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目の前で家族を殺されても村人を殺せば、
殺人者として非難される。
裁かれる。
死刑になる。
その邪魔をしただけでも犯罪者になる。
家族を目の前で殺すのは人間だから良くて、
それを邪魔するのは犯罪だと。
どこまでも救われないこの日本で、
僕だけは彼女を裏切らない、
例えそれが迫害の対象になっても。
犯罪者として扱われ裁かれようと。
僕だけは決して彼女を見捨てない。
日本人として血にまみれ罪にまみれた僕の、
それがせめてもの贖罪だった。
深海の狭い船内で二人。
彼女の青銀の髪が仄かな灯りに照らされ、
神秘的につやめいていた。
溺れるような目でじっと僕を見つめる彼女の、
その深海の底の様な深い深蒼の瞳の奥に沈みながら、
僕はきづく。
僕は海辺の妖精の声を聞いた時から、
決して覚めない夢の虜になっていたんだと。
この深海の妖精を見つけた時から。
恋に落ちていたんだと思った。
死の病。
それは愛。
僕は彼女を愛してしまったんだと気づいた。
僕は彼女を抱きしめその小さな背を撫でながら、
耳元で囁いた。
「フィナ」
彼女は僕の腕の中で、
借りて来た猫のように小さくなりながら固まっていた。
「アクアボイジャーをかして」
僕はそう言って彼女から離れると、
彼女の肩にかけられたアクアボイジャーをそっと外して、
装着した。
そして起動ボタンを押すと、
窓の外で今も心配そうにフィナを見つめるピーピーに
向き直った。
「ピーピー。キーキー」
僕は静かにピーピーに語りかける。
その声に誘われる様にキーキーもあらわれ、
ピーピーの横に並んで一緒に僕の話を聞き始めた。
「ピーピー、キーキー。
僕と兄弟になってくれない」
丸い目が不思議そうに僕を見つめたまま、
イルカ達は何も言わなかった。
「僕はピーピーとキーキーそれにフィナを守る。
だから約束してほしいんだ。
僕は三人を守るから、
ピーピーとキーキーは彼女を守って。
家族になろう 」
「ピキュー ピキュー」
二つのシルエットは不思議な声で鳴きながら、
船体の周りを回り始めた。
その声は何故かアクアボイジャーでも
翻訳されていなかった。
横に並んだフィナが囁く。
『始めて聞く声・・・ 』
そして僕を見上げたずねた。
『なんて言っているの?』
僕は困って首をふるっと、
そっとアクアボイジャーを彼女の頭にかけた。
『聞こえない・・・ 』
それはやはり彼女にもただの鳴き声にしか、
聞こえなかったようだ。
僕と彼女は自然と目を合わせ、
僕は彼女にわからないと首を降った。
『そう・・・
始めて聞く声だから翻訳が出来てないんだ』
僕はそうかも知れないしそうじゃないかも
知れないと思った。
僕は彼女を見つめ僕の考えを言う。
「そうかも知れないけどこうも考えれるよ。
言葉なんて最初からないのかも知れない。
ただ喜びを感情を叫んでるだけなのかも。
僕達だって泣く時は声をあげるけど、
言葉なんてないよね。
でもその感情は伝わる。
ピーピー達はね、きっと喜びをあげてるんだよ。
そこに言葉はないけど、
言葉以上の沢山の想いが詰まっているんだ 」
そう言って僕は彼女の肩を引き寄せると、
二人並んで窓の外で周り続ける兄弟を見つめ続けた。
彼女はそんな兄弟の姿を見つめながらつぶやいた。
『きっとそう。
そこに言葉はないと思う。
感情に言葉は不要なんだと思う』




