアたち側の人ですか。
しかし、気になるのは母の表情だ。
ミリアたちの文句を垂れる姿とは少し違い、切羽詰まった様に訴えている。
「……農村ジダンの息子アレンよ。もう一度水晶に手をかざしてみよ」
あー、こういうパターンですか。
ヴォルさんの威圧的な態度に反論など出来るわけもなく、もう一度水晶に手をかざす。
「……これは」
いやー!!
特殊なのとかいらないんだよ!?
ヴォルさんが目を見開く姿を見て、嫌な予感しかしない。
「今度は商人と出た」
「馬鹿な。今まで水晶が間違うことなど無かったはずだ」
「有り得ぬ」
後ろのサポートの人達も顔を会わせて驚いているが、俺は一人で冷や汗を流す。
「もう一度手をかざしてくれ」
……勘弁して。
と、言えるわけもなく、もう一度手をかざせば今度は従属と出た。
もう一度手をかざすと今度は騎士と出た。
あー、終わった。
「ちょっと!その水晶壊れてるんじゃないんでしょうね!?アレンは魔法の才能があるんだから魔導士よ!やり直しよ!」
「ええ!アレンは剣術が上手いんだよ!騎士であってるよ!」
水晶に手をかざす度に後ろの喧しい二人が文句を垂れている。
もう分かってますよ。
徐々に上の位に上がっているので次に測れば剣聖とか大天魔導士が出るんだろうな。
「ふむ。アレン、そなたは今までに例を見ない結果となっている。今までここまで――――自由に職業を選択することは出来なかった」
「ーーーーああ。そう言う事か」
「む?」
今のヴォルさんの一言で俺のモヤモヤとした気持ちが一瞬で晴れた。
何が不思議でモヤモヤしていたのか全部分かってしまった。
ヴォルさんの元から離れ、最初に『開眼の儀』を行っていたマヤと言う子の所に行く。
「君はお花屋さんになりたいの?」
母親の足元からひょっこりと顔を出して涙目で首肯する。
「うん。綺麗なお花で皆を喜ばせたいの」
「そうか」
次は自分の母の元に行く。
「母さん、母さんの子供の頃の夢って何だったの?」
「アレン?」
「答えて欲しい」
真剣な表情で母と向き合い、尋ねると母も一度目を瞑る。
「私は料理が好きだから料理を作る仕事がしたかったわね。お父さんは農業が元から好きだからお父さんが栽培した食材を私が料理して提供するのが夢だったわ」
「叶えさせてあげるよ」
「え?」
母さんが戸惑った声を上げるが、俺の決意は――――決まった。
「ヴォルさん。俺の職業は冒険者で大丈夫です」
「ちょ、ちょっと!せめて大魔導士にしておきなさいよ!」
「違うよ!騎士だよ!」
両隣から自分の欲求に素直な言葉が飛び交っているが…それが普通なのだ。
「本当に良いのか?」
「はい。それと、一つ聞きたいことがあります。冒険者の中で最も難しくて報酬が高いのは何ですか?」
「……ふむ。冒険者のみならず、世界の敵である闇の王『ヴァルハラ』。それを倒せば世界中にとって最も偉大な大義となるだろう」
また、中二病を擽るような名前が出てきたが…ヴァルハラか。覚えたぞ。
「もしも、闇の王を倒した時には何がもらえますか?」
今の一言は想定外なのかヴォルさんの眼が見開かれ、背後にいるサポートの教会の人からは無理だと中傷めいた笑い声が聞こえてくるが…俺は本気だ。
「私が聞いた話によれば全てを手に入れることが出来る。王に会い、金も名誉も全てを手に入れることが出来るだろう」
「……分かりました。俺は冒険者に成って闇の王を倒し――――『開眼の儀』を辞めさせます」
今の一言に今日最大のざわめきが響き渡る。
「静まれ」
ヴォルさんの一言に会場にいた人たちの声が消えるが、その瞳は俺を見て離さない。
「真意を問おう」
俺の夢は平穏な暮らしをすること。
前世では叶えられなかった最大の願いだ。
『開眼の儀』は効率が良く誰もが悲しくもない有意義な儀式だと思えてしまう。
だけど、最初に儀式を行ったマヤという子も、母も自分の夢を叶えることも出来ない。
夢を叶えることは難しいかもしれない。
誰もが幸せな結果を掴むことは難しいだろう。
…だけど、夢に向かって頑張ることも出来ないのは絶対に間違っている。
前世の俺が同じだからこそ分かるのだ。
俺は高校を出たら大学に行き出版社など本に携わる仕事がしたいと中学生の頃から夢を描いていた。
けど、夢は叶わず高校は入学式初日で中退、意味の分からない借金で追われる日々を過ごし、夢は何時しか悲しみしか生まれず何も出来ない人生だった。
第二の人生だ。
俺は傲慢でも強欲でも何でも良い。
「自由な世界であって欲しいからです」
誰もが夢に向かい頑張れる日々を、悲しんだとしても落ち込んだとしても頑張ることも出来ない人生など俺は御免だ。
第二の人生は――――自由な世界で平穏に暮らす為に努力しよう。