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それから僕たちは、
延々と船体を転がしながら歩いていた。
邪魔なケーブルは切り離し、
船体から出ていた足は収納して、
船体は完全なボールと化していた。
船体の重みを増し海底につくまで沈め、
操作機器を踏まないよう船体を横に傾けてから、
ひたすら僕らは船体を転がし海底をすすんだ。
時おり水深が下がるたびに浮く船体を、
そのつど彼女はバルブを回しさらに沈め、
調節して歩き続けた。
重くしすぎれば回りにくいし、
軽くしすぎれば浮いてしまう。
彼女はその微妙な調整をしながら、
僕らは海底を鉄のボールを転がし歩き続けた。
ただ黙々と作業を続ける彼女を見つめ、
僕はたずねた。
「でも良くこんな方法を思い付いたね」
彼女は当然と言った風に答えた。
『それは彼を知ってればわかる。
この船体を設計した人の事を。
この船体を設計した人は決しておごらず、
慢心せず、あきらめない。
あらゆる危機に対応してこの船を設計し、
つくっているはず。
そう例えば、
電気がきれても水深を変えれるように、
バルブで船体を制御できるように
設計してるのもそう。
彼がこの状況を予測してないとは思わない。
きっと対応できる様に設計していると思った』
それは、彼に対する絶対の信頼だった。
彼女の記憶。
おそらくは残像の記憶で見た彼を。
それは愛だった。
彼女の安全をなによりも考える彼への、
絶対の信頼だと思った。
そこには新参者の僕なんかが入り込めない、
確かな絆があるのを感じた。




