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どこか大人びた彼女の瞳が、
深海の奥の綺麗な幻想を映していた。
『カテゴライズされた言葉が感情を表すとき、
それは必ずしも、
本当の気持ちを表しているとは言えない 』
『なぜなら感情は言葉であらわせるほど、
単純な一方通行の記号ではないから 』
ふと彼女がそんな事をもらした。
『昔。
昔そう言ってた人がいたの』
彼女がそう言った人が誰なのかはわからない。
でも1つわかった事もある。
彼女にそう言った人は、
きっと彼女を愛してたんだと。
彼女の清んだ目は、
海吹雪の中を楽しげに舞い泳ぐつがいのイルカを、
いつまでも映し続けた。
彼女の歩んできた人生を優しく溶かすように、
二頭のイルカはいつまでも舞い続けていた。
僕はそんなイルカに少し嫉妬し、そして感謝した。
彼女を守ってくれてありがとう。
それは生命と言う意味じゃない。
イルカ達が守って来たのは彼女の心なのだ。
だからこそ彼女はイルカを誰よりも愛し、
イルカは彼女を誰よりも愛した。
そこに新参者の自分が入り込む余地など、
無いように思えた。
それが微笑ましくもあり、
妬ましくも羨ましくもあった。
僕は彼女の手を引くと座席に座り、
彼女を引き寄せ膝の上に乗せた。
彼女はなんの抵抗もなく僕の膝の上に座ると、
窓の外を宇宙遊泳するイルカ達を眺めた。
深海の銀河が小さな僕達を包むように、
優しく漂っていた。
自然の大きさは、
時に傷ついた小さな心を包み込み癒してくれる。
僕の膝の上で、
同じようにその光景に見いっている彼女を見て、
そう思った。