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日誌 2月10日

 終礼が終わった。クラスの面々は部活に向かったり、まだ喋り倒していたりする。戸隠幹人とがくしみきひとは委員の仕事のため教室を出た。

 委員はクラスに一人。高校のダンジョンはレベルが高いので、だいたい特待生で入学した経験者が委員になる。幹人もご多分に漏れなかった。


 幹人はもうすぐ二年生になるダンジョン委員だった。今の担当は、校舎の裏にある、日当たりの悪い場所に開いたダンジョン。

 小規模で、一組で対応できるような低レベルのものだが、逆に言えばそこで起こる全ての事案を解決できると、生徒会に信頼されているということでもある。小規模ダンジョンを任せられるバディは、ベテランと認められた証拠だった。


 基本的にダンジョンに一人で潜ることはない。どこで行方不明になったか分からなくなれば、やがて異界の法則に呑み込まれ、モンスターの1体として災厄を振り撒くことになる。

 絶対にバディで行動。一人がやられたらすぐさま撤退して記録を残す。講習でまず教えられるいろはの"い"だ。それは委員活動の厳しさそのものでもある。

 そういうわけで、自分のバディを連れていかなければならない。幹人の所属する3組の隣、4組へ向かう。ドアを開けようとしたが、その前に相棒が出てきた。


「おーう。ミッキー。準備万端じゃないか」


 粗雑な言葉遣いだが、見た目は華やかな少女。ぶっちゃけギャルだ。髪は金に染めてピアスまでつけている。背中には身長を超える大剣を背負っていた。

 ほとんど腰巻のようなミニスカートの下に、銀に輝く脚甲を装備。セーラー服の上から、胸甲と小手だけをかぶせていた。無理やり着込んだ鎧のせいで上着がまくれ、へそ出しルックになっている。ダンジョンでの長期滞在はまずないので、動きやすさだけを考慮した格好だった。


「船山、そのあだ名はやめろよ!危ないよいろいろ!」


「いーじゃん別に。ダンジョンで迷ったときに助けてくれるかもしれないじゃん。ディ〇ニーが」


「助けてもらったって社会的に死ぬだろ!」


 このやたら距離感の近い女、船山託美(ふなやまたくみ)を、幹人は苦手にしていた。

 それでも戦士としての戦闘力は信頼できる。戦端が膨らんだ形状の、古代の青銅剣を拡大したような大剣の破壊力は、校内でも有数のもの。その分生まれやすい隙を、盗賊(シーフ)である幹人が補う形だ。幾度となく共闘して、お互いの実力は知り尽くしている。


 校舎の土台に開いた大きなネズミの穴のようなものが、ダンジョンの入り口だった。もっと堂々とした門もあるが、小さいダンジョンだとまっすぐに入ることも難しい。

 特に馬鹿みたいに大きな剣を背負う託美は、柄が引っかかったりしないように体を折り曲げて入らなければならなかった。


「うん、しょおう!もうやってらんないって!これもうちょっと広げらんないの!?」


「ダンジョンの入り口を加工するのは校則違反。変に広げてモンスターが出てったら、僕も船山も始末書じゃ済まないぞ」


「知ってるって。それでも言いたくなることってあるじゃん。ミッキーってばそういうとこあるよね。そんなだからモテないんだよ」


「だ、ダンジョン委員は理論的にはモテるんだ」


「現実としてモテてないじゃん」


「言うな!」


 右腕を鞭のように振るう。手には刃渡り20cm程度のナイフ。その切っ先は託美の首元を向いていた。

 風切り音がして、悲鳴が上がる。


「グゲッ」


 断末魔と共に崩れ落ちたのは、緑の肌をした小人。耳先はとがり、毛の一本も生えていない。

 一般にゴブリンと呼ばれるモンスターだった。小柄で力は弱いがすばしこく、奇襲を行う知能がある。力押しタイプの託美が苦手な敵だった。


「うわキモ!体液かかっちゃったじゃん!」


「変な話して集中切らすからだろ!それにダンジョンのモンスターは雑菌とか持ってないから衛生的だぞ」


「そういうことじゃないって、のお!」


 剣を吊っていた拘束が外れる。託美が振りかぶった時には、幹人はその後ろに回っていた。

 ぼん、とレジ袋を思いきり膨らませたときのような音。わき道から飛び出してきたゴブリンたちは、その一撃でまとめて刈り取られる。

 しばらく緑色の体液を噴き出していたが、十秒も経たないうちにその体は融けて崩れ、地面に浸みて消えていった。 託美の頬に付いていた体液も、もう残っていない。


「で、今日はこのダンジョン潰すのよね?」


「そうなってる。今日中に終わらなかったら明日もだけど」


「そーんなちびちびやってられっかっての。早く終わらせてマック行こ。シェイクおごってね?」


「いつも僕が奢ってばかりだろ!たまには気を遣えよ!」


「いーじゃんこっちは運動してるんだしさー」


「僕もやってるんだよ!?だいたい動くのが嫌ならもっと小さい剣使えよ!」


「なに言ってんのベンジャミンはあたしの愛剣だぞ!あんたデリカシーってもんが無いの!?」


「名前つけてたのそれ!?」


 言い争いながらも、託美の大剣は周囲の敵を薙ぎ払い、残った連中を幹人が片付けていく。そう深くは無いダンジョンは、みるみるうちに攻略されていった。

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