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僕はそんな彼女がほっておけず自然と言葉が出ていた。
「少し昔話しようか」
僕はこれまで誰にも話さなかった生い立ちを、
何故かこの少女に話していた。
それは僕の中の禁忌。
誰にも触れさせたくない痛み。
誰とも共有できない悲しみと弱さだった。
「僕はね。
小さいとき両親を事故で亡くしてるんだ」
これまで決して口に出来なかった現実が、
何故かこの少女の前では漏れだしていた。
「後悔した。 憎んだ。 絶望した。
今もそれは続いてる。
答えもなくただ無限に続く痛みの中で、
今も僕のそれは続いている 」
次から次に溢れ出す感情の波が、
止まらなくなっていた。
「晴れない空は無いとか、
痛みは思い出に変わるとか言うけど、
そんな言葉はなんの慰めにもならないよね。
でもいつかこの痛みを受け入れでる様になったら、
僕はこの痛みを感じる人を少しでも減らしたいと思うよ。
僕と同じ痛みをもう誰にも味わって欲しくないから 」
僕の中の冷めた僕が心の中で、
なぜ僕はこの少女にこんな事を話してるんだろうと、
呟いていた。
彼女はそんな僕を見つめそっとその手を握った。
まるで傷をわけあうようにそっと握りしめた。
そして彼女は話し出した。
『私はそんな風に思えない』
ぽつりと漏れた彼女の心音。
ぽつりぽつりとその雨は、段々とその量を強めた。
『私も・・・だよ』
彼女はうつむきまるで独り言のように呟いていた。
『私も両親が居なくなった』
死と言う言葉を使えないのが、
彼女がまだその事実を受け止められないでいる
現実をあらわしているようだった。
『多分・・・ 』
僕はそれきり黙ってしまった彼女の次の言葉を、
いつまでも待ち続けた。
彼女の心が溶けるまでいつまでも。
どれくらいそうしていただろう。
無音の深海で、彼女の温もりだけが、
鼓動だけがそこに存在していた。
彼女は再び語り始めた。
『事故・・・
事故で船が転覆し私は海に流された」
それは彼女の壮絶な過去を物語る序章だった。




