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彼女は魅いられた様《よう|に足元の海面を見つめたまま、
歌い始めていた。
『ラーラーラーラーラー』
どこまでも透明な声は、
深淵の夜空に響き渡り闇夜を彩る。
波の緒の旋律に包まれ流れる幼き歌声。
そんな優しいメロディーを口ずさむ少女の横顔を、
海から漏れた仄かな燐光が、
青紫の妖艶の中に包み込んでいた。
子守唄の様などこか懐かしいメロディー。
夢に たゆたゆように。
永遠に 誘うように。
それは世界を調律する歌声だった。
波の音がその拙き声を優しく溶かしていく。
僕はそんな彼女の幼き横顔を見つめ、
癒されてゆくのを感じた。
温かな抑揚。
どこか懐かしく切なくなる声。
渺漠と広がる海原に響く声はどこまでも透明で、
幼気なく、優しかった。
そんなセイレーンの声に誘われる様にして海原で、
何かが鳴く声が「ピュウピュウ」と聞こえていた。
その優しき歌が世界に溶け込み終わる頃には、
その余韻を残す様に、
辺りを潮騒の優しさが包んでいた。
彼女は満天の星空を見上げポツリともらした。
『私あそこから来たの』
一粒の雨粒の様にこぼれ落ちた彼女の鼓動。
そう言って黙ってしまった彼女の視線の先を辿る。
彼女の見つめる先には満月があるだけだった。
不思議の海の少女。
そんな神秘的な少女の顔が、
どこか憂いを帯びて見えるのは気のせいだろうか。
彼女は虚空を見上げたまま続けた。
『私が宇宙人だと言ったら信じる?』
僕は彼女の不思議な容姿を見つめその真意を計る。
『月面保管計画・・・
そこで産まれた最初の子供・・・ 』
彼女は付け足すように、
腰かけたポッドに手を添え続けた。
『このポッドは宇宙船なの』
どこか夢見るような遠い瞳で、
彼女は静かにそう告げた。
僕はそんな彼女に魅いられたまま静かに答えた。
「信じるよ」
そうそれが彼女の空想だろうと真実だろうと、
僕は彼女の言葉を信じる。
彼女は僕に向き直りその真意を計るように、
じっと僕を見つめ続けた。