第3章 6-8 勝利 ~ エピローグ1 報酬
桜葉の刀が差しなりに抜かれ、グッと鞘も引かれる。左手の操作で刀が水平となり、切っ先が鯉口から出た瞬間、右手が小指から握りこまれる。指の運動が順次に柄を伝って刀身へ伝わり、最後の切っ先がすべての力を集約して最高速度を出す。地面が陥没するほどの右足の踏みつけと共に、立ち膝に近い折敷の姿勢となっている後ろの左足も地面が抉れるほどに踏みこんで、電光石火の抜刀でヴェルラの鎌が桜葉の首筋へ突き刺さる前にイェフカ刀の切っ先がヴェルラのこめかみを割った。
鮮血と脳漿がふき出て眼玉も真っ二つに切れて飛び散る代わりにエフェクトの爆発があり、横倒しにヴェルラがぶっ飛んだ。
さらに横たわったヴェルラめがけ、瞬時に振りかぶって前に出つつ豪快に刀が振り下ろされる……!!
ブァーーーーラッタタアーーーーー!!
けたたましいファンファーレを瞬時にかき消す超絶大歓声が、競技場はおろか全選帝侯国を揺るがした。
∽§∽
「…………」
桜葉が眼を開けると、まずクロタルの顔が見えた。
(よかった……前の世界の病院じゃない)
そんなことを本気で思ってしまった。
「気分はどうですか?」
ベッドへ腰かけ直し、クロタルが囁く。
「え……いや、その……」
桜葉はゆっくりと起き上がり、イェフカとして目覚めてすぐのころのような貫頭衣を着ている自分に気がついた。
「ふつうです」
「試合に勝ったのは覚えてますか?」
「それは……覚えてますが……」
勝ってからが、覚えてない。
「魔力炉の消費がよほど激しかったのでしょう。三人とも、普段の倍以上の食事をしたのち、機能停止めいて倒れてしまいました」
「三人とも……て、ヴェルラもですか?」
なんて図々しい。勝手に指導に来て飯を食って帰るなんて。
「相撲の出稽古じゃねえんだから」
「スモー?」
「なんでもありません」
「でも、参加費をちゃんと払いましたので、侯もお認めに」
「参加費」
「それも、相場の倍近い」
「へえ……」
「それより、優勝しましたよ。イェフカ。おめでとうございます」
「ん……」
いきなり、クロタルがキスをしてくる。
「この不思議なおまじないのおかげですね」
「そ……そーーーですね! ふへっ、ふ……」
半笑いで固まる。もう最後までこれで行くしかない。うまくいったやら、自棄になるやら。
「侯は感涙で、髭もとれてしまったそうです。博士も満足げです。懸案だった零零四型開発予算も、これで無事につくことでしょう。それに、賞金が出てますよ」
「賞金が!」
「三千グレンです」
「三千グレン」
まったく価値が分からなかった。




