結婚指輪の選び方でも人柄は出るものです~柊とサンタ~
瞬くと、カウンターに置かれた三対の指輪がそれぞれに光沢を放っていた。
右から、20万、30万、50万……。
額にあわせて三太の目は見開いていく。
「ひいらぎちゃん!?」
普段は散財癖があるくせに額面が大きくなると途端にビビる男に苦笑しつつ、柊は左から1つひとつ手にとっていく。
「婚約指輪だったらもっとしますよ」
小さなプラチナを翳してみながら平然と告げる。
自分から婚約指輪はいらないと辞退しておいてよかった。
高価な指輪の前で茫然とする男の姿がありありとイメージできて思わずニヤリとする。
「なにが違うのかわからんな」
そう漏らしながら恐るおそる真ん中のものを三太が手にとると、対面の店員が滑らかに商品説明を始めた。
指輪の値段は主に太さやデザイン、ブランドによって決まるということを伝えた上で、3つの違いを順に説明された。
「これだけ模様がついてるぞ」
「そうですねー、キレイなデザインですよねー」
店員は良いタイミングで相づちを打ち、三太でも知っている有名ブランドの名前を出す。
「なるほど、どうりで凝ってるわけだ」
わかったように眺め、促されるまま嵌めようとした指輪を柊が取り上げる。
「でも結婚指輪って常にしているものだから、飽きが来ないシンプルなものの方が良いんじゃないですかね。 飽きっぽい性格の人ならなおさら」
そう言って彼女は一番高価な指輪を置いた。
「こちらの二点はシンプルで人気もありますよ」
店員がすかさず次の指輪を差し出す。
「この二つ、太さがちがうな」
自分でもわかって嬉しかったのか、男はパッと灯りがついたような顔を向ける。
「こうしてみると、太い方が存在感があるな」
「そうですね。0.5ミリくらいは太いですかね」
「…0.5ミリで十万か」
値札と指輪を交互にみながら三太の表情はまた暗くなる。
「じゃあ、これか」
消去法で伸ばした手がつく前に、大袈裟なため息で柊はそれを遮った。
「もう少し手頃なものはないですか」
そして確信を持った声と視線で店員を射抜く。
今より手頃なものという発想すらなかった三太を尻目に、次の手頃な三点はしっかりと目の前に運び込まれた。
柊はどちらかというと店員の顔を見て話をした。
確かに三点の差を目利きできる自信はまるでない。
三太はそう思いながら二人の攻防を見守る他なかった。
「三太さん、これなんかどうですか? 控えめですけど邪魔にならないですし、裏側に文字が彫れるんですって」
そう言って柊はキラキラした目を向けてくる。
指輪の内側には宝石まで埋め込まれている。
「なんて掘りましょうね」
耳元で囁かれると、楽しい想像しか浮かばない。
Love Forever とか、二人のイニシャルとか、記念日とか…。
「みんな素敵でしたけど、これが一番ステキですね」
とニコやかに柊は笑いかける。
思わず、三太も笑って同意した。
もちろん、店員も。
※※※
「ありがとうございましたー」
店員は店先まで手提げ袋を持って先導する。
三太は結婚指輪を手に入れた喜びと、記念に撮ってもらった写真を手にニヤニヤしている。
柊はというと、今後の保証や手入れについて店を離れるまで店員に問い合わせていた。
「買っちゃいましたね」
はにかむように彼女は言う。
そんな柊を見れて、三太はバカみたいに幸せな気持ちになった。
「これから二人で、お揃いの指輪だな」
言っただけで恥ずかしくなるようなセリフも今日だけは許されるような気がした。
「ところで、この指輪、いくらしたの?」
帰り道、なんの気無しに聞いた言葉に、彼女は笑い出す。
「良い買い物でしたね」
珍しくハートがでるような声色をだし、柊は三太の肩に頬を乗せた。
「いや、いくら———」
「値段なんて良いじゃないですか」
「え、でも———」
「気に入ってないんですか?」
「…いや、そういう訳じ———」
「なら良かった。私はとっても気に入ってます」
ぎゅっと腕を掴まれて、三太は、まあそれならそれでいいかなと思い始める。
二人は駅前の並木道を並んで歩いた。
【柊が幸せなら、俺も幸せだわ】
なんてことを噛み締めながら、男は考えるのを止めたのだった。