蒼き臨界のストルジア

失われた楽園

２２

『私は死に怯《おび》え必死で海の中もがいていた。

　掴《つか》むものの無い海で、

　それでも何かを掴《つか》もうと必死でもがいていたの。

　どれだけ海水を飲んだかわからない。

　どれだけ諦《あきら》めかけたかわからない。

　そんな時、突然《とつぜん》私を持ち上げるものがあったの。

　それは海の神が私を助けに来てくれたような、

　宙に舞い上がる様な感覚。

　私を天に召《め》されに神が訪《おとず》れたのかと思った』

そう言って彼女は狭《せま》いコックピットの天井を見上げ、

満天の星空を見るように続けた。

『でも違った。

　それは神なんかよりもっと優しいものだった』

そう言うと彼女は窓の外に向かって話しかけた。

『ピーピー、キーキー、聞こえてる。

　一緒に聞いて』

そう言ってから彼女は息を整《ととの》えると、

再《ふたた》び話し始めた。

『神なんかよりもっと優しい存在。

　それはイルカよ。

　私はその時イルカに助けられた。

　私は当時３歳。

　海で溺《おぼ》れる小さな存在《そんざい》の私を救《すく》ってくれたのは、

　イルカ。

　ピーピーの両親よ。

　その時からイルカは私の神になった』

そう言って窓の外を見つめる彼女。

そこに誘《さそ》われる様《よう》にピーピーが顔を近づけていた。

優しい目がコックピットの中の少女を気づかう様《よう》に、

じっと見つめていた。　

『ありがとう。ピーピー』

彼女はそう言って泣きそうな笑顔を見せると、

話を続けた。

『私は両親の顔を覚えていない。

　その当時の記憶もあまり残ってない。

　でもその時の記憶だけは鮮明《せんめい》に残ってる。

　私を助けてくれた私の大切な人。

　私の新しい両親。

　私の恩人。

　二人のつがいのイルカ。

　ピーピーのママとパパ。

　その時からピーピーのママとパパは、

　ピーピーと私の両親になった 』

そのとき窓の外のピーピーが少女を見つめ、

悲しそうに鳴いた。

「ピュクゥー　ピュクゥー」

それはあまりに悲しい兄弟の語《かた》らいだった。