エピローグ2 現実は甘くない
「金貨三千枚ということですか」
「キンカ?」
「なんでもありません」
桜葉は、改めて異世界にいるのだと痛感した。買い物を全くしないので、通貨体系自体が不明だ。
が、とにかくこの世界にもカネはあるのだ。それも、大金を手にしたっぽい。いつか、役に立つだろう。
「貯金……とか、あるんですか」
「基本的に協会で使用を管理します。さ、これをどうぞ」
クロタルが出したのは、例の「マジックカード」だった。
「三千グレン、入っております。自由にお使いください」
クレカも兼ねてんのかよ! 心で突っこみ、桜葉はそれを受け取った。クロタルの物より紋様が複雑で色も赤みを帯びた金色っぽく光っている。
「三千グレンであれば、かなりのことができますよ。生活が便利になるでしょう。使い方は覚えてますか?」
「い……いいえ」
クロタルがなるべくかみ砕いて説明する。桜葉は驚愕した。電話するのも、実況するのも、鍵をかけるのも……すなわち、このカードで「魔法」を遣うのは、全てグレンとかいう通貨を使用していたのだ。
(な、なに? この世界は魔力が通貨なのか? というより、給料は魔力でポイントが直接付与されるってこと? 現物の貨幣や紙幣が無いってこと?)
感心せざるを得ぬ。
「キャッシュレスかよ」
「キャ?」
「なんでもありません。でも……」
「なにか?」
「なんか、未来的ですね」
「未来?」
「いえ、なんでも……」
「それに、ヴェルラが正式に選帝侯国代表枠を増やす推薦をしてくれるそうです。もしかしたら、選手二人に補欠二人の、四人全員で帝都へ行けるかもしれません」
忘れていた。七選帝侯国選手権で変則ながら優勝したことにより、全国大会へ出場するのだ。
(帝国中から、あんなヴェルラクラスが来るのか……)
桜葉はもう武者震いした。
「イェフカ、アナタは昨年度三位を破った、完全な番狂わせです。大注目ですよ」
「優勝……狙いますよ」
桜葉が柄にもなく、これまでしたこともない真剣な顔つきでクロタルを見つめる。もっとも、その顔はイェフカだが。
「もちろん。私のために優勝してください」
クロタルが悪戯っ子のような顔をして、笑みを返す。しかし、桜葉の期待通りにはゆかなかった。
「あのおまじないはお預けです。あまりすると、効果が無くなる気がしますよ、フフ……」
さっと立ち上がり、クロタルは笑いながら部屋を出て行った。
しばし茫然としていた桜葉は真っ赤になって(なっていないが)年甲斐も無く身もだえ、
(クソッ、ガチで惚れるだろが、こんなの!!)
何度も不気味な半笑いで石の壁を蹴った。
窓の外を、クロタルが自分を迎えに来た同じ年頃の男性と連れ立って、桜葉へ見せたことも無い本当に嬉しそうな笑顔で歩いてゆく。
現実は、甘くない。
了
完結しました!
初の異世界ものでしたが自分なりの世界を追求して楽しく書けました。
しかし、異世界でのギャップと困惑を楽しんでいるうちにメインバトルがすげえ遅くなり、しかも試合ものなので後半はバトルオンリーというアンバランスさにw そのへん、試合しながらという手もあったかと考えてます(˘ω˘)
ありがとうございました!(・∀・)!




