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蒼き臨界のストルジア  作者: 夜神 颯冶
海から来た少女
17/37

                               17        

 

幼い少女の平然とした横顔を見て思う。



彼女は僕よりかなり小さく幼いが、

それでも海に関しては、

遥かに僕より先達者せんだつしゃなのだと。



『プラシボー効果って知ってる?』



彼女が唐突(とうとつ)にそんな事をつぶやいた。



「薬が良く聞くと思い込まされて飲めば、

 ただの水でも効果が出るみたいなやつ」



『そう自己暗示。

 私は天才であなたは助かる。

 これは決まった未来よ』



「そっそうだね。

 君は天才だよ・・・ 」



自己暗示による能力の底上げ。



 記憶力、判断力、決断力。



いや彼女の場合、それは比喩ひゆで、

本当に助かる実力を何気なく示しているのだろう。



私にまかせとけばすべてうまくいくと。



少なくとも彼女は本気でそう思っている。



彼女は漆黒しっこく海原うなばらを見つめたまま、

何かをつぶやき始めた。



『私は天才。私は天才。私は天才』



どこかわざとらしく微笑ほほえむ彼女。



『一度言って見たかったの。

 追いつめられた主人公が言うセリフ。

 私には必要ないけど。

 言ってみてわかった!

 これって自分に自信のない人のセリフ』



「僕にはそのセリフを言う余裕よゆうもないよ」



『そう』



主人公が自分を鼓舞こぶする勇気をたたえたシーンも、

彼女にとっては滑稽こっけいなだけのようだ。



彼女には勇気を振り絞る主人公も、

それはその主人公の底を見せている喜劇にしか、

映らないのだろう。


一般的な人間は、

その勇気さえ持てないのが理解できないのだ。



世の中に絶望し、いつ死んでもいいと思っていた

自分でさえ、現実の死を突きつけられると、

生きたいと思っているのだから。


最初から死にたくない人間の恐怖はもっとだろう。



それさえ滑稽こっけいに見える彼女の絶対の自信が、

その小さな体からにじみ出ていた。



そのりんとした眼差しが母の横顔と重なって見えた。



思いがけない邂逅かいこう



かすんだ残像の中に、

遠い昔見た母の面影おもかげが重なる。



埋没まいぼつした記憶の残像。



遠い昔に見た幻。



母は振り返りチャイルドシートの僕に近づきささやいた。



『大丈夫』


 

 

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