日誌 2月10日 任務完了報告1
30分ほどたち、2、3km進んだところで、扉に突き当たった。通常ならこんな長いトンネルを通っていれば、とっくに学校の敷地の外に出ているはずだが、ダンジョンに空間の常識は通用しない。
ダンジョンは世界と異世界をつなぐ深い穴で、穴の中の空間は、その深さに比例して引き延ばされていく。つまり深いダンジョンほどその体積は大きく、また危険性は大きい。
幹人たちがこれから攻略し破壊するダンジョンは、ほとんど物理法則の変わらない浅いもので、危険性で言うなら地球のサバンナくらいのものだろう。
ダンジョンを攻略する方法は一つ。引き延ばした空間を維持する重石、起点を破壊することだ。それはボス部屋と呼ばれることもあるし、単にコアと言われたりもする。そこを破壊すれば、空間はゴムのように元に戻り、間のダンジョンは消滅することになる。
「えー、2月10日、午後5時50分、コアに到達。ボスの種類は大型獣型、オークジェネラルと確認できているため、このまま突入して排除。ダンジョンを破壊します」
持っているスマホ型の端末に録画して、後で報告する際の資料とする。ダンジョン委員の一番大切な仕事だ。ダンジョンの発生、成長、崩壊の全てを記録し、ダンジョンを管理することが、委員に課せられた使命だった。
「はいはい、終わったらさっさと行ってぶったおし!いくぞいくぞイクゾー!」
もっとも、崇高な使命など知ったことではない者も少なくは無い。託美は間違いなくその種類の人間だった。狭苦しい通路から解放されて、のびのびと脚を伸ばしながら扉をけり開ける。彼女の身長の3倍はある両開きの門が、アニメじみた豪快な動きで吹っ飛んだ。
中にいたのは、ゴブリンと同じ緑の肌の、ゴブリンの数倍の体格を誇る怪物。オークの上位種。常にオークの部隊を従えていることからオークジェネラルと呼ばれている敵だった。今回も14体の屈強なオークを引き連れている。
幹人たち二人で腕を回しても足りなさそうな腕回り。それが支えるのは、さっき蹴りだした扉よりも分厚い鉄の板、というより壁。それを刃らしく整えた、巨大な肉切り包丁だった。
準備運動だろうか、軽く振る回しただけで、特急列車が通過したような風が顔をなぶる。とんでもない重量だ。もともに当たれば、人間どころか装甲車だって両断できるだろう。
その圧倒的な質量差を前に、託美は唇をぺろりと舐めて、歯をむき出しにして笑った。