覚悟を決めた
……何だろう。
喉の奥から悲鳴のように泣き叫ぶ自分の声が、自然と涙が溢れ視界は明暗でまともに目を開けることが出来ない。
「――生まれたぞ!男の子だ!」
「――ええ。本当に良かった」
誰かも分からない男性と女性の感極まった声。
誰かが生まれたのか?
おめでたい話だ。
自分の意識が明瞭ではない中で自然と泣き叫ぶ自分の喉、徐々に視界が明るく周囲の景色を見渡せるようになり意識がハッキリとする。
短髪茶髪であり肩幅も広く、腕も逞しい戦士の如き男性、若干やつれ涙を流す赤茶色のポニーテールの女性の姿。
その男性のがっしりとした腕の中に俺が自然と入り込む。
いやいや、俺の身長は175㎝、体重は65キロもあるのに何処のプロレスラーだよ。
流石に無理があるって…あれ?
俺の足や手が小さい……、
「この子の名前はアレン。私たちの子供ね」
「ああ。俺達の初めての子供だ」
あ、もしかして――――生まれたのって僕ですか?
◇◇
一年後。
ふむ。大体の状況を察することは出来た。
俺の名前はこの世界ではアレンと名付けられ、家族は父、母、俺の三人家族だ。
自分の身体が小さい事への違和感、現在進行で俺を少しでも外の空気を吸わせようと母が俺を抱えて散歩中だが、不思議な感覚だ。
俺より身長も低い人に抱えられるのは人生で初体験だが、赤ん坊の身体なので仕方ないと言えば仕方ない。
まだ、言葉を発することも出来ないが――異世界転生を果たしたと言うのが結論だ。
「アレン、これが私たちの村――ディオス村よ」
物思いに耽っていると母が俺を中庭の大木の日陰から村一面を見せてくれる。
恐竜に有りそうな名前の村だが、景色は草原や畑、絵に描いたような農村であり、畑には機械なども存在せずに人が懸命に動きながら労働をしている。
何故、異世界転生を果たしたのか、この世界がどんな場所なのかは何一つ分かっていない。
しかし、やるべきことは決まっている。
俺は前世では波乱万丈の人生を生きた。
高校生入学式の当日に今から始まる新生活を胸に一喜一憂をしながら準備をした直後の出来事だった。
親が多額の借金を抱え、俺に払えと急に借金取りが押しかけて来た。
親は朝早くから仕事だと言っていたが、嘘であり本当は逃げ出したようだった。
その日から俺も全力で逃げ出して借金取りに追われる毎日、海外へ逃亡したり色んな場所で働き生涯を終えた…筈だった。
しかし、現実に目の前は異世界であり今まで住所不定で働いく中でネット環境などある筈もなく、偶にスマホの動画を見るぐらいで本ばかりが俺の人生の生き甲斐だったため、異世界転移など既に当たり前のように知っていたが…まさか、自分が異世界転生を果たすとは夢にも思わなかった。
「あああ!」
「あら、アレンも楽しいの?まだお外は早いけど一緒に中庭を歩きましょうね」
母が俺の産声を喜びと感じ取っていたが…いや、そうなのだろう。
俺は決めたのだ。
もう一度人生を楽しめると伝えられ…絶対に平穏な生活を送ると。
普通の物語の主人公であれば二度目の人生は後悔しないように頑張ると始まるのだろうが、俺は既に一度目の人生でスリルは味わいつくした。
笑えないスリルだったけど。
「ああ!!」
二度目の人生は平穏を謳歌する。
『君の眼が死にかけてるよ』
脳裏に前世の頃の記憶が少しだけ蘇り微笑を浮かべてしまう。
それが俺の願いだ――――エリ―。