表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/51

幸田露伴「きくの濱松」現代語勝手訳(14)

 其 十四


 蟲齋(こさい)に見立ててもらった帰り道、再縁と言うのは気は進まないが、一々思い当たることのある判断の言葉に、これは無理にでも従うのが良いのだろうと、小間物屋の話に乗る気になり、卯平次の家に寄ってみれば、こういう話は不思議にも寄り集まることがあるのか、女房が

「ああ、(しょう)(さん)か、たった今、さっきの話のご当人を連れて、その母親が、『買い物がてらに(まち)にいる親類を尋ねに出て来ましたが、お宅の前を通りましたので、ご無沙汰のお詫びながらに一寸伺いました』と、母親が私と知り合いなので、ここに見えました。まだ一町とは行っていないはず。惜しいことに煙草を二、三服喫()む間くらい早くお出でになったら、それとなくご覧になる好い機会だったものを」と言うと、その傍らから、亭主の卯平次が口を出し、

「女の足だから、この通りを(まち)の方へ真っ直ぐに、一町かそこら行ったほどにしかなるまい。裏通りを(しょう)(さん)と二人で行けば、それ、一方は足袋(たび)腹掛(はらがけ)を売っている店と、もう一方は葭簀(よしず)茶屋(ぢゃや)がある辻で落ち合う路だから、ゆっくり行ったところで、こっちは男の足だし、少しは近道だ。必ずこっちの方が早く着いて、私等(わしら)二人が葭簀(よしず)茶屋(ぢゃや)にでも入っている前を通るに違いない。どうだ、(しょう)(さん)、ちょっと、とってつけたようなやり方になるが、見てみたらどうだ」と言うので、正太郎は蟲齋が早くせよ、急いでせよと言った言葉が胸にあるので、その気になって、

「ムム、そうしようか」と、早くも腰を浮かせる。

 卯平次はそれを見て、笑みを浮かべながら「さあさあ」と急がすように出掛ければ、にっこりと笑いながらその後に従って歩いて行く正太郎、腹の中では、髭が伸びているのを少しは気にしているようでもあった。

 わずか四、五町も歩いて例の曲がり角に出て、用もないのに葭簀茶屋に入って無益(むだ)な渋茶を飲んでいたが、そこへ案の定、向こうから母子連(おやこづ)れでやって来る女がいる。

「あれ、あれ、あれだ」と、袖を引かれて、今更に心を動かしながら正面から見ると、先に立ったのがまさしくそれであるらしく、歳の割には老けた骨っぽい肉付きの、色の浅黒い女で、下瞼(したまぶた)が特に薄黒いのが深く憂いを沈めたようである。特に目鼻立ちが悪いというのでもないが、どことなく虫が好かないというのか、見た感じ、『直ぐにでも女房(かか)に持ちたい』という考えはどこへやら、『こいつは少し考え物だぞ』と、反対(あべこべ)の思いさえむらむらと湧き上がってきたのだった。


つづく

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ