10
一人頭を抱え苦悶する僕をしりめに彼女は、
僕から離れるとそのイルカを愛しげに撫で始めた。
イルカは突き出た高いおでこを、
少女の小さな手に気持ち良さそうにこすりつけ、
高い子供の歓声のような鳴き声で、
楽しげに「ピーピー」と鳴いていた。
別名、海のカナリアと呼ばれるだけあって、
その鳴き声はとても愛らしくかわいかった。
『喜んでる』
彼女はそんなイルカを見つめつぶやいた。
「イルカの言葉わかるの?」
『うん、わかる』
それに嫉妬したように傍らのもう一頭が、
首を突き出し「キーキー」と鳴いていた。
その餌付けされたような姿を見て、
僕は彼女にたずねた。
「友達なの?」
『うん。 ピーピーとキーキー。 友達』
「かわいいね」
『かわいい?』
「愛らしいってこと」
その言葉に少女は不思議そうにこちらに振り向くと、
僕の真意を探るように僕の目をじっと見つめた。
『愛ってなに?』
・・・
僕はそうたずねる無垢な瞳に魅いられていた。
この少女は愛を知らないのだろうか?
その幼気な姿に胸が締め付けられ痛くなる。
「愛ってのは、好きって事だよ」
『好き?』
「好きってわかる?」
『うんわかる。
美味しいってことだよね。
私、イルカ好きだよ 』
・・・
それも愛の形か・・・
あまり深く考えるのはよそう。