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幸田露伴「きくの濱松」現代語勝手訳(3)

この章では「さゝ舟」の九、十で語られていた『玉之助』が栽松に引き取られた経過が描かれますが、特に読んでいなければ、今後の話が理解出来ないというものではありません。

 其 三


 故郷の上総(かずさ)へ行ってみれば、青柳(あおやぎ)眞里谷(まりや)は皆すべて様子が変わっているため、友雪(ゆうせつ)から頼まれたことも一応断らなければと思い、小倉へ帰った後、博多へ寺用があったので、そのついでに友雪の家を訪れた。

 久々に友雪に会い、無沙汰の挨拶に続いて、玉之助(たまのすけ)の身の上について話を出し、

「一旦お話はあったけれど、故郷の現状(ありさま)がこんな具合なので、玉之助殿を内田の家に(もら)い受けたところで、ご成人するまで後見することは今の私の立場ではできません。上総にしかるべき親族(みうち)はなく、万一小生(じぶん)が病気か何かで臥せってしまえばどうにもならなくなるので、玉之助殿をお貰いすることは、折角のお話ではあるけれど、お断りした方が良いように思われます」と話した。


 友雪は流石に心得た老人で、栽松が余計な苦労を背負い込むのが厭なのだろうと早くも察したが、その物堅くて思慮の遠いところまで気が届くのをいよいよ頼もしく感じ、玉之助に内田を名乗らせておけば、栽松がいかにその任に当たらない身であっても世話をしないことはないだろうし、栽松が後ろ盾になっていれば、決して当人のために悪いことはないだろう。又、千両、二千両という結構な金額を添えて遣ろうと言えば、たとえ同じくらいの財産を持っていても、子の無い者は貰いに来るはず。いい加減なところへ婿養子に遣るほど親の無慈悲はないと、自分が昔、この家に婿に来た時のことさえ思い出して、子の行く末のことを思うと、どうしてもこの風流気があって、商家には向いていない玉之助は栽松に任すより他、適当な道は無いと思い定め、

「何もかも、こちらで申し上げることもできませんので、一切をお任せし、ご自身の段取り、やり方で結構ですので、玉之助をもらっていただきたいと思っております。失礼な言い方になりますが、棄てる子にも添え物をするというのが習いであります。子の可愛さから、本当に充分熟考した上で、貴僧を見込んでお頼みしたいと思っているのでございます。ご親類の有る無し、信頼できる、できないに関わらず、気持ちは最初と変わらないものだと信じておりますので、どうか彼めをお貰いいただく訳にいきませんでしょうか。どこまでも貴僧を信じての上でお願いすることなので、別に面倒なことは無く、お好きなようにお育てくださればそれでいい」との返答。そこまで言われれば、栽松も厭とは流石に言い兼ねて、

「そうまで仰るのであれば、玉之助を教育して、自分の家を興してもらいたいものでもある」と、(つい)に了解して、玉之助を引き連れて帰り、上総と信書を何度かやり取りした後、内田の氏を名乗らせることにしたのだった。


 もの優しい栽松はこれまで叱ったり罵ったりすることはなかったが、余りの悪戯(いたずら)に腹を立て、今後のことを考えて懲らしめようと、しつこいくらいに道理を説き聞かせ、平生(ひごろ)は余りに自分勝手なことをして他の人に迷惑をかけることが多すぎると充分に戒め、

「まあ今回は、この絵にまだ何も書かれないうちに私が見つけたからよかったものの、でなければ、相当の苦しみをお前に与えなければならないところだったぞ」と言った。

 その途端、玉山は、今までも平気な顔をして聞いていたけれど、手を打って笑い出し、

「お師匠様、申しましょうか。吃驚なさいますな、落書きはしております」と、言ったので、栽松は再び驚いて、

「何? 落書きをしていると!?」


つづく

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