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『とにかくピーピー達を探さないと!』
そう言った彼女の顔には明らかな焦りがあった。
それはそうだ、彼女が言ったように、
この船体のエンジンは壊れている。
自力では動かないのだ。
ピーピーとキーキーに引っ張ってもらわなければ。
そう思い至った瞬間、二人は同時に声を上げていた。
「『あっ!?』」
僕と彼女はお互いを見つめ、
どちらが先に喋るか逡巡していた。
僕が先に口を開く。
「もしかして、いやもしかしなくても、
閉じ込められた。
僕達はこの海底に取り残されて動けないんじゃ」
僕は窓の外を見上げ海上までの距離を考える。
彼女がそんな僕の考えを見透かすように静かに告げた。
『うん。脱出は無理。
ここは海底260メートル。
人間の潜水の最高記録は300メートル。
これは訓練された世界最高の人間。
普通の人間が出れば減圧症で即死。
出れば死ぬ。
閉じ込められた』
それは絶望的な状況を告げる序曲だった。
『大丈夫、浮上は出来る。
バラストタンク内の水を手動で排出すれば、
浮き上がる事は出来る。
ただピーピー達を追いかけるのは無理 』
そう言ってから彼女は船体の電源を入れ
コンソールのソナーを見つめた。
蒼白き光沢が彼女の顔を妖艶に照らし出す。
『アクティブソナーもパッシブソナーもダメ。
津波の影響で海が荒れて、
その雑音で、音波での探索は無理 』
僕は彼女の隣からその計器を覗き込み、
彼女にたずねる。
「その計器は何を見るものなの?」
『これはアクティブソナーで、
パルス状の音波を発して、
音が反射して戻ってくるまでの時間で、
その物体までの距離を測定するの。
でも海の海水が激しく動いてるため、
真っ直ぐに発射出来ないで、
乱反射して測定出来ない。
次にその隣のがパッシブソナー。
相手が発する音を捉えその位置を測定する。
これも海流の流れが激しく、
雑音で何も捉えれない 』
「つまり手詰まりって事か 」
『うん手詰まり・・・ 』