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『イルカ漁よ。
私のパパとママは町の人達にイルカ漁で殺されたの。
そのとき私は何も出来なかった。
ただボイジャーから聞こえるイルカ達の声を聞いてた。
助けて 助けて。
痛いよ 痛いよ。
死にたくない 死にたくない。
なんで殺すの。 なんで殺すの。
やめて。 やめて。
助けて。 助けて。
痛いよ。 痛いよ。
ママ。パパ!? 』
彼女は苦しそう耳を塞いで、
その場にうずくまってしまった。
僕はそんな彼女の手をそっと握る。
握りかえす彼女の小さな手が、
助けてといっているようだった。
『いつまでもいつまでもその声は響き、
私はそれでも何も出来なかった。
私を助けてくれた恩人を、
私の同族が殺しているのを
何も出来ず耳を塞いでいる事しか出来なかった』
残酷な天使の命題はどこまでも彼女を蝕み。
彼女は苦しそうに僕を見つめ心の叫びを漏らした。
『今でもその時の悲鳴が聞こえるの。
痛みが聞こえるの
ずっと聞こえるの!』
それは記憶。
それは贖罪。
それは魂を切り裂く
咆哮だった。
嗚咽を滲ませ僕にすがり付く彼女は、
とても小さな一人の子供だった。
『その時、私と遊んでいたピーピーだけは、
その漁に捕まらずにすんだの。
私は海から聞こえるその悲鳴を
ピーピーと一緒に聞いていた。
でもね聞こえなかったの。
ピーピーのママとパパの声は聞こえなかったの。
ピーピーのママとパパは、
その時の漁で殺されたのは間違いない。
ピーピーのママとパパは悲鳴を上げなかったの。
沖合いでいる私とピーピーを守るため、
ピーピーが助けに来て捕まらないため、
必死で声を堪えていたの。
どんなに痛くても声を上げなかったの。
どんなに辛くても、痛くても、鳴かなかったの。
泣かなかったの! 』
必死で嗚咽を噛み殺し、
窓の外のピーピーを悲しそうに見つめる彼女。
『ピーピーはまだ両親は、
どこかで生きてると思ってる。
迷子になってるだけだと思ってる。
死の声を聞いてないから。
それは両親がピーピーに残した希望。
残酷で優しい希望 』
その言葉に僕は僕の両親と重ね合わせる。
僕の両親も死の間際、僕に希望を残したのかと。
そして気づく。
死を望んだ僕が死ねないんだと言うことを。
両親が残した希望を繋いでいかないといけないんだと。
幼い彼女の横顔を見て思う。
この小さい彼女は僕に色々な事を教えてくれる。
忘れていた温もりを思い出させてくれる。




