28
そんな視線に気がついたのか、
おもむろに彼女は振り返り僕の目を見つめ続けた。
じっと。ただ黙って。
まるでその心の中を覗き込もうとするように。
僕はそんな彼女を見つめたまま、
その本心を隠すつもりはなかった。
僕が彼女を好きだと言う本心を。
僕は彼女を愛していると言う本心を。
例えそれで嫌われようと。
彼女を失う事になろうと。
ただ伝えたかった。
君を愛している人がいると言うことを。
愛していた人がいたと言うことを。
君は世界で一人じゃないと言うことを。
彼女は無表情のままそんな僕から目線を離すと、
バイザーをつけて外のイルカに話しかけた。
『ピーピー、キーキー、少しの間ごめんね』
彼女はそう言うとバイザーを切り操縦席に置いて、
何かのスイチを下ろした。
途端に窓はスモークがかかった様に真っ黒になり、
外の景色は見えなくなった。
ブラウン管が切れたように唐突に真っ黒に、
遮光カーテンがかかった様に全てを包み隠していた。
彼女は僕の膝の上で振り返り座り直す。
彼女の小さなお尻がぺたんと僕の膝の上でつぶれ、
僕達は向い合わせで座っていた。
彼女は僕を見つめ、僕は彼女を見つめ続けた。
そこに言葉はなかった。
ただ無言で語り合った。
彼女の瞳の奥のどこまでも深い深海の中に僕は沈み、
溺水していった。
青い果実を摘み取るように。
そのうち誘われるようにしてどちらからともなく、
二人は唇を重ねていた。
僕は彼女の小さな体を抱きしめキスをした。
それは互いの孤独を埋めるようなキスだった。
互いの温もりを求めるようなキスだった。
孤独と孤独が出会い、
それは必然の成り行きだった。
決められた運命だった。
決められた定めだった。
決められた二人だった。
互いに欠けたものを埋め合わせる様に、
二人はいつまでも睦あった。
重なりあった。
繋がりあった。
求めあった。
お互いの孤独を絡め紡がれる会瀬は、
何処までも透明で不器用で、
それでも互いを求め決して離そうとはしなかった。
これまでの孤独を埋めるように補うように二人は、
何処までも貪欲に互いを求めあった。
貪りあった。
彼女の小さな温もりが僕の全てを満たし、
体の奥に溜まった膿が全て出てゆくように、
悲しみの全てが浄化されてゆくように、
ただ幸せの余韻の中で僕は彼女を感じ、
彼女は僕を感じていた。
その瞬間世界の全ては消え去り、
ただ二人の温もりだけがそこにはあった。
悠久の時間に溶け込むように、
二人のシルエットはいつまでも重なりあっていた。




