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勉強が出来なければ天才たちでも五等分になってくれますか?

体中が血液ブシャーって叫ぶよ

 転入初日同様、教室内は静寂に包まれ、粛々と講義が執り行われていた。


(聖少女学園への一般入学は、極めてハードルが高い。問題児は必然的に排除済み……というのもあるだろうが、この緊張感は十中八九、オレたちが原因だろうな)


 既知の内容の講義を聞き流しながら、全体の様子をなんとはなしに探る。


 講義の妨害レベルは論外としても、携帯端末をこっそり弄る者や、眠気と格闘する者すらも皆無なことを、奏詩は異常と捉えていた。


 悪目立ちすることのないよう、皆必死なのだろう、と。


(……しかし、どうしたものかな。講義のレベルは高いのだろうが、潜入前に履修済みだからな……任務達成に繋がりそうもないし……)


 隣席の舞愛の様子も窺う。


 真剣な表情で講義を聞いている。


(行動を共にしているとはいえ、これでは単なる友人関係に過ぎないしな……)


 などと、休むに似た下手な考えを巡らせている間に、講義の時間は無事に終了を迎えたので、奏詩は荷物を片付け始める。


「舞愛さん、すみませんが今日はこれで失礼します。こちらの用件も気に掛かるので」


 奏詩が見せたのは、先程深冬から渡されたメモ。折角なので、サボる口実に使わせてもらうことにした形だ。


「え? あ……そ、そうだよね……じゃあ、あたしも……」


 舞愛も慌てて片付けに取り掛かる。


 同行を頼んでいるわけではないが、この微妙な空気の中で、一人講義を受け続けるのは流石にしんどいのだろう。


「あっれ〜? どしたん? もう帰るん?」


 教室を後にしようとしたところ、丁度入室しようとしていた女生徒と鉢合わせになってしまった。


(珍しいな。聖女相手に気後れしない一般人というのは。まぁ、生徒の総数自体が桁外れなのだから、そういう異分子も多少は混ざるか)


「ええ、急用があるものですから」


「へぇ~、だったら別にこっちまで移動しなくても良かったじゃんね〜?」


 道を譲りながら、軽薄な女生徒は後方へと呼びかける。おそらくは同行している友人なのだろう。


 聖少女学園の講義スケジュールは、聖女ファーストでフレキシブルに変更が行われる。


 聖女が講義を受けることを希望した場合、この専用教室へと教員や生徒たちが移動してくる形となる。


(聖女専用教室は他から少し離れているからな……余計な距離を歩かされる羽目に陥ったのだろう……が、それにしても)


 随分と怖い者知らずだとは思う。


 下手なことを口にして、気分を害する可能性は考えないのだろうか、と不思議がっていた矢先。


「な……何してんのこのアホーッ!?」


ヘラヘラと能天気さを振り回すギャルの後頭部が鷲掴みにされ、そのまま地面へと叩きつけられた。


「いでっ! いでえっての! 放せこのバカ!」


「うるっさい! バカはあんただッ! いいから黙って土下座してろッ!」


 冷や汗を浮かべた少女は、ギャルの頭をゴリゴリと抑えつけたまま、早口に弁解の言葉を並べ立てる。


「すいません! こいつちょっと頭の出来が非常に悪いので! くるくるぱーなんで! どうかこれでお許しくださいっ!」


「いえ、気にしないでください。そんなに頭を下げる必要もありませんし……」


「そうですか……? 気分を害されてないのでしたらいいのですが……」


 気の遣いすぎは却って失礼となる。慇懃無礼のようなものだ。


「そのくらいのフランクさなら大歓迎ですよ。ね、舞愛さん?」


「う、うん! そうそう! あたしたちも、もっとみんなと仲良くしたいもん!」


(オレは任務さえ達成できれば、どうでもいいんだけどな)


「ほうれみろ。ほうれみろ。ふみふみはこまけぇこと気にしすぎなんだっての」


 盛大に舌を出してベロベロバーするギャル。子供なのか。


「聖女っつってもアタシらとタメなんっしょ? だったら別に敬語とかもいらないよね?」


「あ……あんたはまた、言ってるそばから……!」


 少女の手が、再び土下座強要の予備動作を行いかける。


 が、実行には移されなかった。


 聖女自身が許容していることに対し、口出しするべきではないと察したのだろう。


 そこで奏詩は漸く気付く。ギャルを諌めていた方の少女に、見覚えがあることに。


「先程はどうも。ご存知かもしれませんが、一応自己紹介させて頂きますね。如月奏詩です」


 今朝、つまりはほんの1時間半ほど前、並木道で待ちぼうけしている深冬のことを教えてくれた少女だった。


(ターゲットである聖女以外には無頓着だったとはいえ、気が抜けているんじゃないのか? あまりにヌルい空気だが、敵陣のど真ん中であることには変わりないというのに……)


 内心、深く反省する。勿論表には出さない。


「あ、すみません、申し遅れました。入江(いりえ)文香(ふみか)と申します。で、猪突猛進のアホギャルが茅部(かやべ)亜希(あき)です」


「ひっでぇ言われようだな。なんだそのキャッチフレーズは」


 文香と名乗った少女は、亜希の抗議には一切応じない。


 そしてもう一人、文香の背中に隠れるように、いかにも気の弱そうな少女がしがみついている。


「あと、こっちの娘は古鞘(こさや)美優(みゆ)です。大丈夫、そんなに心配しなくても。優しい人たちみたいだから」


 美優を落ち着かせるために、柔らかく声掛けをする文香。


 せめてその半分でもいいから、亜希へ分けてはやれないものだろうか。


「さて、そろそろ休憩時間も終わりが近いですし、これで失礼させていただきます」


「あぁ、急用だっけ? んじゃま、折角こうして友達になれたんだし、LINKの交換だけでもしとこーぜ」


「なんだろう、こいつと私とで、見えてる世界が違うとしか思えない……」


 呑気に携帯端末を取り出す亜希の姿に、文香が頭を抱える。


(余計な厄介事を抱え込みやすい、苦労人タイプ……か?)


「本当に、重ね重ね失礼ばかりですみません。迷惑でしたらバッサリ断ってくださって大丈夫ですので。そうしないとこのアホも現実が見れないので」


(……この流れ、良くないな。一般学生との交流が深まったら、今後も無駄な講義に出席する羽目になる……何か、早急に対策を講じないといけないか……)


「め、迷惑なんかじゃないよ! こっちからお願いしたいくらいだし! ね、奏詩ちゃん!?」


 食い気味に舞愛が答える。


(同意を求められても困るんだが……ぶっちゃけ聖女でもない一般人との交流に価値はないし……とはいえ拒否するのも違うか。女性を落とすのに重要なのは『共感』だったよな、咲人。信じるからな)


「ええ、勿論です。貴方たちのような方と出会えただけで、聖少女学園に来た甲斐があったというものです」


 満面の作り笑顔で、快くアドレス交換に応じるよう振る舞う。


 血の滲むような訓練の末、身につけた笑顔だ。嘘くささの欠片はまるで残っていない。



「やっぱりすごいなぁ、奏詩ちゃんは……」


 主人公の引き立て役となるサブキャラのテンプレ台詞を、舞愛がぽつりと呟く。


「なんですか、いきなり?」


「聖少女学園に来たの、あたしの方が1年も早いのに、何も出来てなかったなぁって……改めて凹むんだぁ……」


「……特に何かをした覚えはないのですが……?」


 舞愛と無関係なところで言えば、組織に与えられた任務は完了している。


 ちっとも評価されている実感はないわけだが。


「そんなことないよ。あたし1人じゃ、講義を受けに行く勇気も出せなかったし、もし行ってたとしても、空気に耐えられなくって、途中でギブアップしてたと思うし」


「まぁ……そうかもしれませんね……」


 奏詩1人ならば、僅か2分で退出していたことだろう。


「一昨日だってそう。GF特区の問題、どうにかしないとって思ってたはずなのに、結局なぁんにも行動なんて出来なかった。聖女だったら、きっと大勢の人を助ける手段はあったはずなのに……」


(別にあそこで暮らす男たちを救うつもりなんて皆無なんだけどな。あいつらがどうなろうが、知ったこっちゃないし)


 GF特区の女性たちも、男性に罰を与えるには一応の正当性を必要とする。


 つまり付け入る隙を与えるようなミスさえしなければ、健康で文化的な暮らしを営むことが可能である。


 マナー講師ばりに支離滅裂なミスポイントを創り出す輩相手に、完全ノーミスを達成するなど、まず不可能であるとしても。


(それでも、いつ虫ケラのように野垂れ死んでもおかしくない、大半の男たちに比べれば、あいつらは遥かに恵まれている)


「……たまたまですよ。舞愛さんの力が世界の役に立っていくのは、きっとこれからです。誰かのことを思い遣れる舞愛さんの優しさこそが、本当に必要なものなのだと、私は思います」


「奏詩ちゃん……ありがとう……そんな風に、なれたらいいな……」


 目元をほんのりと潤ませる舞愛の隣で、奏詩の中のふんどし妖精が叫ぶ。


『こいつはくせぇー! 牛乳を拭いた後のクサ布巾以下の臭いがプンプンするぜぇー!』と。


(女を籠絡するためには、褒めて煽てて承認欲求を満たしてやることが効果的である……)


 昨日読み返した、組織のテキストに載っていた情報だった。


(が……これは、キツイな……歯が浮きそうな気分とはこういうことか……)


「うん、そうだよね。今まで出来なかったのなら、これから始めていけばいいんだよね。聖女じゃない友達だって出来たんだし、壁があるなら、これから取り去っていけばいいんだ」


 舞愛の言葉に、ふと引っかかりを覚える。


「……今までは、出来なかったんですか? 友達。1人も?」


「ぐはぁっ! 酷いよ奏詩ちゃん!? 慰めてくれたばっかりなのに、なんでそんな心の傷を抉るようなことを言うの!?」


「あ……すみません。そんなつもりはなかったのですが……」


(普通の感性をした一般女性であれば、聖女に関わりたがらないのは、おかしい話ではない。が……)


 聖少女領域の役割は教育機関だけでなく、聖女と一般女性が親交を深める場でもある、と公言されている。


(……だというのに、誰一人として近寄ってこないというのは、些か不自然じゃないか……? 実際、茅部亜希のような、距離感のわからないアホギャルもいたわけだし……)


「奏詩ちゃん! 通り過ぎちゃってるよ! 病院に行くんじゃないの!?」


「あ、ついうっかり……ぼんやりしていました」


 来た道をほんのちょっぴり引き返し、聖少女学園同様に大きく、豪勢な門をくぐる。


 プレートに書かれた文字は『聖女記念病院』。


 深冬に伝言を頼んだあの人物が、ここの最上階で待っている。


 *


「やぁ、待っていたよ。その辺で適当に寛いでくれ。今飲み物も用意させよう。何かリクエストはあるかい?」


(ターゲット候補その3・河嶋翔子……)


 高級ホテルのスィートルームかのような病室に入ると、入院患者が快く出迎えてくれた。


 どこぞのゾンビのように、切断された上半身と下半身が独立して動いているということではない。きちんと五体満足だ。


 基本能力の1つ『即時転生(リンカネーション)』。


 聖女が生命活動を停止した際、直近の万全の状態までロールバックして復活するというもの。


(一度殺害するだけでも途轍もない労力と、分の悪すぎる博打を要したというのにな。それをあと2、3回立て続けに行うとか、もう奇跡ってレベルじゃねーぞ)


 旧体制側が、聖女陣営に無条件降伏を受け入れたのも、妥当な判断だろう。


「意外でした。病室に来てほしいという伝言もそうでしたが、このように歓迎されるのは。恨まれても仕方のないことをしたつもりでしたから」


「ハハッ、確かに。まさかこのボクが殺されてしまうだなんて、思ってもみなかった。おかげで今日いっぱいまで、陰気な病室で軟禁状態なわけだしね」


 即時転生は極めて強力だが、制限なしで使い放題というわけにはいかない。


 短期間で死亡と復活を繰り返したならば、平均3回ほどでオーバーヒートのような状態を引き起こす。


 結果、その聖女は暫くの間、あらゆる聖神力の行使が不可能となる。


(一時的にではあるが、ただの人間になるということ……つまり、聖女の殺害は絶対不可能ではない……理論上は)


 今の世界にとって、聖女はかけがえのない資源でもある。


 故に聖少女学園側は、聖女が無防備状態に陥り、良からぬ輩に狙われることのないように、1つのルールを設けている。


 それが『聖少女領域内で即時転生を使用した聖女は、3日後の午前0時まで、特別病室で療養しなくてはならない』というものだった。


「大袈裟すぎる期間の長さに不満はあるけど、生徒会長という立場もある。従わないわけにもいかないわけさ」


「特に陰気という印象は受けませんけれど。広々としていて、隅々まで手入れが行き届いています。インテリアも豪勢ですし、病室という感じもしません」


 これが陰気であるとしたら、蒼汰の暮らしていた環境は、さしづめ八大地獄といったところか。


「豪邸から一歩も出ないで悠々自適に暮らす聖女も少なくないとは聞くし、彼女たちにとっては苦にもならないのだろうけどね。ボクにはやはり窮屈だよ。自由に身動きできないというのはね」


「そういうものですか。けれど、その不満や恨み言をぶつけるために私を呼んだわけではないんですよね?」


「ああ。ボクが転生したのは、あくまで真剣勝負の結果さ。勿論、敗北に悔しさはないわけじゃないが、それよりも嬉しさが勝っているくらいだ」


「嬉しい……ですか?」


「そうさ。いつか乗り越えるべき相手が身近にいるというのは嬉しいことだよ。それはつまり、ボクはもっと強くなれる……いや、強くならなければいけない」


(そんなことしなくていいから)


「宣言しよう。この学園にいる間に、ボクはきっとキミより先へと進んでみせる、とね」


(既に遥か遠く先の、地平線の彼方なんだよなぁ)


「とまあ、それが本題というわけでもない。キミとの真剣勝負の結果に不満はないが、1つ、厄介な条件が付随していただろう?」


「ええ、処刑対象とされた男性に、土下座して謝罪するように求めましたね。つまり、その撤回を求めると?」


「……決闘前に受け入れた条件を、敗北してから覆すというのは、恥ずべき行為だと理解はしている。ボク個人の問題であるならば、気は進まないながらも、遂行しただろう」


「どういうこと? 謝ればいいだけだよね?」


 呼ばれてもいない舞愛が、のほほんと疑問符を浮かべる。


「立場がある、ということです。聖少女領域を治めるトップが、男性に頭を下げたとなると、問題が生じるかもしれません」


「肯定。一例としては、反政府勢力の活発化」


 2人に温かい飲料の入ったカップを手渡しつつ、影崎朱音が補足する。


「聖女の優位性を否定するには、格好の材料となるでしょうからね。戦意高揚のためのプロパガンダとして利用されるかもしれません」


(もう手遅れだろうけどな。オレが送った戦闘データから、河嶋/翔子になる場面を切り抜きすれば済む話だ)


 朱音から渡された飲み物を口に含む。


 毒物の可能性は、無視していいレベルだろう、と。


(……この味……キノコのポタージュか……? いやいや、単独で飲み物として出すようなものじゃないだろ……)


「あくまでこちらの事情でしかないわけだし、約束を反故にしておしまい、というのはあまりに虫が良すぎる。そこで、だ」


 翔子の目配せで、朱音から1枚のカードが差し出される。


「キミを生徒会特別役員として任命し、GF特区における全権限を委託する、という代替案なんだけどね……受けてくれるかい?」


「それはまた……結構なお話ですね。いいんですか? 聖少女学園に来てたった3日の私に、そんな権力を与えてしまって」


「ハハッ、そんなの今更だよ。元よりこの世界の行く先は、ボクたち聖女の手に委ねられているのだから」


 驕りでも高ぶりでもなく、当たり前の事実として翔子が笑う。


「限定的条件下に於いてのみ、他の聖女よりも優先された決定権を得るだけ、と考えれば、そこまで大それたものではない……とボクは考えるけどね」


 聖女どころか敵方のスパイであるのだが。


(さて、この提案……どうしたものかな。GF特区の男たちを守護る必要などないわけだが……河嶋翔子たちとの接点を作っておくのは悪くないか)


「わかりました。その話、お受けしましょう」


 こうして奏詩は、聖少女領域に於ける権利の一端を手に入れた。


 *


「見送りしてもらわなくても良かったのですが」


 病院のエレベーターの中、奏詩・舞愛は影崎朱音と相乗りしていた。


「心配無用。別件あり。聖天騎士団員との打合わせ。翔子の代理」


「……もしかしなくても、私のせいですね。重ね重ね、面倒をお掛けしてしまったようで」


「謝罪不要。翔子自身の選択の結果。私用のキノコ狩りも同時進行の予定」


「……好きなんですか、キノコ」


「否定。愛」


 一切の迷いなく、そう返す。


(ターゲット候補その4・影崎朱音……とはいえ、こいつはあまりにも掴み所がなさ過ぎるな……)


 特に会話が盛り上がることもなく、そのまま病院の出口で別れることとなった。


(まぁ、基本河嶋翔子と一緒に行動してるっぽいし……行けたら行くぐらいの感覚でいいか)


「GF特区の全権を握る特別役員かぁ……奏詩ちゃんって、恐ろしいスピードで出世していくよね。まるで『課長・高坂志摩』みたいだよ」


 翔子の個室までついては来たけれど、これといって何もしなかった舞愛が、しみじみと呟いた。


 因みに『課長・高坂志摩』とはビジネス界をあり得ぬ速度で駆け上がっていく、とんでもサクセスストーリーの長期連載マンガ作品のことだ。


 元々主人公は男性であったのだが、聖女戦争以降に女性主人公として完全改訂が施された。


 それ以前のものは徹底的な焚書が行われたため、もはや反政府組織の貯蔵分しか現存していない。


(やれやれだな。また落ち込み直しているのか……いちいち慰めるのも面倒だが、好感度獲得のためには、やるしかないか)


 もう一度、歯を浮かせようと決意した奏詩だったが、それには至らなかった。


「でも、そんな奏詩ちゃんを見てたら、あたしもなんだか燃えてきたよ! あたしにだって、きっとやれるんだって! なんたって、奏詩ちゃんが太鼓判を押してくれたお墨付きなんだからね! よーし、負っけないぞー!」


(心にもない社交辞令なんだがな……しかしどうやら承認欲求は満たされたようだし、ひとまずは成功と、素直に喜んでおくか)


「というわけで、明日は奏詩ちゃんの歓迎会を開くことにしたよ!」


(……いつ決めたんだ、それ)


「丁度土曜日だし、翔子ちゃんも退院できるし、深冬ちゃんも文香ちゃんも、うん、折角なら同じクラスの人も全員呼んで、盛大に遊ぼー! みんなで仲良くなる第一歩にもなるし、一石二鳥だね!」


(そこはひらがな4文字に略さないのか……多分テンションが上がって失念しているのだろうな……いや、そんなこことより、だ)


「あの……当事者である私が承諾していないのですが、それは……」


「大丈夫! あたしに任せてくれれば、全部上手くいくから心配しないで! さぁ~、これは忙しくなるぞ~! というわけで奏詩ちゃん、また明日ね!」


「いや、だから……」


 奏詩の返事も待たず、舞愛は猛ダッシュで駆け出して行った。


 流石に聖神力の使用は危険と判断してか、一般常識的な速度であるが。


(いや……普通の人よりも大分遅いな。走り方もまるでなっちゃいないし、スピードなんて出るわけない)


 疑似聖女へと変身するまでもなく、素の脚力でも充分に追いつけるレベルであったが、敢えて奏詩は追おうとはしなかった。


(具体的に何をするつもりかは知らないが……取り敢えずは泳がせておくか。オレの正体に感付いて、罠を張っているとかでもなさそうだし)


 周囲に気配がないことを確認し、携帯端末内のデータを表示させる。


(何より、大勢の者を集めるつもりならば、こいつと対面するチャンスになるかもしれない。まだ見ぬ、聖少女学園5人目の聖女……麻薙(あさなぎ)(あおい)


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