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イルカは何キロも先までも仲間と話せる。
その様子を聞いている。
知っている。
記憶している。
その様子を仲間に語り継いでいるかも知れない。
最近になって、
急に人間を襲うイルカの事例が出て来たのも、
そんなところだろう。
だからと言ってイルカの全てが、
悪いわけじゃない。
人間にも殺人者もいれば善人もいる。
日本人にも殺人者がいれば善人もいるのだ。
日本人の一人が殺人者だったとして、
日本人全員が悪人のわけはない。
白人の一人が殺人者だとして白人の全てが、
黒人の一人が殺人者だとして、
その全てが悪人じゃない。
だが人間は人を世界をカテゴリーで見がちだ。
我々は国籍や肌の色、
所属する組式などでカテゴライズして、
その組式が不正を働けば、
その全員を悪人とみなしがちだ。
それこそが国家紛争や戦争を引き起こす、
要因だとも知らずに。
人は 愚かだ。
世界は 愚かだ。
大人は 愚かだ。
世界は 汚い。
人間は 汚い。
大人は 汚い。
だかそれでも・・・
それでも、ごく一部の
良心ある人間がいると信じているから、
僕は生きていられる。
世界を憎まずにすんでいる。
世界を滅ぼそうと思わずにすんでいる。
だがそれさえも信じられなくなれば・・・
僕は彼女を見て思った。
もしかしたらこの津波を起こしたのは、
彼女かも知れないと。
もしこれが人為的天災だったとして。
だが、だとして誰が彼女を責められる。
責められるべきはそれを放置した国家であり、
黙認した社会であり、
それが当たり前だと思っている
国民一人一人なのだ。
それを悪だと気づかない個人なのだ。
その価値観を疑わない日本人なのだ。
その価値観が大量の人の命を奪っていると、
気づかない歪んだ利己主義の集団なのである。
そう言った人間が、
そう思わない人間まで巻き込んでいるのである。
裁かれるべき人間が裁かれず、
裁かれるべきでない人間が裁かれている
この日本なのである。
だがそう言った人間は自分の罪を省見ず、
相手を非難する。
彼女は自分の家族の命を守っただけなのだ。
先に奪ったのは我々なのだと反省しない。
奪われた事だけを、
何の恥じらいもなく非難する。
どこまでも利己的で醜い集団なのだ。




